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第一章(7)
* * *
ラウル・ハリーはセーナス王国騎士団、第七騎士団の団長を務める。
複雑な出生のラウルは、ハリー伯爵家の猶子となった。つまり、相続権を持たない名ばかりの子だ。だから絹糸のような銀色の髪も蒼穹の空を思わせる瞳も、ハリー伯爵夫妻とはまるで似ていない。
それでもラウルにとってハリー伯爵夫妻は育ての親として感謝しているし、ハリー伯爵夫妻もラウルを疎んでいるわけでもない。
彼らはラウルを実子と同じように接し、実子の遊び相手としてちょうどいいとでも思っていたのだろう。
ハリー家の嫡男、イアンは文官として王城で働いている。そんなイアンを守れるようにと騎士を目指したラウルだが、配属されたのは平民が多く集まる第七騎士団。他の貴族子息であれば辞めたくなる掃きだめのような部署だったが、ラウルにとっては居心地のよい居場所でもあった。
何より彼らは飾らない。家族のために騎士であろうとする者か、金のために職務を全うしようとする者たちの集まり。
ラウルも名ばかり伯爵子息だから、実のところ、彼らとさほど代わりはなかった。
そうやって気の合う仲間たちと切磋琢磨しあっていたら、騎士になって八年目、第七騎士団の団長に任命されてしまった。そしてこれに反対する者など誰もいない。
第七騎士団の騎士らも、他の部署から偉そうな団長が来るよりは、なんちゃって貴族のラウルのほうが気の知れた仲だし、あげく、彼が情に厚く、世話好きなこともよく知っている。身体はひょろっとしているように見えるが、騎士服によって鍛えられた身体が隠されているだけ。どうやら着痩せする体型で、かつ整ったやさしげな顔立ちも相まって、女性からの人気も高い。まして第七騎士団といえば、人々にとって身近な騎士団としても知られている。
だから王都の見回りに出れば、女性たちから黄色い声をかけられるだけでなく、必ず猫を拾ってくるとか、迷子になっていた子どもを連れてくるとか、歩けなくなっていた老婆をおんぶして目的地まで連れていったとか、そういった話もよく聞く。
そんな彼の性格に頭を悩ませているのは、副団長のヒースだろう。
人助けは素晴らしい。騎士の鑑だ。そう誰もが思っているし、ヒースだって人助けをするなとは言わない。
ただ、やたらめったら猫を拾ってくるおかげで、第七騎士団の官舎の庭は、ちょっとした猫園になっている。ラウルが拾ってきた猫は、最終的にはしかるべき人にもらわれていくが、そこにいたるまでの間、猫たちは宿舎の庭で飼われていた。
そしてその猫の世話をしているのがヒースなのだ。ラウル自ら世話をすると言っていたが、それでは団長の執務が滞ってしまう。むしろ執務をやりたくないがために猫の世話をすると言い出したのでは? と思ってしまうほど。
とにかく今、副団長のヒースの仕事には猫の世話も含まれていた。
そんな第七騎士団に転機が訪れたのは、ヤゴル遺跡への派遣依頼だろう。
ヤゴル遺跡とはセーナス王国の北に位置する古の遺跡だ。何百年も前に滅んだ部族が住んでいた場所とも言われているが、今では埋蔵文化財包蔵地に指定されている。ここには定期的に研究者や調査官などの文官たちが派遣され、発掘調査が行われていた。
そのヤゴル遺跡が荒らされたと、王国騎士団に通報が入った。こういった地方の初動に当たるのは第七騎士団の任務である。状況を確認し、その後、どこの騎士団、もしくは魔法師を派遣するが決められる。
そのためラウルはヒースをはじめとする第七騎士団の面々を連れてヤゴル遺跡へと向かった。留守中の猫の世話は、他の騎士に任せた。
現地では、調査員たちから状況を確認し、荒らされた場所、状況など現場確認を行う必要がある。
ラウルも現地調査責任者に連れられ、ヤゴル遺跡へと入った。今回のヤゴル遺跡での調査は、数百年前の儀式に使われた宝物が埋められたと思われる場所の発掘作業だった。
その場所が見事に掘り起こされていたのだ。
「こんなやり方では遺物に傷がついてしまうというのに……」
ラウルたちを現地に案内した調査責任者は、荒らされた現場を見て膝をつき嘆いた。
彼が言うように、土は無造作に掘り起こされ、中に埋もれていただろう何かを探した形跡があった。
「とりあえず、荒らされた場所の広さを記録しよう。位置については、事務所内にあった地図で確認する必要があるな」
