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第一章(5)
それはリネットにとっても願ってもない話だ。
「はい。私のほうからもぜひともお願いしたいくらいです。セーナス王国に来ようと思ったのも、魔法が使える者を魔法師として国が管理しているという話を聞きまして……」
「帝国はそうじゃないんだね?」
ブリタの言葉に「はい」とリネットは頷く。深緑の髪が、窓から差し込む柔らかな光に照らされ、さらりと揺れる。
「恐らくですが、帝国内に魔力を持つ人間はほとんどいないようです。もしくは持っていても隠しているのではないでしょうか。だって、皇帝がアレですから。だけど、スサ小国は人口のわりには魔力を持っている人間が多いのです。王族であれば、確実に魔力を備えています。それで……私が十四歳のときに皇帝がスサにやってきました」
属国で力のないスサ小国は、帝国の命令に従うしかない。魔力のある人間を帝国に寄越せと言われたら、断れない。
「帝国って、略奪婚をしても『アレがもげる』呪いが発動するんです。ある意味、性交についてはしっかりしている国だと思います。だから当時、末っ子で結婚もしていない、婚約もしていない私が、皇帝のお眼鏡にかなったわけです」
末娘だったリネットは、両親に甘やかされ、手元に置かれていた。その愛情が裏目に出たのだ。よりによって皇帝に目をつけられるなんて、誰が予想できただろうか。
あの事件以降、スサ小国では王族の血を引く者は十歳までに婚約者を決めるしきたりができたと聞く。
「そこから四年とちょっと、皇帝の側妃という立場にありましたが、基本的には魔法具を作っていました」
そこでエドガーが口を挟む。
「帝国はさ、魔力を持つ人間が欲しいって思ってたんでしょ? まして、魔法具まで作れるんだったら、普通なら手放さないんじゃないの? なんで、ぽいって捨てられて、あんなところで行き倒れていたのさ」
「それは……」
リネットが成人を迎えてからアルヴィスに受けた仕打ちを語ると、エドガーは口をあんぐりと開けた様子で固まった。ブリタに至っては、目頭を押さえ、静かに息を吐いた。
「とにかく、今、あんたはここで生きている。それが一番大事なことだ」
先ほどと同じような言葉だが、それはリネットにとっても力強いもの。そしてブリタの声は優しい。
「はい。私を助けてくださったエドガー様には、感謝してもしきれません」
慣れない『様』付けで呼ばれたエドガーは顔を赤らめ手を振った。
「僕、そういう柄じゃないから、やめてくれない?」
「だけどね、リネット。この国の魔法師になるってことは、ここの国民になるってことなんだ。だから、誰かの養子に入ってもらうことを考えているんだけど……それは、問題ないのかい?」
新しい家族ができる。だが、それはスサ小国に残してきた家族との縁を断つことになるかもしれない。
ブリタが慎重に確認してきたのは、そのためだろう。
「はい、先ほども言いましたように、私はもうスサには帰れません。帰ったところで両親にも迷惑をかけてしまいますし……。それにまた、皇帝の気が変わって私を連れ戻すかもしれません。それまでに結婚できていればいいですけど、皇帝のお手付きを欲しいと思う人は、あのスサにはいないでしょう」
リネットの話を聞いたブリタは「そうかもね」と相槌を打った。
「わかったよ。あんたんとこを養子にしてくれそうな人を、適当に見繕っておくから」
「これが権力のなせる業なんだよ」
エドガーが茶々を入れた。そんな彼を軽く睨みつけてからブリタは言葉を続ける。
「それまであんたはここの患者だ。体力が回復するまで、ゆっくり休みなさい」
ブリタの言葉が嬉しくて、鼻の奥がツンと痛む。温かいスープの香りと彼女の母のような優しさに、胸が熱くなる。
「師長。幼気なお嬢さんを泣かせてはダメでしょ」
先ほどエドガーが言われた言葉を、彼はそのままブリタに返した。
そんな二人の軽いやり取りすら、リネットにはほほ笑ましいものに見えた。
