【R18】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

澤谷弥(さわたに わたる)

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第三章(4)

 シアはとうとう折れた。

「わ、わかりました……そこまで言うなら……」
「ありがとう、シア。ね? あなた!」
「そ、そうだな。コリンナが少々強引なところもあったが……それでも引き受けてくれて嬉しいよ、シア」

 ボブの笑顔に、シアも頷くしかない。

 国側がモンクトン商会に一目置いているのは知っている。そして他国、特にギニー国との結びつきが強いことを懸念している。だから今回の視察なのだ。

 もし失敗したら、商会の名誉を傷つけることになるのではないか。

「では、視察の流れについて説明しよう」

 ボブの説明にシアははっとした。彼も視察に同行するが、ギニー語は商売用に限られ、通訳は務まらない。

 本来はコリンナが通訳を務める予定だったが、王太子がなぜかシアを指名したという。コリンナがシアのギニー語の能力を伝えたとしても、それだけで通訳に選ばれるのはいささか腑に落ちない。
 シアの胸には微かな疑問が残る。

「あっ……それよりも、こんな服で大丈夫でしょうか……」

 シアはふと我に返り、自分の姿を確認した。今日も学校で子どもたちに勉強と剣術を教える予定だったから、動きやすいズボン姿だ。王太子の視察に同行するのに、このような格好でもいいのだろうか。

「そう言われると、そうね……」

 コリンナが視線を下から上、上から下へと動かして、そのままそこで止め、ふと笑みを浮かべる。

「着替えましょう。私のドレスを貸してあげるわ。動きやすいドレスがいいわね。そうね、色は……ラベンダー色のものがあったでしょう? それにしましょう」

 コリンナのてきぱきとした指示に、シアは別室へと連れていかれた。

「せっかく王太子殿下の通訳として同行するんだもの。それなりの装いをしなくちゃ」

 やはり、それなりに見目が求められるのだろう。子どもたち相手とは違うのだ。
 他人に着替えを手伝われることに慣れないシアだったが、時間がない今は文句を言っている場合ではない。

 ズボンを脱がされ、代わりにラベンダー色の簡素なドレスを着せられた。短い髪もサイドを編み込まれ、普段とはまるで別人のような姿に仕上げられていく

「やっぱりシア。似合ってる。普段から、こういう格好をすればいいのに」

 コリンナがうっとりとした視線を送ってきた。ことあるごとにシアを着飾らせたいと思っていた彼女だから、ここぞとばかりに気合いを入れてきたのだ。

「まま、かわいい」

 いつの間にか部屋に入ってきたヘリオスが、目を輝かせて言った。シェリーもその隣で無邪気に笑っている。

「そ、そう? ありがとう、リオ」

 息子に褒められ、シアの頬が熱くなる。子どもの純粋な言葉にはどうにも弱い。  

「大丈夫よ、シア。そんな顔をしないで。いつもと同じようにしていればいいんだから」

 不安で顔が曇りがちのシアの肩を、コリンナがぽんぽんと叩いて励ました。
 それからボブが待つ執務室へと向かう。

「これは……」

 シアを見たボブも、なんと言ったらいいのかわからないのか言葉を呑み、目を丸くした。

「あら、ボブ。浮気はダメよ?」

 コリンナがからかうように言うと、ボブは慌てて手を振った。 

「いやいやいや。驚いただけだよ。これでは、他の男が放っておかないだろう? フランクもヒヤヒヤするな」
「か、会長!」

 ボブと話をしていたフランクは、急に話を振られて頬を赤く染める。

「フランク。こいうときは気の利いた言葉の一つや二つ、言うものよ?」

 コリンナがさらに畳みかけると、フランクは口をぱくぱくと動かし、ようやく絞り出すように言った。 

「シア……よく似合っていると思います……」
「あ、ありがとうございます……」

 フランクの視線に、シアもまた恥ずかしさで顔を赤らめた。互いに気まずい空気が流れる。  

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