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第三章(13)
「あ、はい……いただきます。本音を言えば、ものすごく飲みたくないのですが。これ、苦いですよね?」
そう口にして、シアは既視感を覚えた。だが、記憶のあるかぎり、このような解毒剤を飲んだことはない。飲むような事態に陥ったのは、今回が初めてだから。
だというのに、この薬は苦いと頭の中で誰かがささやいている。
「まぁ、美味いものではないな。薬が美味かったら、飲み過ぎてしまうだろう? だから適量を飲むように、わざと不味く作られている」
「なるほど。薬の飲み過ぎもよくないですよね。では、いただきます」
シアは少しだけ躊躇ってから、一気にカップの中身を飲み干した。息を止めて、できるだけにおいも嗅がないように、ゴクリゴクリと喉を鳴らして飲む。
「うっ……やっぱり、不味いです……」
涙目になって訴えるシアに、ジェイラスはあたたかな眼差しを向ける。そして空になったカップをひょいと奪って、テーブルの上に置いた。
「この子の名前を聞いてもいいか?」
シアにしがみついているヘリオスを、ジェイラスは抱き上げようとした。
「ヘリオスといいます」
「ヘリオス……」
ジェイラスがその名前を小さく呟く。その声には、どこか切なさが混じるような響きがあった。
彼はヘリオスの小さな身体を軽々と持ち上げたが、その動きでヘリオスが握っていた掛布が一緒に持ち上がってしまう。
「あっ」
ガウンの裾がはだけ、シアの白い足が露わになった。
「す、すまない……」
ジェイラスは慌ててヘリオスをシアの隣に戻し、赤くなった顔を隠すように視線を逸らした。ヘリオスの小さな手がしっかりと握る掛布をそっと解き、シアの足の上にふわりとかけるものの、その仕草には気遣いと緊張感が漂っていた。
ジェイラスはヘリオスを見つめ、慈しむような視線を注ぐ。
(あれ……?)
そんなジェイラスを見て、シアの胸がドクンと大きく跳ねた。
(ジェイラスさんの目の色……やっぱり、ヘリオスと同じよね……)
あまりにもジェイラスを見つめてしまったようで、彼もシアの視線に気づき、目が合った。
吸い込まれそうな深い紫色の瞳が、シアすら知らないシアを見ているかのよう。
「ジェイラスさん……?」
これ以上彼に見られたら、本心をすべて暴かれそうで怖い。
「す、すまない……あ、その……昨日のことだが……」
ジェイラスの顔がみるみる赤くなり、彼の声はどこかうわずっている。まるで、伝えたい言葉が喉に詰まり、出口を見つけられないかのよう。
だが、彼はコホンとわざとらしい咳払いをして、表情を立て直した。
「いや、怪我をしている君に言うことではないな。まずは、ゆっくりと休んでくれ。使われた毒の種類は、こちらで把握している。傷口にも解毒薬を塗ったが、今晩は熱が出るかもしれない。苦しいときは遠慮せずに、そのベルを鳴らしてくれ」
彼が示したのは、使用人を呼ぶための小さな銀のベルだった。
「え、と。ジェイラスさんが?」
「ああ、俺が控えている。だから安心して眠ってくれ。お腹は空いていないか?」
そう言われると、夕食も食べずにここにやってきたのだ。だが、不思議と空腹を感じなかった。
「はい」
「そうか。だったらもう寝なさい。灯りは俺が消しておく」
子どもをあやすような言い方だが、シアはその言葉に素直に従うことにした。
頭の奥がズキズキと痛み、瞼も重くなっていた。
「はい。ありがとうございます。おやすみなさい」
シアは身体を横にして、目を閉じた。
室内はシンと静まり、時を刻む音がどこからか聞こえてくる。その音が、シアを夢の世界へと誘うかのよう。
人が動く気配がし、カチリと魔石ランプの明かりも消えた。闇が部屋を包み込み、静かに扉が閉ざされる音が響く。ジェイラスの足音が遠ざかり、シアは深い眠りに落ちていった。
