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第八章:これは雇用契約なので溺愛は不要です、と思っていたはずなのに(9)
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慌てるイリヤを無視して、彼は寝たふりをしている。
「もぅ」
イリヤもクライブに背を向けて、横になる。
だけど今日は、すぐには眠れそうにない。心臓がドキドキとして興奮していた。
それは、魔物討伐に行ったからか。それともクライブに口づけをされたからか。
よくわからない。
後日、王宮魔法使いたちがミルトの森へと派遣され、時空の歪みを確認した。
やはり、瘴気は祓われており、今のところ、新たに瘴気の確認はできなかったとの報告であった。
それを知ったときのリグナー公爵の顔は見物だったと、クライブは楽しそうに教えてくれた。
あの日に初めての一歩を踏み出したマリアンヌは、屋敷の中をナナカの手を借りながら歩くようになっていた。そろそろ靴を履いて庭を散歩しようかと、クライブと相談していたところでもある。
そして、聖女イリヤとしての生活が、やっと落ち着き始めた頃、クライブはイリヤの家族をファクト公爵邸へと呼んだ。
結婚したものの、結婚式も挙げていない、もちろん披露パーティーもしていない。それをクライブが気にしていたのだ。だから、まずはイリヤの家族を呼んで食事会をし、あらためて結婚式の日取りを決めようという話になった。
その食事会の場に、イリヤの叔父であり義父でもあるマーベル子爵の姿が見えなかった。
「お母様、お義父様はどうしたの?」
「あぁ。あの人ね。ドミ会長とオロス侯爵領に行っているのよ」
「オロス侯爵領……?」
それは先日、イリヤも魔物討伐のために足を運んだ場所である。
「えぇ。ミルトの森の近くの村の復興のため? なんか、そんなことを言っていたわ」
瘴気を祓うまでの間、魔物に襲われた村があったという話も聞こえてきた。時空の歪みに近いその村を、他の場所へとうつすという話も出たようで、マーベル子爵はそれのために侯爵領に滞在していると言う。
「ほら、あの人も、いろんな商会と繋がりがあるわけだから。必要なものを必要なところに安く? まぁ、利用できるものは利用しましょうってことよね」
とにかく、マーベル子爵が人の役に立つような仕事をしているのなら、それはいいことだろう。
「あとね、ほら。サブル侯爵も、同じところに行っているみたいで……」
「え? だったら子どもたちは?」
サブル侯爵の娘たちは、まだ幼い。
「えぇ。それも、新しい家庭教師の方がいらしたみたいで、彼女たちはものすごく懐いているとか……」
「そう……」
それでもイリヤには腑が落ちない。なぜか、左遷という言葉が頭をよぎった。いや、気のせいかもしれない。
少し離れた場所で、イリヤの妹たちに囲まれているクライブを見やる。彼は、イリヤの視線には気づかないようで、妹たちに抱っこやらおんぶをせがまれていた。
「だけど、イリヤが幸せそうでよかったわ」
「お母様もね」
「結婚式には、あの人も間に合うとは思うのだけれど……」
「お義父様には、無理しなくていいと伝えておいて」
「あら、冷たい」
母娘は顔を見合わせて笑った。
「もぅ」
イリヤもクライブに背を向けて、横になる。
だけど今日は、すぐには眠れそうにない。心臓がドキドキとして興奮していた。
それは、魔物討伐に行ったからか。それともクライブに口づけをされたからか。
よくわからない。
後日、王宮魔法使いたちがミルトの森へと派遣され、時空の歪みを確認した。
やはり、瘴気は祓われており、今のところ、新たに瘴気の確認はできなかったとの報告であった。
それを知ったときのリグナー公爵の顔は見物だったと、クライブは楽しそうに教えてくれた。
あの日に初めての一歩を踏み出したマリアンヌは、屋敷の中をナナカの手を借りながら歩くようになっていた。そろそろ靴を履いて庭を散歩しようかと、クライブと相談していたところでもある。
そして、聖女イリヤとしての生活が、やっと落ち着き始めた頃、クライブはイリヤの家族をファクト公爵邸へと呼んだ。
結婚したものの、結婚式も挙げていない、もちろん披露パーティーもしていない。それをクライブが気にしていたのだ。だから、まずはイリヤの家族を呼んで食事会をし、あらためて結婚式の日取りを決めようという話になった。
その食事会の場に、イリヤの叔父であり義父でもあるマーベル子爵の姿が見えなかった。
「お母様、お義父様はどうしたの?」
「あぁ。あの人ね。ドミ会長とオロス侯爵領に行っているのよ」
「オロス侯爵領……?」
それは先日、イリヤも魔物討伐のために足を運んだ場所である。
「えぇ。ミルトの森の近くの村の復興のため? なんか、そんなことを言っていたわ」
瘴気を祓うまでの間、魔物に襲われた村があったという話も聞こえてきた。時空の歪みに近いその村を、他の場所へとうつすという話も出たようで、マーベル子爵はそれのために侯爵領に滞在していると言う。
「ほら、あの人も、いろんな商会と繋がりがあるわけだから。必要なものを必要なところに安く? まぁ、利用できるものは利用しましょうってことよね」
とにかく、マーベル子爵が人の役に立つような仕事をしているのなら、それはいいことだろう。
「あとね、ほら。サブル侯爵も、同じところに行っているみたいで……」
「え? だったら子どもたちは?」
サブル侯爵の娘たちは、まだ幼い。
「えぇ。それも、新しい家庭教師の方がいらしたみたいで、彼女たちはものすごく懐いているとか……」
「そう……」
それでもイリヤには腑が落ちない。なぜか、左遷という言葉が頭をよぎった。いや、気のせいかもしれない。
少し離れた場所で、イリヤの妹たちに囲まれているクライブを見やる。彼は、イリヤの視線には気づかないようで、妹たちに抱っこやらおんぶをせがまれていた。
「だけど、イリヤが幸せそうでよかったわ」
「お母様もね」
「結婚式には、あの人も間に合うとは思うのだけれど……」
「お義父様には、無理しなくていいと伝えておいて」
「あら、冷たい」
母娘は顔を見合わせて笑った。
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