「はい。私のほうからもぜひともお願いしたいくらいです。セーナス王国に来ようと思ったのも、魔法が使える者を魔法師として国が管理しているという話を聞きまして……」
「帝国はそうじゃないんだね?」
ブリタの言葉に「はい」とリネットは頷く。深緑の髪が、窓から差し込む柔らかな光に照らされ、さらりと揺れる。
「恐らくですが、帝国内に魔力を持つ人間はほとんどいないようです。もしくは持っていても隠しているのではないでしょうか。だって、皇帝がアレですから。だけど、スサ小国は人口のわりには魔力を持っている人間が多いのです。王族であれば、確実に魔力を備えています。それで……私が十四歳のときに皇帝がスサにやってきました」
属国で力のないスサ小国は、帝国の命令に従うしかない。魔力のある人間を帝国に寄越せと言われたら、断れない。
「帝国って、略奪婚をしても『アレがもげる』呪いが発動するんです。ある意味、性交についてはしっかりしている国だと思います。だから当時、末っ子で結婚もしていない、婚約もしていない私が、皇帝のお眼鏡にかなったわけです」
末娘だったリネットは、両親に甘やかされ、手元に置かれていた。その愛情が裏目に出たのだ。よりによって皇帝に目をつけられるなんて、誰が予想できただろうか。
あの事件以降、スサ小国では王族の血を引く者は十歳までに婚約者を決めるしきたりができたと聞く。
「そこから四年とちょっと、皇帝の側妃という立場にありましたが、基本的には魔法具を作っていました」
そこでエドガーが口を挟む。
「帝国はさ、魔力を持つ人間が欲しいって思ってたんでしょ? まして、魔法具まで作れるんだったら、普通なら手放さないんじゃないの? なんで、ぽいって捨てられて、あんなところで行き倒れていたのさ」
「それは……」
リネットが成人を迎えてからアルヴィスに受けた仕打ちを語ると、エドガーは口をあんぐりと開けた様子で固まった。ブリタに至っては、目頭を押さえ、静かに息を吐いた。
「とにかく、今、あんたはここで生きている。それが一番大事なことだ」
先ほどと同じような言葉だが、それはリネットにとっても力強いもの。そしてブリタの声は優しい。
「はい。私を助けてくださったエドガー様には、感謝してもしきれません」
慣れない『様』付けで呼ばれたエドガーは顔を赤らめ手を振った。
「僕、そういう柄じゃないから、やめてくれない?」
「だけどね、リネット。この国の魔法師になるってことは、ここの国民になるってことなんだ。だから、誰かの養子に入ってもらうことを考えているんだけど……それは、問題ないのかい?」
新しい家族ができる。だが、それはスサ小国に残してきた家族との縁を断つことになるかもしれない。
ブリタが慎重に確認してきたのは、そのためだろう。
「はい、先ほども言いましたように、私はもうスサには帰れません。帰ったところで両親にも迷惑をかけてしまいますし……。それにまた、皇帝の気が変わって私を連れ戻すかもしれません。それまでに結婚できていればいいですけど、皇帝のお手付きを欲しいと思う人は、あのスサにはいないでしょう」
リネットの話を聞いたブリタは「そうかもね」と相槌を打った。
「わかったよ。あんたんとこを養子にしてくれそうな人を、適当に見繕っておくから」
「これが権力のなせる業なんだよ」
エドガーが茶々を入れた。そんな彼を軽く睨みつけてからブリタは言葉を続ける。
「それまであんたはここの患者だ。体力が回復するまで、ゆっくり休みなさい」
ブリタの言葉が嬉しくて、鼻の奥がツンと痛む。温かいスープの香りと彼女の母のような優しさに、胸が熱くなる。
「師長。幼気なお嬢さんを泣かせてはダメでしょ」
先ほどエドガーが言われた言葉を、彼はそのままブリタに返した。
そんな二人の軽いやり取りすら、リネットにはほほ笑ましいものに見えた。
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