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第三章(1)
「えぇと。なんで団長さんはここにいるのでしょうか?」
リネットは図書館の地下書庫で、ヤゴル地区に関する文献を探していた。古い紙の匂いは嫌いではない。どこか、香ばしいような、そんな匂いがする。
書庫は薄暗いが、人がいる場所は魔法灯によって照らされている。魔法灯は魔力を源として明かりを灯す。リネットがこの国にやってきて作った魔法具だが、図書館や資料室などではオイルランプの代わりに使われていた。
「昼休憩の時間だからだ」
「それは一般的な話であって、私には必要のない概念です」
「そう言うと思ったから、迎えに来たんだ。昼ご飯、食べに行くぞ」
「いりません。子どもじゃあるまいし。お腹が空いたら勝手に食べますから」
ドンとラウルが壁ドンならぬ本棚ドンをして、リネットを自身の身体の下に閉じ込めた。銀色の髪が魔法灯によって照らし出され、青い瞳は真剣にリネットを見つめている。
「だからだ。今朝も言ったが、君の生活は不規則すぎる。とにかく、食事の時間を決め、身体を規則正しい時間に慣れさせるんだ」
なんて答えたらいいかわからず、リネットは、ふぅと息を吐く。
「お腹、空いていないんですよ」
「わかっている。だが、空腹を待っていたら、君はいつまでも食事をしない。一日一食で済ませることが多いと、エドガー殿から聞いている」
どうやらエドガーはリネットの情報をラウルに売ったようだ。
裏切り者、と心の中で叫ぶ。
「わかりました。じゃあ、後で適当に行きますから、団長さんはお先にどうぞ」
「ダメだ。俺と一緒に食堂へ行く」
「どうしてですか?」
「……それは」
なぜかラウルが口ごもる。
「団長さん。今、私と団長さんは恋人同士とかそんな変な噂が広がり始めているんです。それなのに、二人揃って食堂で食事をしたら、噂が事実だと思われてしまうではありませんか」
「だからだ!」
だからと言われても、リネットはピンとこない。
「俺と君は恋人同士。その設定を利用しようと思う」
「利用ですか?」
「そうだ。どちらにしろ、俺たちは毎朝、キスをしなければならない。考えてもみろ。恋人同士でもないのに、毎朝キスをする関係って……どんな関係だ?」
「ですから患者と治療者です」
リネットはしれっと答えるが、ラウルの表情は曇ったまま。
「事実はそうかもしれないが、それを周囲に知られてはならない……。それは、俺が呪いにかけられていることを公表するようなものだからな……」
低い声でラウルが唸るように口にする。
確かにラウルにかけられた呪いは公にはできない。この呪いは、悪用しようと思えば悪用できる。特に、女性を商売道具のように使いたいと思っている者たちにとっては、罪悪感も持たずにこの呪いを利用するだろう。
だからこの呪いの存在そのものを知られたくない。
「そうですね。私もこの件を公にするつもりもありませんし、師長やエドガー先輩も絶対に人には話さないようにと言っていました。だから知っているのは、同じ研究室の人だけです」
「となれば、俺と君が一緒にいる理由が別に必要となる」
「友達でよくないですか?」
「友達同士はキスをするのか?」
そう問われれば、友達同士はキスをしない。少なくともリネットの中では。
「……しませんね」
リネットは首を振った。
「だろう? だが、恋人同士ならどうだ? キスをする関係とはどんな関係だ?」
なぜかラウルの顔が生き生きと輝いている。そんなにキスをする理由が欲しいのだろうか。
「そうですね。夫婦……もしくは、いずれ結婚して夫婦になる関係」
「となれば、恋人同士だな? もしくは婚約関係でもいいぞ?」
うぅ……とリネットも唸るしかない。今のラウルを説得できるような言葉が思い浮かばないのだ。
「わかりました。とりあえずは、恋人関係ということで……それよりも、団長さんは、それでいいんですか?」
