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第一章:結婚 x 結婚(4)
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だからユージーンは早速返事を書いた。
温室をすぐに用意すること。ただ、今まで使われていなかった場所であるから、程度はよくないかもしれないという旨を記載した。
また、他にもこちらで用意したほうがいいものがあれば、遠慮なく伝えてほしいと。
念のため、クラリスに失礼にならないか、手紙の内容をネイサンに確認してもらうことにした。
「クラリス嬢に甘くありませんか? まだ噂の真相だってわかっていないんですよ? 考えてみれば手紙ですから、もしかしたら代筆を頼んでいるとかもあるのかなって」
ネイサンはなかなか疑い深い。ただ彼は、本物のクラリスを目にしているわけだから、それだけ疑いたくなるような光景を目撃してしまったにちがいない。
「婚約披露パーティーのクラリス嬢とこの手紙を書いているクラリス嬢が同一人物であるとは、とうてい思えません。中の人が入れ替わったのではないでしょうか」
「お前も相変わらず失礼な言い方をするな。まあ、仮に二人が違う人物だったとしても、国王陛下が命じたのは、この手紙の相手であるクラリス嬢なのだろう。噂の毒女、腰巾着とは違うかもしれん」
「ユージーン様のそういう前向きなところは大好きなんですけれども、僕としてはユージーン様に害をなすような人物を疑うのが仕事ですのでね」
「わかっている」
ネイサンが心配するのもわかっているつもりだ。
だが冷静に考えて、国王がユージーンに毒女と呼ばれるような女性との結婚を命じるだろうか。
ユージーンは国王に忠誠を誓っており、魔獣討伐団を国王からの命令によって動かしている。国王からみれば、都合のいい駒のはず。
それなのに、わざわざ変な女性をあてがうだろうか。どちらかといえば、ある程度、権力のある家柄の女性をすすめてくるのではないだろうか。
いや、ベネノ侯爵家はそれなりに名の知れた家柄だ。ベネノ侯爵本人は、騎士団の近衛騎士隊長だったはず。
「ユージーン様。そんなに悩まないでください。僕が悪かったです。僕だって、ユージーン様には結婚してもらいたいですよ。だって、ほら。ユージーン様ご自身もこの場所も、いろいろと特殊なわけですから」
今までだってまったく縁談の話がなかったわけではない。頻繁にあったわけでもないが、何回か話はあった。
ユージーンだって二十六歳になった。兄弟もおらず両親を失っているユージーンにとって、次期辺境伯の話題があがると耳が痛い。
それもあって、どこかの世話好きな貴族たちは、ユージーンが二十歳になった頃から家柄や年代の釣り合うような女性を紹介してくれた。その女性と会ったこともあるし、この城館に招待したこともある。
しかし彼女たちにとって、辺境伯夫人という立場は荷が重いようだ。会って話をして城を案内して、それきり。今までの縁談は女性のほうから断られている。
それなのに、国王がクラリスとの結婚を命じてきたわけだ。
「まあ、彼女も俺の提案を受け入れてくれるそうだから、彼女とは結婚をしようと思う」
「でも、僕は思ったんです。ユージーン様が結婚すると、皆、喜ぶでしょう? となれば離婚すれば悲しみますよね?」
「おいおい、何を言いたいんだ? いっていることがコロコロと変わりすぎだろう?」
「僕だって複雑な気持ちなんですよ。ユージーン様には幸せな結婚をしてもらいたい。だからその相手が毒女でいいのかって。だけど、この手紙を見ている限りですと、僕の知っているクラリス嬢と手紙の彼女は異なる。まったくわけがわかりません」
もう少しクラリス・ベネノという女性を知る必要があるだろう。国王に正式な返事をする前に、彼女と顔を合わせることができればいいのだが、そうなればこの縁談は互いに受け入れたものだと思われてしまう。
となれば、やはり手紙で相手を探るしかない。
ユージーンが二通目の手紙を出すと、またすぐに返事が届いた。
どうやらクラリスは他に気になる異性はいないらしい。だけど二年後の離婚には応じるし、二年後には王都に戻りたいとのことだった。ただ、ユージーンに好きな女性がいるのであれば申し訳ないと、謝罪の言葉が並んでいた。むしろ、それを理由にこの結婚を断ってもらえないだろうかとまで書いてある。クラリスからはこの結婚は断れないと、丁寧な文章で書かれていた。
