【R18】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
8 / 88

第一章(6)

 リネットの気持ちが落ち着いたところで、ブリタは紅茶を淹れた。ティーポットから立ち上る湯気と、ほのかに甘い香りが部屋を満たす。

「師長の紅茶なんて、怖くて飲めない」

 そう言いながらも、エドガーは早速カップに口をつけている。

「帝国には、他にどれだけ魔法が使える人間がいるんだい?」

 ブリタが不意に尋ねた。

「お城の外はわかりませんが……。皇帝には私を含め、五人の側妃がいたのですが」

 そこでエドガーが「ぶほっ」と噴き出し、慌てて口を押さえる。

「五人? 五人もいるの? あのおっさん……」

 五人『も』なのか、五人『しか』なのかは個人の見解によって異なるが、エドガーは五人『も』という感覚のようだ。

「はい。でも私は捨てられたので、側妃は四人となりました。皇帝の子を最初に授かった人が正妃になれると言われていたのですが……。残念ながら、子を授かった人はおりません」
「ん? もしかして皇帝って不能?」

 なぜかエドガーは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「いいぇ。ヤることはヤるんですけど。恐らく、子種のほうに問題が……」
「なんだ、種なしか」

 エドガーのつぶやきに、リネットは曖昧に微笑み、肯定も否定もしない。

「他の四人も魔力持ちなのかい?」

 ブリタの問いにリネットは「はい」と答える。

「スサ以外にもまだ属国はありますから。そちらで見つけた魔力を持つ女性だと思います。側妃同士、交流はないのです。皇帝が、私たちが手を組むことを恐れていましたから」

 だからいつも一人だった。心の中にはあのときの寂しさがじんわりと広がるかのよう。

「ですが、他の四人は私よりは魔力が弱いものと思われます。魔法具を作らされていたのは私だけですから」
「それで、あんたの作る魔法具ってどんなやつなんだい?」

 ブリタが次から次へと話を促す。

「生命力を魔力に転換することで、魔力のない人間でも魔法――すなわち四元素を操れるものです。皇帝は、火を好んでよく使っていましたが」

 ブリタは苦虫をかみつぶしたように、眉間に深くしわを刻んだ。エドガーも、口元まで運んだ紅茶のカップを、唇にくっつけたまま静止する。

「あの……どうかされましたか?」

 リネットはおろおろとブリタとエドガーの顔を交互に見やる。

「いや……。やっぱりあんたをその辺に放り投げておくのは危険だというのがわかった。この国の魔法師になったら、私がきっちり面倒をみてあげるからね」
「はい。ありがとうございます」
「よかったね、エドガー。魔法師になって五年目。エドガーにとっては初めての後輩魔法師だ」
「そうなんですね、エドガー様は先輩魔法師。エドガー先輩とお呼びしてもよろしいですか?」

 目を大きく見開いたエドガーは、ふいっと顔を逸らす。

「様付けよりはマシだね」
「素直じゃない先輩なんだよ」

 ブリタが目を細めた。

「そうそうリネット。あんたは魔法師になってやってみたいこととかあるのかい? 私としてはさっきの魔法具も興味深いし、この帳面に書かれている呪いについても研究してもらってもいいかなと思っている。呪いについては、詳しい者がこの国にはいないんだよ」
「はい。私もできれば呪いを専門的に研究していきたいです。だってキサレータはあれだけ巨大な帝国なのに、あの国全体に呪いをかけた人物がいるんですよ? すごくないですか?」

 リネットの目はきらきらと輝き、声にも熱がこめられる。

「そうだね。しかも、アレがもげるって……。どういう経緯でそういう呪いになったのか、気になるね」
「ですよね、そう思いますよね! 別にキサレータの呪いを解くつもりはないのですが。でもアレがもげるって、考えたらおかしくないですか? よっぽどのことがあったんでしょうね」

 ふふふ……とリネットが声をあげて笑い出した。

「男の僕からしたら、痛い話だけどね!」

 エドガーが口を挟んで顔をしかめた。

「呪いとは人の気持ちが具現化したものと言われているからね。そうしなければならない状況が過去にはあったんだろうね。呪いを調べることでその国の内情がよくわかる。帝国に対抗する力をつけたいというのであれば、呪いを解読するのも一つの方法だ」

 ブリタの言葉に背中を押され、リネットに心に目標が芽生えた。

 だが、まずは心身ともに回復を望まれた。リネットが正式に魔法師と認められるまでは、治療室でたっぷりと休養をとることとなった。

 後日、セーナス国民となったリネットは正式に魔法師に任命され、各国の呪いの研究に夢中になって取り組み始めた。

 今までの針の筵のようなキサレータ帝国の生活から解放され、安心したのだろう。

 そのせいか、リネットは研究以外ではすっかりと気が抜け、ずぼらな一面を見せるようになってしまった。
感想 18

あなたにおすすめの小説

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」

まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。 そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。 「…おかえり」 ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。 近い。甘い。それでも―― 「ちゃんと付き合ってから」 彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。 嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。 だから一歩手前で、いつも笑って止まる。 最初から好きなくせに、言えない彼女と。 気づいているのに、待っている俺の話。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。 【完結済:全9話】