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本編
だんだんと罠にはまる(2)
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「この後、というのはどの後のことでしょうか。とにかくカリッド様はモニカ殿に恋人役を頼まれた。ですから、恋人らしい振舞をされればよろしいのではないでしょうか?」
「その。恋人役、というのはどこまで許されるのだ?」
「は?」
思わずイアンの眼鏡がずれそうになった。慌てて、眼鏡を押し上げて、いつもの位置へと掛け直す。
「えと、どこまで、というのは?」
「先ほど、モニカの胸に触れてしまった。柔らかくて、ふんわふんわで、とにかくたまらなかった」
右手の掌をじっと見つめているのは、先ほど触れてしまったその感触を思い出そうとしているからなのか。
「一体、外で何をやってきたんですか」
イアンがため息をつく。それはもう盛大に。
「わざとじゃない、事故だ。その、彼女が転びそうになったところに手を出したら、たまたまだ」
「たまたま? わざと、ではなく?」
「わざと、だと? できるものならやってみたい……」
そこでまた、カリッドは両手で顔を覆った。それを見て、本当にそれが事故であるということをイアンは悟った。
「カリッド様。それで今、モニカ殿は?」
あ、とカリッドは情けない顔をあげた。
「その、あ、あれだ。風呂に入っている」
「だからこちらに逃げていらしたのですね」
ふぅとイアンは息を吐いた。さて、この主をどう躾けるべきか。
「なあ、イアン。あの部屋、寝台が一つしかないのだが。その、やはり、一緒に寝るべきだろうか」
「恋人同士でしたら、一緒に寝ても問題ないのでは?」
「寝るって、普通に寝る、だよな。横になって目を閉じて、そのまま眠りにつくっていう。その、彼女をこう抱き寄せて、服を脱がせて、のほうじゃないよな」
「カリッド様のお考えになっていることがなんとなく想像できるのですが。まあ、普通の恋人同士でしたら、そこに性交渉があっても問題はありません。ですがまだモニカ殿とはそのような関係になっておりませんよね。恋人役を頼まれただけ。しかも一日目ですからね。合意のない性交渉はおやめください。それこそ、本当のパワハラになりかねませんので」
「先っちょでもダメか?」
「なんなんですか、その先っちょっていうのは」
またイアンの眼鏡がずれそうになった。
「モニカに触れるだけで、俺の下半身が大変なことになるのだが」
「我慢なさってください」
イアンにそう言われ、しゅんと肩を縮めるカリッドだが、彼は肝心なことを忘れていた。
「あ。モニカと寝る前に口づけをすることを約束してしまった……。あわよくば、と考えていたんだった」
今度は両手で頭を抱え込むカリッド。
「あわよくばはあわよくばで、それはそれで構わないのですが。とにかく、暴走なさらないようにお願いします。いいですか、くれぐれも無理やりはダメですよ。いくら先っちょだけでも、無理やりはダメです」
「わ、わかった。無理やりじゃなければ、いいんだな」
本当に大丈夫か、と思いながらイアンは主を見た。
「とにかく、モニカ殿には明後日の顔合わせまで逃げられないように捕まえておかねばなりません。それが、あなた様が変に手を出してしまって、その恋人役を降りると彼女から言われたらどうなさるおつもりですか? どうでもいい女性とお見合いをして、好きでもない女性と結婚をしなければならなくなるのですよ。それでいいのですか? 何のために今まで童貞を守ってきたのですか?」
「な、お、お前。最後の一言は余計だ」
余計なイアンの一言で暴露されてしまったカリッド童貞説だが、童貞というか否かが微妙なラインであった。
精通を迎えた頃、閨教育を受けたカリッドではあるが、その講師に貞操を奪われそうになった。ほんの先っちょだけ、ちょっとだけ入ってしまった。だが、当時はまだ精神的にも幼いとき。しかも相手は閨教育の講師の妖艶な美魔女。嫌がるカリッドに無理矢理襲い掛かり、というところに助けが現れた。なので、かろうじて先っちょだけ。それは美魔女講師の行き過ぎた教育だった。だから、カリッドの叫び声を聞いた護衛たちがすぐさま飛んできた。その護衛たちが美魔女に食べられてしまったかどうかは、カリッドの知らないところである。
そしてこれが、カリッドが結婚から遠ざかっている理由の一つでもある。ぶっちゃけ、女性が恐い。あの美魔女を思い出してしまって。
それ以降、女性に手を出せないカリッド。だが、モニカだけは別だった。彼女に触れるのは心地好い。手をつなぐだけでも気持ちいい。彼女の何が自分をそうさせているのか、わからない。
「ああ、困りましたね」
と口にするイアンは本当に困った顔をしていた。
