【R18】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

澤谷弥(さわたに わたる)

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第八章(5)

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 街は賑やかな歓迎ムードに包まれている。
 それでもリネットはいつもと変わらず研究室でため息をついた。

「またリネットが不細工になってる」
「もしかして、団長さんと会えていないの?」

 エドガーは相変わらずだが、女性魔法師はリネットの心を理解している。

「まぁ、そうですね。でも、あの件があるので、朝だけは顔を合わせますが……」

 そしてキスをしたら、彼はすぐに去っていくのだ。夜だって戻ってこない。

 朝、リネットが目を覚ますだろう時間にやってきては、食事を持ってくる。そしてキスをして終わり。
 人に三食きっちり食べろというラウルだが、彼はいつ食事をしているのだろうと思えるほど。

「っていうか、あの皇帝。どんだけいるつもり? もう五日目じゃん?」

 エドガーが言うように、アルヴィスがセーナス王国にやってきて五日経った。一日目はアルヴィスをもてなした晩餐会が開かれたと聞いている。そこで彼が大げさに謝罪したらしいが、リネットは噂でしか聞いていないし、その噂の出所がエドガーなので、真偽も疑わしい。

「今夜は、国内の貴族たちも呼んで、パーティーらしいよ?」

 そう言われても「そうなんですね」としか答えようがない。

「エドガー先輩は、いったいどこからそんな情報を仕入れてくるんですか?」
「師長だよ。しかも師長は、強制参加らしいよ? 今夜のパーティー」

 毎朝、リネットたちの様子を見るために顔を出してくるブリタだが、特別な報告がなければ話すこともない。だというのに、エドガーはいつの間にかちゃっかり情報収集している。

「今日も団長さんは、夜、遅いのかな?」

 ニヤリと笑うエドガーにぷいっと顔を背け、リネットは再び資料に視線を落とした。




 部屋で一人で食べる夕食は味気ない。だからといって、パーティーなど華やかな場所で食事をしたいわけでもない。リネットが望むのはただ一人。

 それでも彼は帰ってくることはできないだろう。特に今日は、国内の偉い人たちが集められているのだから。

 アルヴィスがすぐそこまでやって来ている恐怖と、ラウルが側にいない寂しさと。その二つの気持ちに押しつぶされそうになる。

 リネットが導き出した「毎日『おはようのキス』をしないと発情する呪い」の解呪方法。その方法が正しいのか最終検証を行っているが、目の前に並ぶ文字が滑って、頭の中に入ってこない。

 心臓が変にバクバクと音を立てている。嫌な予感とでもいうのか。
 こんなときは朝を流してさっぱりして、寝るしかない。
 そう思って立ち上がれば、扉をノックする音が聞こえた。

 コンコン、コンコン――。

 ラウルであれば、ノックもせずに鍵を開けて入ってくるし、こんな時間にラウルが戻ってくるとも思えない。
 誰だろうと思いつつ、リネットはそっと扉を開けた。

「あ、リネットさん。やっぱりこちらにいらしたんですね」

 モアだった。こんな時間だというのに騎士服をビシッと身につけている。彼女もまだ仕事中なのだ。

「どうしました?」
「はい。あの……非常に言いにくいんですけども……ハリー団長が怪我をされまして……」
「え?」

 一瞬、リネットの頭の中が真っ白になった。

「街中で暴動が起きたんです。帝国から逃げてきた難民が、パーティー会場に押し寄せてきて……」

 それはラウルも懸念していたことだ。キサレータ帝国に不満を持つ者たちが結束して一つになれば、脅威になるだろうと。

「他にも怪我人がたくさん出て。私たちでは応急処置しかできないから、魔法師の方を呼んでこいって……」

 だからモアがリネットを呼びに来たようだ。

 しかもこの時間となれば、他の魔法師たちも自宅に戻っている。誰かが連絡を飛ばして、すぐに駆けつけたとしても、それなりに時間がかかる。

 だったらその間、リネット一人でも治療に当たったほうがいい。
 それにラウルの怪我というのは、どの程度のものなのか。

「わかりました。すぐに行きます」

 リネットは魔法院のローブを羽織り、部屋を出た。

「あの……ラウルさんの怪我の具合というのは……」
「私も詳しくはわかっていなくて……。とにかく今、怪我人の治療のために、魔法師の方を――」

 そこでリネットの意識は途切れた。




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