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第三章(8)
仕方なくシアがヘリオスを抱き上げると、どこにいたのかフランクがやってきて「送っていきます」と声をかけてきた。
「リオ。ママが重いだろう? 僕のところにおいで」
「やっ」
「肩にのせてあげるよ?」
「やっ」
ヘリオスはシアの服にしがみついたまま、頑なにフランクの誘いを拒んでいる。
「ごめんなさい、フランク。なぜかここ数日、リオがこんな感じで……」
「えぇ、僕は気にしておりませんから。やはり、母親と一緒にいたいんでしょうね。では、こちらの荷物を預かります」
フランクはシアが手にしていた荷物をさりげなく手に取り、そっと笑いかける。
シアもそれに笑顔で応えた。
「ありがとうございます、フランク。では、コリンナ、シェリー。また明日」
「今日は本当にありがとう、シア」
コリンナとシェリーに見送られ、シアはフランクと並んでモンクトンの屋敷を後にする。外に出れば、夕暮れの心地よい風が吹いてきて、シアの前髪を弄ぶ。庭園に咲く花も、身を任せていた。
「無事に終わって安心しました。フランクも今日は、学校のほうをみてもらったみたいで……ありがとうございます」
「僕も久しぶりに子どもたちと触れ合えて、元気をもらいましたから」
こうやってのんびりと歩いていると、先ほどまで王太子と一緒にいたことが夢のように感じる。
「あれ……?」
フランクの声に、シアも真っすぐに視線を向ける。
門の前に荷車が止まっている。
「どこの業者でしょう?」
どちらにしろ、門をくぐらなければシアは家には帰れない。自然とその荷車に近づく形になる。
「どうかされました?」
荷車の男に声をかけたのはフランクだ。
「もンクトン商会の人? ワたし、荷物をモってきた。ドこに、運ぶ、いい?」
拙い共通語だ。ところどころに、訛りを感じる。慣れぬ共通語を使うギニー国の商人に多い。
「荷物? いったいなんの荷物でしょうか? この時間、荷物が届くとは聞いていないのですが」
フランクが慎重に対応を始める。
「香シン料とマ石ね。こレ、注文書」
男が注文書を見せてきたので、フランクがじっくりとそれを確認する。シアも顔を寄せて、ボブのサインを確認した。
「……サインは本物のように見えますね」
シアがこそっとフランクの耳元でささやくと、フランクも小さく頷く。
ボブのサインには特徴があって、一文字ごとに終端が小さくはねるのだ。そのはね方が独特であるため、ボブのサインの真偽を見極めるときには、そこを確認するのが商会の人間にとっては周知の事実となっている。
「そういえば会長が、香辛料と魔石が足りないと言っていましたね」
それはシアも聞いた。だからシアも王都に向かってぽっぽちゃんを飛ばしたのだ。
「荷物を確認してもいいですか?」
フランクが尋ねると、男は後ろめたいことなどないのか「ドうぞドうぞ」と促してきた。
「いつも仕入れている物かを確認します」
今度はフランクがシアにだけ聞こえるような小声で言った。
商品の見極めならばフランクが適任だろう。彼はボブの側で、さまざまな商品を目にしているはずだ。
「う~ん、そうですね。これはいつも商会で仕入れているものと同じですね。シア、ここを見てください」
魔石の一つを手にしたフランクは、両手が塞がっているシアの目の前で魔石を見せた。
「ここのカットの仕方。モンクトンのやり方なんですよ」
魔石を採掘したあと、運びやすいようにその場でカットするのだが、そのカットの仕方も各商会によって異なるらしい。
「香辛料も……いつものものですね」
フランクが手にした香辛料を荷車に戻すと、モンクトンの屋敷の裏口から入るようにと促した。場所を口頭で説明したのだが、男は理解したらしい。
「アりがとう、アりがとう」
礼を言いながら、男は荷車を引いていった。
だが、背筋に走る言い表せない不安がシアを襲った。何かが引っかかる。
「かえるよ~」
