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第一章:お仕事募集中です(9)
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「あの……ところで、なぜ閣下は私が魔法を使えると、知っていたのですか? その件は、絶対に他の人に知られてはならないと、両親からはきつく言われておりました」
魔法――それは、魔力と呼ばれる普通の人間にはない力を用いて、現象を起こすこと。物を動かすのはもちろんのこと、火のない場所で火を起こしたり、風のない場所に風を吹かしたりすることもできる。他にも、動物を眠らせたり、拘束したりすることも可能だが、その命を奪うことだけできない。
魔法を使える者は、ある種族の血を引く者のみとされ、今ではその者も限られている。王族はその血を引くとされているが、それ以外の者たちはよくわからない。国王が魔法を使えるかどうかは、確認していない。
イリヤのように覚醒遺伝的に目覚めた者は、その力を悪用されないようにと隠すか、自ら悪用するためにひけらかすか。もしくは、国家魔法使いとなって国に飼い慣らされるか。
イリヤの母親にも魔力があり、魔法が使える。彼女はそれを隠していた。そして三人の妹たちは、残念ながら魔力がないようだ。
「その求人票だよ」
ニタリと笑ったのはエーヴァルトである。王族特有の金色の瞳が、怪しく揺らめく。
「どういうことでしょう?」
「その求人票は、魔力を持つ者にしか読めないような仕掛けがされている。魔力のない者には『白紙』にしか見えない」
「えっ……?」
「心当たりはあるのだろう? 君がその求人票を見せた門番はなんと言っていた?」
「白紙の求人票だから、嘘だと……」
「その通り。だけど君は、クライブの前でその求人票の内容を読んでみせた。だから、君には魔力があり、魔法が使えると判断した」
「つまり、あの求人票を持ってここに来た時点で、私が魔法を使えることは知られていたということですか?」
そうだ、とエーヴァルトは頷く。目の下の隈からは疲労感がうかがえるが、たったそれだけの動作であっても威厳を感じられた。
「私たちは、魔法を使える者を探していた。その求人の内容を読めるくらいの強い魔法だ」
「それって、国家魔法使いの方では駄目なのでしょうか?」
国家魔法使いであれば、あの内容も簡単に読めるだろう。国家魔法使いがいるというのに、わざわざ求人票に頼る意味がわからない。
「ああ、彼らにも打診はした。だけど、彼らに子守りは無理だった。まず、マリアンヌがなつかない。彼らの顔を見ると、泣く」
エーヴァルトの説明に、イリヤは目を細くした。ちょっと話がわからない。
「陛下。もう少し、順を追って説明したほうがよろしいかと。彼女は『家庭教師』の仕事を見つけてここに来たわけですから」
「あ~だったらクライブ。その役を頼んでもいいか? 少し、休ませてくれ。終わったら、起こせ」
そう言ったエーヴァルトは腕を組んで長椅子に大きく寄りかかった。金色の瞳はしっかりと閉じられている。
「あの、無防備ではありませんか? 大丈夫ですか?」
イリヤがそう確認するのも無理はない。
「心配するな。何かを察すれば目を覚ますし、それより先にオレが動く。それとも、お前が陛下の寝込みを襲うとでも?」
めっそうもございませんと、イリヤは手と顔を同時に振った。
「……ふっ。本当に、噂とは異なる女性だな。先ほどの啖呵は、見事だった」
「え?」
「噂に踊らされる人間は、噂によって身を滅ぼす。オレも肝に銘じておこう」
あのときは無我夢中だったのだ。それを改めて口に出されると、羞恥に襲われる。目の前の白磁のカップに手を伸ばし、喉を潤す。
「では早速、仕事の内容について説明しよう」
イリヤがカップを戻すのを見送ってから、クライブは口を開いた。
「まず、お前に求めるのは一人の女性を立派な淑女に育てあげてもらいたいということだ」
だから『家庭教師』を募集していたのだろう。
魔法――それは、魔力と呼ばれる普通の人間にはない力を用いて、現象を起こすこと。物を動かすのはもちろんのこと、火のない場所で火を起こしたり、風のない場所に風を吹かしたりすることもできる。他にも、動物を眠らせたり、拘束したりすることも可能だが、その命を奪うことだけできない。
魔法を使える者は、ある種族の血を引く者のみとされ、今ではその者も限られている。王族はその血を引くとされているが、それ以外の者たちはよくわからない。国王が魔法を使えるかどうかは、確認していない。
イリヤのように覚醒遺伝的に目覚めた者は、その力を悪用されないようにと隠すか、自ら悪用するためにひけらかすか。もしくは、国家魔法使いとなって国に飼い慣らされるか。
イリヤの母親にも魔力があり、魔法が使える。彼女はそれを隠していた。そして三人の妹たちは、残念ながら魔力がないようだ。
「その求人票だよ」
ニタリと笑ったのはエーヴァルトである。王族特有の金色の瞳が、怪しく揺らめく。
「どういうことでしょう?」
「その求人票は、魔力を持つ者にしか読めないような仕掛けがされている。魔力のない者には『白紙』にしか見えない」
「えっ……?」
「心当たりはあるのだろう? 君がその求人票を見せた門番はなんと言っていた?」
「白紙の求人票だから、嘘だと……」
「その通り。だけど君は、クライブの前でその求人票の内容を読んでみせた。だから、君には魔力があり、魔法が使えると判断した」
「つまり、あの求人票を持ってここに来た時点で、私が魔法を使えることは知られていたということですか?」
そうだ、とエーヴァルトは頷く。目の下の隈からは疲労感がうかがえるが、たったそれだけの動作であっても威厳を感じられた。
「私たちは、魔法を使える者を探していた。その求人の内容を読めるくらいの強い魔法だ」
「それって、国家魔法使いの方では駄目なのでしょうか?」
国家魔法使いであれば、あの内容も簡単に読めるだろう。国家魔法使いがいるというのに、わざわざ求人票に頼る意味がわからない。
「ああ、彼らにも打診はした。だけど、彼らに子守りは無理だった。まず、マリアンヌがなつかない。彼らの顔を見ると、泣く」
エーヴァルトの説明に、イリヤは目を細くした。ちょっと話がわからない。
「陛下。もう少し、順を追って説明したほうがよろしいかと。彼女は『家庭教師』の仕事を見つけてここに来たわけですから」
「あ~だったらクライブ。その役を頼んでもいいか? 少し、休ませてくれ。終わったら、起こせ」
そう言ったエーヴァルトは腕を組んで長椅子に大きく寄りかかった。金色の瞳はしっかりと閉じられている。
「あの、無防備ではありませんか? 大丈夫ですか?」
イリヤがそう確認するのも無理はない。
「心配するな。何かを察すれば目を覚ますし、それより先にオレが動く。それとも、お前が陛下の寝込みを襲うとでも?」
めっそうもございませんと、イリヤは手と顔を同時に振った。
「……ふっ。本当に、噂とは異なる女性だな。先ほどの啖呵は、見事だった」
「え?」
「噂に踊らされる人間は、噂によって身を滅ぼす。オレも肝に銘じておこう」
あのときは無我夢中だったのだ。それを改めて口に出されると、羞恥に襲われる。目の前の白磁のカップに手を伸ばし、喉を潤す。
「では早速、仕事の内容について説明しよう」
イリヤがカップを戻すのを見送ってから、クライブは口を開いた。
「まず、お前に求めるのは一人の女性を立派な淑女に育てあげてもらいたいということだ」
だから『家庭教師』を募集していたのだろう。
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