ラウルが一人一人に指示を出し、作業を開始する。どういった場所が荒らされたのか、盗られた物はないか、怪しげな毒などが周辺にばらまかれていないか、などなど。
ラウル・ハリーはセーナス王国騎士団、第七騎士団の団長を務める。
複雑な出生のラウルは、ハリー伯爵家の猶子となった。つまり、相続権を持たない名ばかりの子だ。だから絹糸のような銀色の髪も蒼穹の空を思わせる瞳も、ハリー伯爵夫妻とはまるで似ていない。
それでもラウルにとってハリー伯爵夫妻は育ての親として感謝しているし、ハリー伯爵夫妻もラウルを疎んでいるわけでもない。
彼らはラウルを実子と同じように接し、実子の遊び相手としてちょうどいいとでも思っていたのだろう。
ハリー家の嫡男、イアンは文官として王城で働いている。そんなイアンを守れるようにと騎士を目指したラウルだが、配属されたのは平民が多く集まる第七騎士団。他の貴族子息であれば辞めたくなる掃きだめのような部署だったが、ラウルにとっては居心地のよい居場所でもあった。
何より彼らは飾らない。家族のために騎士であろうとする者か、金のために職務を全うしようとする者たちの集まり。
ラウルも名ばかり伯爵子息だから、実のところ、彼らとさほど代わりはなかった。
そうやって気の合う仲間たちと切磋琢磨しあっていたら、騎士になって八年目、第七騎士団の団長に任命されてしまった。そしてこれに反対する者など誰もいない。
第七騎士団の騎士らも、他の部署から偉そうな団長が来るよりは、なんちゃって貴族のラウルのほうが気の知れた仲だし、あげく、彼が情に厚く、世話好きなこともよく知っている。身体はひょろっとしているように見えるが、騎士服によって鍛えられた身体が隠されているだけ。どうやら着痩せする体型で、かつ整ったやさしげな顔立ちも相まって、女性からの人気も高い。まして第七騎士団といえば、人々にとって身近な騎士団としても知られている。
だから王都の見回りに出れば、女性たちから黄色い声をかけられるだけでなく、必ず猫を拾ってくるとか、迷子になっていた子どもを連れてくるとか、歩けなくなっていた老婆をおんぶして目的地まで連れていったとか、そういった話もよく聞く。
そんな彼の性格に頭を悩ませているのは、副団長のヒースだろう。
人助けは素晴らしい。騎士の鑑だ。そう誰もが思っているし、ヒースだって人助けをするなとは言わない。
ただ、やたらめったら猫を拾ってくるおかげで、第七騎士団の官舎の庭は、ちょっとした猫園になっている。ラウルが拾ってきた猫は、最終的にはしかるべき人にもらわれていくが、そこにいたるまでの間、猫たちは宿舎の庭で飼われていた。
そしてその猫の世話をしているのがヒースなのだ。ラウル自ら世話をすると言っていたが、それでは団長の執務が滞ってしまう。むしろ執務をやりたくないがために猫の世話をすると言い出したのでは? と思ってしまうほど。
とにかく今、副団長のヒースの仕事には猫の世話も含まれていた。
そんな第七騎士団に転機が訪れたのは、ヤゴル遺跡への派遣依頼だろう。
ヤゴル遺跡とはセーナス王国の北に位置する古の遺跡だ。何百年も前に滅んだ部族が住んでいた場所とも言われているが、今では埋蔵文化財包蔵地に指定されている。ここには定期的に研究者や調査官などの文官たちが派遣され、発掘調査が行われていた。
そのヤゴル遺跡が荒らされたと、王国騎士団に通報が入った。こういった地方の初動に当たるのは第七騎士団の任務である。状況を確認し、その後、どこの騎士団、もしくは魔法師を派遣するが決められる。
そのためラウルはヒースをはじめとする第七騎士団の面々を連れてヤゴル遺跡へと向かった。留守中の猫の世話は、他の騎士に任せた。
現地では、調査員たちから状況を確認し、荒らされた場所、状況など現場確認を行う必要がある。
ラウルも現地調査責任者に連れられ、ヤゴル遺跡へと入った。今回のヤゴル遺跡での調査は、数百年前の儀式に使われた宝物が埋められたと思われる場所の発掘作業だった。
その場所が見事に掘り起こされていたのだ。
「こんなやり方では遺物に傷がついてしまうというのに……」
ラウルたちを現地に案内した調査責任者は、荒らされた現場を見て膝をつき嘆いた。
彼が言うように、土は無造作に掘り起こされ、中に埋もれていただろう何かを探した形跡があった。
「とりあえず、荒らされた場所の広さを記録しよう。位置については、事務所内にあった地図で確認する必要があるな」
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