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第二章:契約結婚? いえ、雇用関係です!(8)
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*~*~*
イリヤは朝から目が回るほど動いていた。サマンサが言っていた通り、その日は仕立屋がやってきた。採寸され、デザイン案をいくつも見せられたあげく、生地を選ぶ。
クライブがファクト公爵であることを考えれば、彼と(契約)結婚をしたイリヤは公爵夫人となるのだろう。しがない子爵令嬢から大出世ではあるが、やはり公爵夫人として彼の隣にはふさわしい格好で立ちたい。
そうやっていろいろ物事を決めていると、マリアンヌがイリヤを求めて泣いてどうしようもないと、ナナカが助けを欲してきた。泣き止まないマリアンヌを抱っこしながら、次々と話を進める。忙しくしていると、マリアンヌがかまってもらいたそうにして泣くのは不思議である。もしかしたら、クライブよりもいろんな意味で空気の読める子かもしれない。
「奥様、お疲れですね」
この状況で疲れないほうがおかしいだろう。
クライブと出会って、時間的にはやっと丸一日経ったところである。
「あ~、あ~」
やっとソファに身体を預けて休んでいるイリヤの膝の上では、マリアンヌが機嫌よく何かをしゃべっていた。
「お茶が入りました。お疲れのようですので、甘いお菓子を準備いたしました」
「あ~、あ~」
マリアンヌが手を伸ばす。
「マリー、めっよ、めっ。あなたはまだ食べられないのよ。マリーもお腹が空いているのね」
「あ~、う~」
こちらが何か声をかけると、そうやって返事をしてくれるのもかわいい。
「奥様、マリアンヌお嬢様をお預かりいたします」
そう言ったナナカの手には、哺乳瓶がある。
「あ~あ~」
哺乳瓶に手を伸ばすマリアンヌは、やはりお腹が空いていたようだ。
マリアンヌから解放されたイリヤは、白磁のカップに手を伸ばす。このようなカップでお茶を飲むのも、昨日の接待のような場を除いては久しぶりだ。手にしたカップは金で縁取りされ、上品な青で花が描かれている。それだけであっても、紅茶の味が変わるような気がした。
香ばしい匂いに交じって、柑橘系の香りがする。
「……美味しい」
心からその声が出てきた。
慌ただしい昨日から、やっと一息ついた。
思い返すと、本当に怒濤の一日だったのでは。一日前までは、イリヤ・マーベルであったのに、今ではイリヤ・ファクトを名乗る必要がある。
それよりも。安っぽい宿の簡素な寝台ではなく、大きな寝台で眠ることができた。マリアンヌと一緒に眠ったため、寝台は少し堅かったが、寝心地は最高だった。食事の味も量も文句のないほど。むしろ、多すぎて食べきれないくらいである。ただ、それではイリヤの食事量が少ないからだとクライブが指摘した。
そんなクライブは、何を考えているのかよくわからない男なのだ。むしろ、何も考えていないのではないだろうか。いや、それでも宰相としての彼の評価は高い。イリヤでさえも、その名は耳にしたことがあった。マーベル子爵領が国へ納める税金が少し安くなったのは、彼のおかげだと聞いたこともある。
仕事はできるのに、普段の生活がどこかおかしいように感じる。
それにあの年で、チャールズに説教されていたのは、ちょっとかわいらしかった。
サマンサの視線に気がついた。彼女は優しい笑みを浮かべて、イリヤを見ている。頬がゆるんだ瞬間を見られたかもしれない。お茶を飲んでごまかす。
とにかく、一日、職業紹介所で求人を見ていたころとは大違いなのだ。
マリアンヌはいつの間にかナナカの腕の中で眠っていた。鼻がつまっているのか、すぴーすぴーと鼻を鳴らしている。
クライブには、マリアンヌの世話は一人でできると啖呵を切ってはみたものの、実際、マリアンヌの世話にはいろんな人から助けてもらっている。幼い妹が三人もいて、彼女たちの世話をしていたはずなのに、マリアンヌのことはそう容易くいかなかった。