そう口にして、シアは既視感を覚えた。だが、記憶のあるかぎり、このような解毒剤を飲んだことはない。飲むような事態に陥ったのは、今回が初めてだから。
だというのに、この薬は苦いと頭の中で誰かがささやいている。
「まぁ、美味いものではないな。薬が美味かったら、飲み過ぎてしまうだろう? だから適量を飲むように、わざと不味く作られている」
「なるほど。薬の飲み過ぎもよくないですよね。では、いただきます」
シアは少しだけ躊躇ってから、一気にカップの中身を飲み干した。息を止めて、できるだけにおいも嗅がないように、ゴクリゴクリと喉を鳴らして飲む。
「うっ……やっぱり、不味いです……」
涙目になって訴えるシアに、ジェイラスはあたたかな眼差しを向ける。そして空になったカップをひょいと奪って、テーブルの上に置いた。
「この子の名前を聞いてもいいか?」
シアにしがみついているヘリオスを、ジェイラスは抱き上げようとした。
「ヘリオスといいます」
「ヘリオス……」
ジェイラスがその名前を小さく呟く。その声には、どこか切なさが混じるような響きがあった。
彼はヘリオスの小さな身体を軽々と持ち上げたが、その動きでヘリオスが握っていた掛布が一緒に持ち上がってしまう。
「あっ」
ガウンの裾がはだけ、シアの白い足が露わになった。
「す、すまない……」
ジェイラスは慌ててヘリオスをシアの隣に戻し、赤くなった顔を隠すように視線を逸らした。ヘリオスの小さな手がしっかりと握る掛布をそっと解き、シアの足の上にふわりとかけるものの、その仕草には気遣いと緊張感が漂っていた。
ジェイラスはヘリオスを見つめ、慈しむような視線を注ぐ。
(あれ……?)
そんなジェイラスを見て、シアの胸がドクンと大きく跳ねた。
(ジェイラスさんの目の色……やっぱり、ヘリオスと同じよね……)
あまりにもジェイラスを見つめてしまったようで、彼もシアの視線に気づき、目が合った。
吸い込まれそうな深い紫色の瞳が、シアすら知らないシアを見ているかのよう。
「ジェイラスさん……?」
これ以上彼に見られたら、本心をすべて暴かれそうで怖い。
「す、すまない……あ、その……昨日のことだが……」
ジェイラスの顔がみるみる赤くなり、彼の声はどこかうわずっている。まるで、伝えたい言葉が喉に詰まり、出口を見つけられないかのよう。
だが、彼はコホンとわざとらしい咳払いをして、表情を立て直した。
「いや、怪我をしている君に言うことではないな。まずは、ゆっくりと休んでくれ。使われた毒の種類は、こちらで把握している。傷口にも解毒薬を塗ったが、今晩は熱が出るかもしれない。苦しいときは遠慮せずに、そのベルを鳴らしてくれ」
彼が示したのは、使用人を呼ぶための小さな銀のベルだった。
「え、と。ジェイラスさんが?」
「ああ、俺が控えている。だから安心して眠ってくれ。お腹は空いていないか?」
そう言われると、夕食も食べずにここにやってきたのだ。だが、不思議と空腹を感じなかった。
「はい」
「そうか。だったらもう寝なさい。灯りは俺が消しておく」
子どもをあやすような言い方だが、シアはその言葉に素直に従うことにした。
頭の奥がズキズキと痛み、瞼も重くなっていた。
「はい。ありがとうございます。おやすみなさい」
シアは身体を横にして、目を閉じた。
室内はシンと静まり、時を刻む音がどこからか聞こえてくる。その音が、シアを夢の世界へと誘うかのよう。
人が動く気配がし、カチリと魔石ランプの明かりも消えた。闇が部屋を包み込み、静かに扉が閉ざされる音が響く。ジェイラスの足音が遠ざかり、シアは深い眠りに落ちていった。
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