【R18】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
48 / 94

第四章(4)

「今日から先生が三人もいらして、本当に喜ばしいことです」

 院長は喜びを隠しきれない。

「あ、シア先生。十歳までの子たちの授業ですが、三つに分けましょう」

 テリーの提案に、シアは首をひねる。

「三つ?」
「はい、僕が教える、シア先生が教える、ジェイラス先生が教える。教師役が三人いるから、子どもたちも三つに分けて、それぞれ順番で教えていけばいいですよね?」
「そうですね。では、それでいきましょう」

 教え子がこうして隣に立ち、同じ志を持ってくれることの心強さを、シアは初めて実感した。

「僕、ギニー語は教えられるほどではありませんから。ギニー語の授業はシア先生にお願いしたいと思います。僕は、基本的な読み書きを担当したいのですが」
「えぇ、ではテリーはそれをお願いします。私は、踏み込んだ勉強をしたい子たちを受け持つことにします」
「では、俺は身体を動かしたくて、元気がありあまっている子どもたちを引き受けよう。何も剣術だけではない。基礎体力の向上や柔軟性も必要だからな」

 ジェイラスの言葉に、シアは目から鱗が落ちる思いだった。
 騎士になるには、ただ剣を振るだけでは足りない。体力や判断力、柔軟性――それらすべてが子どもたちの将来を支える基盤となる。

 シア一人ではそこまで気が回らなかった。子どもたちの将来のことを考えれば、必要な指導だ。

「ありがとうございます」
「では、みなさん。子どもたちのところにいきましょう」

 役割分担が決まったのを見届けた院長の言葉は、やはり弾んでいた。

 院長に連れられて、いつもの教室に入ったシアだが、子どもたちからは熱い歓迎を受けた。

「先生、大丈夫?」
「先生、騎士さまたち、帰ったよ。
「先生、ぼく、パレードみてきたよ」

 先生、先生と、と次々に声をかけてくる子どもたちの純粋な笑顔に、心が熱くなる。これが、シアが教師を続ける理由の一つなのかもしれない。

「そしてみなさん、今日から新しい先生が増えました。拍手でお迎えしましょう」

 院長の言葉に「新しい先生?」と子どもたちは首を傾げるが、それでもパチパチと拍手をする。その無垢な仕草に、シアはくすりと笑った。

「みなさん、おはようございます」

 朝のあいさつと共にテリーが教室に入ってくると、室内はざわめき立つ。

「あ、テリーだ」
「え、だれ?」
「テリー、お仕事は? クビになったの?」
「こらこらこら。仕事はクビになってない。今日から、ここでシア先生と一緒に、君たちに勉強を教えることになりました」

 テリーの明るい声に、子どもたちの驚きの声が室内に響きわたる。

「えぇ~~!」
「はいはい、みなさん静かに」

 こうなったときの子どもたちを宥めるのは、院長の役目で慣れたもの。パンパンと手を叩きながら、子どもたちの注意を惹きつける。

「勉強をしたいと思う子どもたちが増え、そろそろシア先生一人では教えるのも限界だと思っていたところです。会長さんに相談したら、この学校の卒業生を教師として迎えたらどうだと、テリー先生を紹介してもらったのです。学びはこうやって次の世代に受け継がれるものですね。喜ばしいことです」

 幼い子には院長の話も難しかったのだろう。ただぽかんと見ているだけの子もいる。

「院長先生」

 一人の女の子が手をあげた。

「私も、先生になれるってことですか?」
「そうです。ここで勉強して、学んで。その学んだことを、次の子どもたちに教えたいと思ったら、ここで是非、その夢を叶えてください」
「はい。私、先生になります!」
「じゃ、ぼくは騎士」

 ぼくも、わたしも、子どもたちが続々と夢を話し出した。

「はい、では、早速、勉強を始めましょう」

 シアが声を張り上げたところで、子どもたちも静かになる。

「今日は先生が三人いますから……」

 テリーとジェイラスと決めた役割分担を、シアは子どもたちに伝えた。教室に響く彼女の声は、未来への希望と、子どもたちへの愛情に満ちていた。
感想 27

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。