イリヤは朝から目が回るほど動いていた。サマンサが言っていた通り、その日は仕立屋がやってきた。採寸され、デザイン案をいくつも見せられたあげく、生地を選ぶ。
クライブがファクト公爵であることを考えれば、彼と(契約)結婚をしたイリヤは公爵夫人となるのだろう。しがない子爵令嬢から大出世ではあるが、やはり公爵夫人として彼の隣にはふさわしい格好で立ちたい。
そうやっていろいろ物事を決めていると、マリアンヌがイリヤを求めて泣いてどうしようもないと、ナナカが助けを欲してきた。泣き止まないマリアンヌを抱っこしながら、次々と話を進める。忙しくしていると、マリアンヌがかまってもらいたそうにして泣くのは不思議である。もしかしたら、クライブよりもいろんな意味で空気の読める子かもしれない。
「奥様、お疲れですね」
この状況で疲れないほうがおかしいだろう。
クライブと出会って、時間的にはやっと丸一日経ったところである。
「あ~、あ~」
やっとソファに身体を預けて休んでいるイリヤの膝の上では、マリアンヌが機嫌よく何かをしゃべっていた。
「お茶が入りました。お疲れのようですので、甘いお菓子を準備いたしました」
「あ~、あ~」
マリアンヌが手を伸ばす。
「マリー、めっよ、めっ。あなたはまだ食べられないのよ。マリーもお腹が空いているのね」
「あ~、う~」
こちらが何か声をかけると、そうやって返事をしてくれるのもかわいい。
「奥様、マリアンヌお嬢様をお預かりいたします」
そう言ったナナカの手には、哺乳瓶がある。
「あ~あ~」
哺乳瓶に手を伸ばすマリアンヌは、やはりお腹が空いていたようだ。
マリアンヌから解放されたイリヤは、白磁のカップに手を伸ばす。このようなカップでお茶を飲むのも、昨日の接待のような場を除いては久しぶりだ。手にしたカップは金で縁取りされ、上品な青で花が描かれている。それだけであっても、紅茶の味が変わるような気がした。
香ばしい匂いに交じって、柑橘系の香りがする。
「……美味しい」
心からその声が出てきた。
慌ただしい昨日から、やっと一息ついた。
思い返すと、本当に怒濤の一日だったのでは。一日前までは、イリヤ・マーベルであったのに、今ではイリヤ・ファクトを名乗る必要がある。
それよりも。安っぽい宿の簡素な寝台ではなく、大きな寝台で眠ることができた。マリアンヌと一緒に眠ったため、寝台は少し堅かったが、寝心地は最高だった。食事の味も量も文句のないほど。むしろ、多すぎて食べきれないくらいである。ただ、それではイリヤの食事量が少ないからだとクライブが指摘した。
そんなクライブは、何を考えているのかよくわからない男なのだ。むしろ、何も考えていないのではないだろうか。いや、それでも宰相としての彼の評価は高い。イリヤでさえも、その名は耳にしたことがあった。マーベル子爵領が国へ納める税金が少し安くなったのは、彼のおかげだと聞いたこともある。
仕事はできるのに、普段の生活がどこかおかしいように感じる。
それにあの年で、チャールズに説教されていたのは、ちょっとかわいらしかった。
サマンサの視線に気がついた。彼女は優しい笑みを浮かべて、イリヤを見ている。頬がゆるんだ瞬間を見られたかもしれない。お茶を飲んでごまかす。
とにかく、一日、職業紹介所で求人を見ていたころとは大違いなのだ。
マリアンヌはいつの間にかナナカの腕の中で眠っていた。鼻がつまっているのか、すぴーすぴーと鼻を鳴らしている。
クライブには、マリアンヌの世話は一人でできると啖呵を切ってはみたものの、実際、マリアンヌの世話にはいろんな人から助けてもらっている。幼い妹が三人もいて、彼女たちの世話をしていたはずなのに、マリアンヌのことはそう容易くいかなかった。
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