「ん?」
ラウルが軽く眉を寄せた。
リネットは図書館の地下書庫で、ヤゴル地区に関する文献を探していた。古い紙の匂いは嫌いではない。どこか、香ばしいような、そんな匂いがする。
書庫は薄暗いが、人がいる場所は魔法灯によって照らされている。魔法灯は魔力を源として明かりを灯す。リネットがこの国にやってきて作った魔法具だが、図書館や資料室などではオイルランプの代わりに使われていた。
「昼休憩の時間だからだ」
「それは一般的な話であって、私には必要のない概念です」
「そう言うと思ったから、迎えに来たんだ。昼ご飯、食べに行くぞ」
「いりません。子どもじゃあるまいし。お腹が空いたら勝手に食べますから」
ドンとラウルが壁ドンならぬ本棚ドンをして、リネットを自身の身体の下に閉じ込めた。銀色の髪が魔法灯によって照らし出され、青い瞳は真剣にリネットを見つめている。
「だからだ。今朝も言ったが、君の生活は不規則すぎる。とにかく、食事の時間を決め、身体を規則正しい時間に慣れさせるんだ」
なんて答えたらいいかわからず、リネットは、ふぅと息を吐く。
「お腹、空いていないんですよ」
「わかっている。だが、空腹を待っていたら、君はいつまでも食事をしない。一日一食で済ませることが多いと、エドガー殿から聞いている」
どうやらエドガーはリネットの情報をラウルに売ったようだ。
裏切り者、と心の中で叫ぶ。
「わかりました。じゃあ、後で適当に行きますから、団長さんはお先にどうぞ」
「ダメだ。俺と一緒に食堂へ行く」
「どうしてですか?」
「……それは」
なぜかラウルが口ごもる。
「団長さん。今、私と団長さんは恋人同士とかそんな変な噂が広がり始めているんです。それなのに、二人揃って食堂で食事をしたら、噂が事実だと思われてしまうではありませんか」
「だからだ!」
だからと言われても、リネットはピンとこない。
「俺と君は恋人同士。その設定を利用しようと思う」
「利用ですか?」
「そうだ。どちらにしろ、俺たちは毎朝、キスをしなければならない。考えてもみろ。恋人同士でもないのに、毎朝キスをする関係って……どんな関係だ?」
「ですから患者と治療者です」
リネットはしれっと答えるが、ラウルの表情は曇ったまま。
「事実はそうかもしれないが、それを周囲に知られてはならない……。それは、俺が呪いにかけられていることを公表するようなものだからな……」
低い声でラウルが唸るように口にする。
確かにラウルにかけられた呪いは公にはできない。この呪いは、悪用しようと思えば悪用できる。特に、女性を商売道具のように使いたいと思っている者たちにとっては、罪悪感も持たずにこの呪いを利用するだろう。
だからこの呪いの存在そのものを知られたくない。
「そうですね。私もこの件を公にするつもりもありませんし、師長やエドガー先輩も絶対に人には話さないようにと言っていました。だから知っているのは、同じ研究室の人だけです」
「となれば、俺と君が一緒にいる理由が別に必要となる」
「友達でよくないですか?」
「友達同士はキスをするのか?」
そう問われれば、友達同士はキスをしない。少なくともリネットの中では。
「……しませんね」
リネットは首を振った。
「だろう? だが、恋人同士ならどうだ? キスをする関係とはどんな関係だ?」
なぜかラウルの顔が生き生きと輝いている。そんなにキスをする理由が欲しいのだろうか。
「そうですね。夫婦……もしくは、いずれ結婚して夫婦になる関係」
「となれば、恋人同士だな? もしくは婚約関係でもいいぞ?」
うぅ……とリネットも唸るしかない。今のラウルを説得できるような言葉が思い浮かばないのだ。
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「ん?」
ラウルが軽く眉を寄せた。
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