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第二章(7)
シアはなんて答えたらいいかわからず、身体を強張らせたまま黙って歩く。やはり大通りは人が多い気がする。
「ひと、いっぱいね~」
ヘリオスの声に、緊張がふと抜けた。
「偉い人が来ているからね。リオも見てきたのでしょう?」
「リオ、おうまさん、みたよ。ままは?」
「ママは、今日もみんなに勉強を教えていたから、見ていないの」
「今度はママも一緒にいけるといいね」
「まま、いっしょよ!」
フランクの言葉に、ヘリオスが明るく重ねてくる。
太陽が長い影を落とす夕暮れ、街を行き交う人々の足取りはどこか急ぎ足になる。いつもならヘリオスと手を繋ぎ、「今日、何をしたの?」「何が食べたい?」と語り合いながら家を目指すのに、今は、ヘリオスはフランクと楽しげに話をし、笑い声を響かせている。
シアはただ、その賑やかな会話をそっと耳にしながら歩を進めるだけ。
「あ、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
あと二十歩も歩けば自宅につく。そこでシアは切り出した。
「うん、こちらこそ。僕につきあってくれてありがとうございます。また、送ってもいいですか?」
フランクはヘリオスを肩からおろす。おろされたヘリオスは歩きたくないのか、すぐにシアに抱っこをせがんだ。ずっしりとした重みが腕にくわわり、シアは微笑む。
「では、またお願いします」
彼が知ってほしいと言うのなら、まずはそれを受け入れるべきだろう。誠実な人というのは伝わってきたし、コリンナも彼であればと言っていたのを思い出す。
「フランクさんも気を付けて。それではまた明日」
「ばいばい」
ヘリオスが手を振ると、フランクも同じように手を振る。その姿が彼の実年齢以上に幼く見えた。確かフランクは二十五歳であったと記憶している。
夕日に背を押されて来た道を戻る彼を、シアは見送った。
「リオ。お腹が空いたでしょう?」
「おなか、ぺこぺこね」
「すぐにご飯にしましょう」
人に紛れて彼の背が見えなくなったところで、家に入った。
「ただいま」
無人の部屋だとわかっているのに、つい、出てしまう挨拶。人けのない部屋は静まり返っており、空気の流れも感じない。
それからシアは、急いで夕飯の準備をして、ヘリオスにはお腹いっぱい食べてもらった。
そして次の日、ボブの手紙を王都にまで運んでもらうよう、ぽっぽちゃんの足にくくりつけた。
「ぽっぽちゃん、よろしくね」
「ぽっぽ~」
バサバサと羽音を響かせて、ぽっぽちゃんは青い空へと飛び立ったが、その日のうちにボブ宛ての手紙を持って帰ってきた。
王都の支店には香辛料も魔石も必要分の在庫があるため、明日の朝の定期便に乗せるとのこと。王都とサバド間は馬車で三日程度であるから、王太子のもてなしにはじゅうぶんに間に合う。
そこまでわかったところで、ボブは一息ついた。あとは道中、何ごともないことを祈るだけ。
野盗とはいえ、縄張りや派閥が存在するらしい。ボブは彼らの中でも、義賊めいた振る舞いで知られる一団と手を組んでいる。いや、協力関係を築いていると言ったほうが正しい。
彼らは王都とサバドを結ぶモンクトン商会の荷物を守る役目を請け、その報酬として荷物の一部を受け取っていた。
だからこそ三年前のあの日、馬車から放り出されたシアたちを救ったのも、その義賊たちだったのだ。
「シアのおかげで助かったって、あの人も言っていたわ。荷物が届いたから忙しくしていてね。二日後には王太子殿下をお呼びしての晩餐会があるでしょう? 何も、このような商家にまで足を運ばなくてもいいのにね」
まるで面倒くさいとでも言いたげなコリンナの様子に、どう答えたらいいかわからないシアは微苦笑を浮かべる。
「ひと、いっぱいね~」
ヘリオスの声に、緊張がふと抜けた。
「偉い人が来ているからね。リオも見てきたのでしょう?」
「リオ、おうまさん、みたよ。ままは?」
「ママは、今日もみんなに勉強を教えていたから、見ていないの」
「今度はママも一緒にいけるといいね」
「まま、いっしょよ!」
フランクの言葉に、ヘリオスが明るく重ねてくる。
太陽が長い影を落とす夕暮れ、街を行き交う人々の足取りはどこか急ぎ足になる。いつもならヘリオスと手を繋ぎ、「今日、何をしたの?」「何が食べたい?」と語り合いながら家を目指すのに、今は、ヘリオスはフランクと楽しげに話をし、笑い声を響かせている。
シアはただ、その賑やかな会話をそっと耳にしながら歩を進めるだけ。
「あ、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
あと二十歩も歩けば自宅につく。そこでシアは切り出した。
「うん、こちらこそ。僕につきあってくれてありがとうございます。また、送ってもいいですか?」
フランクはヘリオスを肩からおろす。おろされたヘリオスは歩きたくないのか、すぐにシアに抱っこをせがんだ。ずっしりとした重みが腕にくわわり、シアは微笑む。
「では、またお願いします」
彼が知ってほしいと言うのなら、まずはそれを受け入れるべきだろう。誠実な人というのは伝わってきたし、コリンナも彼であればと言っていたのを思い出す。
「フランクさんも気を付けて。それではまた明日」
「ばいばい」
ヘリオスが手を振ると、フランクも同じように手を振る。その姿が彼の実年齢以上に幼く見えた。確かフランクは二十五歳であったと記憶している。
夕日に背を押されて来た道を戻る彼を、シアは見送った。
「リオ。お腹が空いたでしょう?」
「おなか、ぺこぺこね」
「すぐにご飯にしましょう」
人に紛れて彼の背が見えなくなったところで、家に入った。
「ただいま」
無人の部屋だとわかっているのに、つい、出てしまう挨拶。人けのない部屋は静まり返っており、空気の流れも感じない。
それからシアは、急いで夕飯の準備をして、ヘリオスにはお腹いっぱい食べてもらった。
そして次の日、ボブの手紙を王都にまで運んでもらうよう、ぽっぽちゃんの足にくくりつけた。
「ぽっぽちゃん、よろしくね」
「ぽっぽ~」
バサバサと羽音を響かせて、ぽっぽちゃんは青い空へと飛び立ったが、その日のうちにボブ宛ての手紙を持って帰ってきた。
王都の支店には香辛料も魔石も必要分の在庫があるため、明日の朝の定期便に乗せるとのこと。王都とサバド間は馬車で三日程度であるから、王太子のもてなしにはじゅうぶんに間に合う。
そこまでわかったところで、ボブは一息ついた。あとは道中、何ごともないことを祈るだけ。
野盗とはいえ、縄張りや派閥が存在するらしい。ボブは彼らの中でも、義賊めいた振る舞いで知られる一団と手を組んでいる。いや、協力関係を築いていると言ったほうが正しい。
彼らは王都とサバドを結ぶモンクトン商会の荷物を守る役目を請け、その報酬として荷物の一部を受け取っていた。
だからこそ三年前のあの日、馬車から放り出されたシアたちを救ったのも、その義賊たちだったのだ。
「シアのおかげで助かったって、あの人も言っていたわ。荷物が届いたから忙しくしていてね。二日後には王太子殿下をお呼びしての晩餐会があるでしょう? 何も、このような商家にまで足を運ばなくてもいいのにね」
まるで面倒くさいとでも言いたげなコリンナの様子に、どう答えたらいいかわからないシアは微苦笑を浮かべる。
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