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†ジェイラスの苦悩(1)
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王太子ランドルフの結婚パーティーで羽目を外した者も幾人かいたようだが、こういうときだからこそ、気を引き締めねばならない。
それでもジェイラスの心はふわふわと浮いていた。それは、アリシアが結婚を受け入れてくれたのが理由だ。
今日は、昼過ぎから夜間にかけての仕事であるため、アリシアに会えるのは明日の夜。そのときに、もう一度きちんと結婚の申し込みをしようと考えていた。
昨日は気持ちの昂ぶりもあって、つい、先走ってしまったが、雰囲気のよいレストランで結婚の約束を交わした証の指輪を贈る予定だった。
それを今から妄想していたら、気もそぞろになっていたようだ。だから、伝令のために騎士を呼び、アリシアじゃない者がやってきたときに「アリシア・ガネルはどうした?」と聞いていた。聞いてから思い出した。アリシアは、休みだったはず。
「あっ……申し訳ありません……」
伝令係の男性騎士は深く腰を折る。
「アリシアは本日付けで休職となりましたため、今後は私が主に担当いたします」
彼は顔を上げずにそう言った。
しかし、ジェイラスの頭の中は、男の言葉を反芻していた。
きゅうしょく、キュウショク、休職……。
「アリシア・ガネルが休職だと? 長期の休みをとったのか?」
「あ、は、はい……。今朝方、団長には退団したいと言ったようですが、それを団長がなんとか引き留めて休職という形に……」
ジェイラスの勢いに負けて、男性騎士はしどろもどろになりながら答えた。
「ま、まぁ。いきなり退団と言われたら、誰だって驚くだろう」
引き留めた第二騎士団の団長、ブルーノはいい働きをした。と思いつつも、いきなりアリシアが退団を言い出した理由がわからない。
ジェイラスの頭の中には、なぜ? どうして? と疑問符でいっぱいだった。しかし、今は仕事中だし、ジェイラスとアリシアの関係を知っている者は少ない。アリシアが二人の交際を公にするのを躊躇っていたからだ。彼女が嫌がることはジェイラスだってしたくはなかった。
「では、これを東と西の詰め所に届けてくれ。まだ、昨日の余韻もあり、皆、気もそぞろになっているところだから、引き締めるように」
「は、はい」
一礼した男が部屋を出ていくのを見届けてから、ジェイラスはうなだれた。
気がゆるんでいるのはジェイラスのほうだ。
アリシアが騎士団を休職したというのは、いったいどういうことか。今朝方まで一緒にいたというのに。
昨夜、彼女は何かを言っていただろうか。それを必死に思い出そうとしてみるが、さっぱりわからない。求婚を受け入れてくれたようにしか見えなかった。
それとも、あのような場で結婚を申し込んでしまったジェイラスにあきれたのだろうか。
なぜ。どうして。
先ほどからそればかりが浮かんでくるものの、明確な答えにはたどりつけない。
ランドルフはクラリッサとの蜜月に入った。だから、ジェイラスが護衛として彼につく仕事は減る。
ジェイラスは主にランドルフが王城から離れ、視察などに行くときに護衛としてつく。彼が王城内、まして離れの王太子宮に閉じこもっているなら、なおのこと。そういったときは、他の騎士らに護衛を任せるが、今日の昼過ぎからはランドルフの護衛担当になっている。
だからジェイラスは、ランドルフたちの蜜月の間、たまりにたまった書類仕事を片づけ、シフト表や訓練内容の見直しなどを行う予定だった。まして、普段よりもたっぷりとアリシアと一緒にいる時間を作る。
そのつもりでいたというのに。
考えても考えても答えは出てこない。
それでもジェイラスの心はふわふわと浮いていた。それは、アリシアが結婚を受け入れてくれたのが理由だ。
今日は、昼過ぎから夜間にかけての仕事であるため、アリシアに会えるのは明日の夜。そのときに、もう一度きちんと結婚の申し込みをしようと考えていた。
昨日は気持ちの昂ぶりもあって、つい、先走ってしまったが、雰囲気のよいレストランで結婚の約束を交わした証の指輪を贈る予定だった。
それを今から妄想していたら、気もそぞろになっていたようだ。だから、伝令のために騎士を呼び、アリシアじゃない者がやってきたときに「アリシア・ガネルはどうした?」と聞いていた。聞いてから思い出した。アリシアは、休みだったはず。
「あっ……申し訳ありません……」
伝令係の男性騎士は深く腰を折る。
「アリシアは本日付けで休職となりましたため、今後は私が主に担当いたします」
彼は顔を上げずにそう言った。
しかし、ジェイラスの頭の中は、男の言葉を反芻していた。
きゅうしょく、キュウショク、休職……。
「アリシア・ガネルが休職だと? 長期の休みをとったのか?」
「あ、は、はい……。今朝方、団長には退団したいと言ったようですが、それを団長がなんとか引き留めて休職という形に……」
ジェイラスの勢いに負けて、男性騎士はしどろもどろになりながら答えた。
「ま、まぁ。いきなり退団と言われたら、誰だって驚くだろう」
引き留めた第二騎士団の団長、ブルーノはいい働きをした。と思いつつも、いきなりアリシアが退団を言い出した理由がわからない。
ジェイラスの頭の中には、なぜ? どうして? と疑問符でいっぱいだった。しかし、今は仕事中だし、ジェイラスとアリシアの関係を知っている者は少ない。アリシアが二人の交際を公にするのを躊躇っていたからだ。彼女が嫌がることはジェイラスだってしたくはなかった。
「では、これを東と西の詰め所に届けてくれ。まだ、昨日の余韻もあり、皆、気もそぞろになっているところだから、引き締めるように」
「は、はい」
一礼した男が部屋を出ていくのを見届けてから、ジェイラスはうなだれた。
気がゆるんでいるのはジェイラスのほうだ。
アリシアが騎士団を休職したというのは、いったいどういうことか。今朝方まで一緒にいたというのに。
昨夜、彼女は何かを言っていただろうか。それを必死に思い出そうとしてみるが、さっぱりわからない。求婚を受け入れてくれたようにしか見えなかった。
それとも、あのような場で結婚を申し込んでしまったジェイラスにあきれたのだろうか。
なぜ。どうして。
先ほどからそればかりが浮かんでくるものの、明確な答えにはたどりつけない。
ランドルフはクラリッサとの蜜月に入った。だから、ジェイラスが護衛として彼につく仕事は減る。
ジェイラスは主にランドルフが王城から離れ、視察などに行くときに護衛としてつく。彼が王城内、まして離れの王太子宮に閉じこもっているなら、なおのこと。そういったときは、他の騎士らに護衛を任せるが、今日の昼過ぎからはランドルフの護衛担当になっている。
だからジェイラスは、ランドルフたちの蜜月の間、たまりにたまった書類仕事を片づけ、シフト表や訓練内容の見直しなどを行う予定だった。まして、普段よりもたっぷりとアリシアと一緒にいる時間を作る。
そのつもりでいたというのに。
考えても考えても答えは出てこない。
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