ヘリオスが顔をすりすりと寄せてきたため、家路を急ぐことにした。
「リオ。ママが重いだろう? 僕のところにおいで」
「やっ」
「肩にのせてあげるよ?」
「やっ」
ヘリオスはシアの服にしがみついたまま、頑なにフランクの誘いを拒んでいる。
「ごめんなさい、フランク。なぜかここ数日、リオがこんな感じで……」
「えぇ、僕は気にしておりませんから。やはり、母親と一緒にいたいんでしょうね。では、こちらの荷物を預かります」
フランクはシアが手にしていた荷物をさりげなく手に取り、そっと笑いかける。
シアもそれに笑顔で応えた。
「ありがとうございます、フランク。では、コリンナ、シェリー。また明日」
「今日は本当にありがとう、シア」
コリンナとシェリーに見送られ、シアはフランクと並んでモンクトンの屋敷を後にする。外に出れば、夕暮れの心地よい風が吹いてきて、シアの前髪を弄ぶ。庭園に咲く花も、身を任せていた。
「無事に終わって安心しました。フランクも今日は、学校のほうをみてもらったみたいで……ありがとうございます」
「僕も久しぶりに子どもたちと触れ合えて、元気をもらいましたから」
こうやってのんびりと歩いていると、先ほどまで王太子と一緒にいたことが夢のように感じる。
「あれ……?」
フランクの声に、シアも真っすぐに視線を向ける。
門の前に荷車が止まっている。
「どこの業者でしょう?」
どちらにしろ、門をくぐらなければシアは家には帰れない。自然とその荷車に近づく形になる。
「どうかされました?」
荷車の男に声をかけたのはフランクだ。
「もンクトン商会の人? ワたし、荷物をモってきた。ドこに、運ぶ、いい?」
拙い共通語だ。ところどころに、訛りを感じる。慣れぬ共通語を使うギニー国の商人に多い。
「荷物? いったいなんの荷物でしょうか? この時間、荷物が届くとは聞いていないのですが」
フランクが慎重に対応を始める。
「香シン料とマ石ね。こレ、注文書」
男が注文書を見せてきたので、フランクがじっくりとそれを確認する。シアも顔を寄せて、ボブのサインを確認した。
「……サインは本物のように見えますね」
シアがこそっとフランクの耳元でささやくと、フランクも小さく頷く。
ボブのサインには特徴があって、一文字ごとに終端が小さくはねるのだ。そのはね方が独特であるため、ボブのサインの真偽を見極めるときには、そこを確認するのが商会の人間にとっては周知の事実となっている。
「そういえば会長が、香辛料と魔石が足りないと言っていましたね」
それはシアも聞いた。だからシアも王都に向かってぽっぽちゃんを飛ばしたのだ。
「荷物を確認してもいいですか?」
フランクが尋ねると、男は後ろめたいことなどないのか「ドうぞドうぞ」と促してきた。
「いつも仕入れている物かを確認します」
今度はフランクがシアにだけ聞こえるような小声で言った。
商品の見極めならばフランクが適任だろう。彼はボブの側で、さまざまな商品を目にしているはずだ。
「う~ん、そうですね。これはいつも商会で仕入れているものと同じですね。シア、ここを見てください」
魔石の一つを手にしたフランクは、両手が塞がっているシアの目の前で魔石を見せた。
「ここのカットの仕方。モンクトンのやり方なんですよ」
魔石を採掘したあと、運びやすいようにその場でカットするのだが、そのカットの仕方も各商会によって異なるらしい。
「香辛料も……いつものものですね」
フランクが手にした香辛料を荷車に戻すと、モンクトンの屋敷の裏口から入るようにと促した。場所を口頭で説明したのだが、男は理解したらしい。
「アりがとう、アりがとう」
礼を言いながら、男は荷車を引いていった。
だが、背筋に走る言い表せない不安がシアを襲った。何かが引っかかる。
「かえるよ~」
ヘリオスが顔をすりすりと寄せてきたため、家路を急ぐことにした。
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