【R18】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

澤谷弥(さわたに わたる)

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第八章(4)

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 定食のトレイを手にして空いている席へとつく。

「朝はきちんと起きて、散歩もしていたし、朝食もとっていたからな……まさか、昼食を抜くとは盲点だった。もしかして、夕食もか?」
「……うっ」

 ラウルが忙殺されているのをいいことに、昼食も夕食も、お腹が空いたら何かを口にするという以前のような食生活に戻っていた。

「俺がいないときは、エドガー殿に頼んでいたのだが……」

 だからエドガーがしつこく誘っていたのだ。

「昼食の誘いはことごとく断られた。無理だと言われた、とエドガー殿から報告があった」
「はぁ、そうですね。だって、エドガー先輩ですし……。別に今さら、エドガー先輩とこんなふうに食事って……気まずいですよ」
「なるほど。俺ならいいけどエドガー殿はダメということだな?」

 スプーンを唇の前でピタッと止めたリネットは、少し考えてからそれを咥える。

「まぁ……そういうことになりますかね?」
「では、次からはブリタ殿に頼んでおこう」

 するとまた、リネットのスプーンを持つ手がピタッと止まる。

「シーナさんかモアさんか。そちらのほうが会話は続くので……」
「わかった」

 そう答えるラウルの声は、どこか弾んでいた。

「明日からはまた、昼と夜は一緒に食事ができないが。きちんと食べるように」
「……はい。でも、明日からって……皇帝が来るんですよね……あんまり、外に出たくないっていうか……部屋にこもっていたいっていうか……」
「あぁ。まぁ、そうだな。では、エドガー殿に君の食事を運んでもらうよう、頼んでおく」
「そこは、エドガー先輩なんですね」

 リネットがふぅと息を吐けば、ラウルは苦笑する。

「俺と君の共通の知り合いがいいだろう? ヒースも同じ警備担当だしな」

 さらに彼には猫の世話という大役がある。
 そうなるとやっぱりエドガーになるのだ。

「だが、君の言うとおり、皇帝が来ている間はあまり外に出ないほうがいいだろう。魔法院の中にいるか、俺の部屋にいるか……」
「まぁ。いつもと変わりませんね。そこの往復ぐらいしかしてませんし。たまに図書館に行くくらいで」
「そうか……そうだな。とにかく、一人でふらふら出歩かないように」 

 ラウルなりに心配しているのが伝わってきた。一応、彼との関係は「恋人同士」から「婚約者同士」に格上げしている。

「ラウルさんは、明日以降、もっと忙しくなりますよね?」
「あぁ……そうだろうな。何もなければ、今までとあまり変わらないとは思うが……」

 言葉を濁すというのは、何かがあると思っているのか。

「帰ってこれないときとかもありますよね?」

 騎士団の仕事なんて、泊まりや遠征などザラにある。彼が呪われて三ヶ月、ラウルと行動を共にしていたリネットだが、今までのほうが稀なのだ。

「場合によってはそうかもしれない。そうならないように、祈るしかないな」

 恐らくラウルは暴動を危惧している。裏通りにはキサレータから逃れた人たちが細々と生活しているのだ。彼らにとって皇帝は恨みの対象になっているだろう。その恨みを刺激されたら、彼らはここぞとばかりに暴れるかもしれない。

 リネットはきょろきょろと周囲を確認してから、ラウルの前に小さな瓶を置いた。

「これ。万が一のときの抑制剤です」
「抑制剤?」
「はい。私たちのどちらかに何かがあったときようです」

 つまり、「おはようのキス」ができず、ラウルがムラムラしたときよ用の抑制剤だ。

「ラウルさんにかけられた呪い。ある程度、目星がついたのですが……。解呪方法が本当にそれでいいのか、今、最後の確認をしています」

 リネットの視線は目の前のパンに注がれたまま。

「わかった。これは、ありがたくもらっておく。まぁ、これを使うような状況にならないのが一番なのだが……」

 ラウルの言うとおりだ。

「えっと……今回の件、すべてが終わったら、解呪方法を試してみたいと思います」
「わかった。そのときは改めて……」

 そこでラウルが肉を頬張ったものだから、言葉の先は消えた。
 食事を終えると、ラウルが研究室まで送ってくれた。

「今日も遅くなると思うが、夕食はしっかりと食べなさい」
「はい」

 渋々と返事したリネットだが、エドガーとの夕食を想像しただけで気が重くなる。

 ラウルを見送って研究室に入れば、先に戻っていた三人からニヤニヤとした視線を向けられる。
 リネットはそれを気にせず、黙って自席についた。

 その日の夕方、リネットを夕食に誘ってくれたのはモアだった。

「ハリー団長から頼まれましたので!」

 先日も薬草の件で世話になったばかり。ラウルがいなくても個人的に顔を合わせる中になっていたが、このように食事をするのは初めてだ。

 食堂での食事だが、モアのおかげで夕食も楽しめた。
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