「モニカ殿に準備した夜着ですが、カリッド様には少々刺激が強すぎたかもしれません」
なぜこの優秀な使用人は、主に試練を与えようとするのだろうか。
「その。恋人役、というのはどこまで許されるのだ?」
「は?」
思わずイアンの眼鏡がずれそうになった。慌てて、眼鏡を押し上げて、いつもの位置へと掛け直す。
「えと、どこまで、というのは?」
「先ほど、モニカの胸に触れてしまった。柔らかくて、ふんわふんわで、とにかくたまらなかった」
右手の掌をじっと見つめているのは、先ほど触れてしまったその感触を思い出そうとしているからなのか。
「一体、外で何をやってきたんですか」
イアンがため息をつく。それはもう盛大に。
「わざとじゃない、事故だ。その、彼女が転びそうになったところに手を出したら、たまたまだ」
「たまたま? わざと、ではなく?」
「わざと、だと? できるものならやってみたい……」
そこでまた、カリッドは両手で顔を覆った。それを見て、本当にそれが事故であるということをイアンは悟った。
「カリッド様。それで今、モニカ殿は?」
あ、とカリッドは情けない顔をあげた。
「その、あ、あれだ。風呂に入っている」
「だからこちらに逃げていらしたのですね」
ふぅとイアンは息を吐いた。さて、この主をどう躾けるべきか。
「なあ、イアン。あの部屋、寝台が一つしかないのだが。その、やはり、一緒に寝るべきだろうか」
「恋人同士でしたら、一緒に寝ても問題ないのでは?」
「寝るって、普通に寝る、だよな。横になって目を閉じて、そのまま眠りにつくっていう。その、彼女をこう抱き寄せて、服を脱がせて、のほうじゃないよな」
「カリッド様のお考えになっていることがなんとなく想像できるのですが。まあ、普通の恋人同士でしたら、そこに性交渉があっても問題はありません。ですがまだモニカ殿とはそのような関係になっておりませんよね。恋人役を頼まれただけ。しかも一日目ですからね。合意のない性交渉はおやめください。それこそ、本当のパワハラになりかねませんので」
「先っちょでもダメか?」
「なんなんですか、その先っちょっていうのは」
またイアンの眼鏡がずれそうになった。
「モニカに触れるだけで、俺の下半身が大変なことになるのだが」
「我慢なさってください」
イアンにそう言われ、しゅんと肩を縮めるカリッドだが、彼は肝心なことを忘れていた。
「あ。モニカと寝る前に口づけをすることを約束してしまった……。あわよくば、と考えていたんだった」
今度は両手で頭を抱え込むカリッド。
「あわよくばはあわよくばで、それはそれで構わないのですが。とにかく、暴走なさらないようにお願いします。いいですか、くれぐれも無理やりはダメですよ。いくら先っちょだけでも、無理やりはダメです」
「わ、わかった。無理やりじゃなければ、いいんだな」
本当に大丈夫か、と思いながらイアンは主を見た。
「とにかく、モニカ殿には明後日の顔合わせまで逃げられないように捕まえておかねばなりません。それが、あなた様が変に手を出してしまって、その恋人役を降りると彼女から言われたらどうなさるおつもりですか? どうでもいい女性とお見合いをして、好きでもない女性と結婚をしなければならなくなるのですよ。それでいいのですか? 何のために今まで童貞を守ってきたのですか?」
「な、お、お前。最後の一言は余計だ」
余計なイアンの一言で暴露されてしまったカリッド童貞説だが、童貞というか否かが微妙なラインであった。
精通を迎えた頃、閨教育を受けたカリッドではあるが、その講師に貞操を奪われそうになった。ほんの先っちょだけ、ちょっとだけ入ってしまった。だが、当時はまだ精神的にも幼いとき。しかも相手は閨教育の講師の妖艶な美魔女。嫌がるカリッドに無理矢理襲い掛かり、というところに助けが現れた。なので、かろうじて先っちょだけ。それは美魔女講師の行き過ぎた教育だった。だから、カリッドの叫び声を聞いた護衛たちがすぐさま飛んできた。その護衛たちが美魔女に食べられてしまったかどうかは、カリッドの知らないところである。
そしてこれが、カリッドが結婚から遠ざかっている理由の一つでもある。ぶっちゃけ、女性が恐い。あの美魔女を思い出してしまって。
それ以降、女性に手を出せないカリッド。だが、モニカだけは別だった。彼女に触れるのは心地好い。手をつなぐだけでも気持ちいい。彼女の何が自分をそうさせているのか、わからない。
「ああ、困りましたね」
と口にするイアンは本当に困った顔をしていた。
「モニカ殿に準備した夜着ですが、カリッド様には少々刺激が強すぎたかもしれません」
なぜこの優秀な使用人は、主に試練を与えようとするのだろうか。
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