二通目の手紙を読めば読むほど、クラリスという女性がわからない。
温室をすぐに用意すること。ただ、今まで使われていなかった場所であるから、程度はよくないかもしれないという旨を記載した。
また、他にもこちらで用意したほうがいいものがあれば、遠慮なく伝えてほしいと。
念のため、クラリスに失礼にならないか、手紙の内容をネイサンに確認してもらうことにした。
「クラリス嬢に甘くありませんか? まだ噂の真相だってわかっていないんですよ? 考えてみれば手紙ですから、もしかしたら代筆を頼んでいるとかもあるのかなって」
ネイサンはなかなか疑い深い。ただ彼は、本物のクラリスを目にしているわけだから、それだけ疑いたくなるような光景を目撃してしまったにちがいない。
「婚約披露パーティーのクラリス嬢とこの手紙を書いているクラリス嬢が同一人物であるとは、とうてい思えません。中の人が入れ替わったのではないでしょうか」
「お前も相変わらず失礼な言い方をするな。まあ、仮に二人が違う人物だったとしても、国王陛下が命じたのは、この手紙の相手であるクラリス嬢なのだろう。噂の毒女、腰巾着とは違うかもしれん」
「ユージーン様のそういう前向きなところは大好きなんですけれども、僕としてはユージーン様に害をなすような人物を疑うのが仕事ですのでね」
「わかっている」
ネイサンが心配するのもわかっているつもりだ。
だが冷静に考えて、国王がユージーンに毒女と呼ばれるような女性との結婚を命じるだろうか。
ユージーンは国王に忠誠を誓っており、魔獣討伐団を国王からの命令によって動かしている。国王からみれば、都合のいい駒のはず。
それなのに、わざわざ変な女性をあてがうだろうか。どちらかといえば、ある程度、権力のある家柄の女性をすすめてくるのではないだろうか。
いや、ベネノ侯爵家はそれなりに名の知れた家柄だ。ベネノ侯爵本人は、騎士団の近衛騎士隊長だったはず。
「ユージーン様。そんなに悩まないでください。僕が悪かったです。僕だって、ユージーン様には結婚してもらいたいですよ。だって、ほら。ユージーン様ご自身もこの場所も、いろいろと特殊なわけですから」
今までだってまったく縁談の話がなかったわけではない。頻繁にあったわけでもないが、何回か話はあった。
ユージーンだって二十六歳になった。兄弟もおらず両親を失っているユージーンにとって、次期辺境伯の話題があがると耳が痛い。
それもあって、どこかの世話好きな貴族たちは、ユージーンが二十歳になった頃から家柄や年代の釣り合うような女性を紹介してくれた。その女性と会ったこともあるし、この城館に招待したこともある。
しかし彼女たちにとって、辺境伯夫人という立場は荷が重いようだ。会って話をして城を案内して、それきり。今までの縁談は女性のほうから断られている。
それなのに、国王がクラリスとの結婚を命じてきたわけだ。
「まあ、彼女も俺の提案を受け入れてくれるそうだから、彼女とは結婚をしようと思う」
「でも、僕は思ったんです。ユージーン様が結婚すると、皆、喜ぶでしょう? となれば離婚すれば悲しみますよね?」
「おいおい、何を言いたいんだ? いっていることがコロコロと変わりすぎだろう?」
「僕だって複雑な気持ちなんですよ。ユージーン様には幸せな結婚をしてもらいたい。だからその相手が毒女でいいのかって。だけど、この手紙を見ている限りですと、僕の知っているクラリス嬢と手紙の彼女は異なる。まったくわけがわかりません」
もう少しクラリス・ベネノという女性を知る必要があるだろう。国王に正式な返事をする前に、彼女と顔を合わせることができればいいのだが、そうなればこの縁談は互いに受け入れたものだと思われてしまう。
となれば、やはり手紙で相手を探るしかない。
ユージーンが二通目の手紙を出すと、またすぐに返事が届いた。
どうやらクラリスは他に気になる異性はいないらしい。だけど二年後の離婚には応じるし、二年後には王都に戻りたいとのことだった。ただ、ユージーンに好きな女性がいるのであれば申し訳ないと、謝罪の言葉が並んでいた。むしろ、それを理由にこの結婚を断ってもらえないだろうかとまで書いてある。クラリスからはこの結婚は断れないと、丁寧な文章で書かれていた。
二通目の手紙を読めば読むほど、クラリスという女性がわからない。
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