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第四章(5)
「先生、さようなら」
最後の子どもたちが元気よく手を振って帰路につくのを見送り、シアはほっと息をついた。
夕暮れの光が窓から入り込み、教室内に長い影を落とす。
今日はテリーとジェイラスが子どもたちの指導に当たってくれたから、いつもより負担は軽かった。しかし、子どもたちの学びへの貪欲さは増すばかりだ。
普段は他の子に遠慮して質問ができなかった子も、積極的に質問をし、さらにもっと難しい問題に挑戦したいとまで言い出す始末。
その姿にシアも嬉しくなった半面、今まで彼らの学ぶ意欲を抑え込んでしまっていたのかと、自己嫌悪に陥った。
「シア先生」
隣の教室からテリーがやってきて、シアははっと顔をあげた。テリーの後ろにはジェイラスもいる。彼も最後の剣の指導が終わったのだろう。汗ばんだ額に少し疲れた色を浮かべつつ、それでも満足そうに笑みを浮かべていた。
「今日の授業は終わりですよね。今後について、少し相談したいのですが」
新しい教師としてテリーが加わった今、お互い、足りないところを補いながら、子どもたちの教育をよりよいものにしていきたい。
「ええ、それはお願いしたいところですが……」
そう言ったシアは、教室の前方にある時計にチラチラと視線を送る。
「あ、ヘリオスのお迎えですか? 大きくなったんでしょうね」
テリーの明るい声に、シアも少し恥ずかしくなる。
「そうなの、ごめんなさい」
「だったら、俺が迎えにいこう。ちょうど会長にも話があったところだ。ここに連れてくればいいのか?」
名乗りをあげたのはジェイラスだった。
「俺が迎えに行けば、その間、二人で相談ができるだろう?」
「え、と……そうですけども。だけど、ジェイラスさんに、そんな……申し訳ないです……」
シアは戸惑いを隠せない。それはやはり、彼の身分が原因だ。
「気にするな。さっきも言ったように、俺は会長に用がある。そのついでに君の息子を迎えに行く。そう思ってくれればいい」
「そうですが……」
ヘリオスがジェイラスと顔を合わせたのは、シアが毒で倒れた翌朝、ジェイラスが様子を見に来たときのことだ。
ジェイラスを見たヘリオスは、興奮した様子で「きしさまだ、きしさまだ」と声をあげていたが、その一回ぽっきりしか会っていない。
ヘリオスがジェイラスを受け入れてくれるかどうかが問題だ。
「もし、息子がぐずっていたら。フランクかコリンナに相談していただければ……」
「フランク? あぁ、君の代わりにここに来ていた教師だな。人のよい青年だった。わかった、ヘリオスに何かあったときには彼に頼ろう」
その言葉を聞いて、シアは胸をなでおろした。それになんとなく、彼にならヘリオスを任せても大丈夫だろうという思いもあった。
「では、ジェイラスさん。ヘリオスのお迎えをお願いしてもよろしいですか?」
「ああ。では、いってくる」
教室を出ていったジェイラスの足音が遠ざかる。その足音に耳をすませながら、感謝の気持ちに包まれた。
「では、シア先生。早速ですが、今後の授業について相談しましょう。そして、そのやり方を会長に提案して、会長の承認がおりたら実践する」
テリーの積極的な提案にシアも驚きを隠せない。いつの間にこれほどまで成長したのだろう。
「え、と。シア先生。僕の話、どこかおかしかったですか?」
どうやらシアも自分では気づかぬうちに笑みを浮かべていたようだ。テリーの成長を誇らしく思う気持ちが、自然と顔に表れていたのだ。
「いいえ、違うの。あなたがこんなに成長して……感慨深いというか……きっと、私は嬉しいのね」
シアの言葉に、テリーも釣られるように口元を緩めた。その笑顔が、二年前、シアの授業を受けていたテリーの姿と重なる。
「シア先生にそう言ってもらえて、僕も嬉しいです。会長がおっしゃった社会経験をという意味が、今になってよくわかります。僕、王都では魔石の納品作業をしていたんです。魔石を買ったお客様に、魔石を届ける仕事です」
モンクトン商会の魔石は安価で質が高く、国内だけでなく国外でも人気がある。彼はその仕事を通じて、さまざまな人々と出会い、世界を広げてきたのだ。
「それで、魔石を届けるために貴族学校へ行く機会もありました。授業風景は見られませんでしたが、学びの場を目にできました」
シアはテリーの話に耳を傾けた。外の世界で得た経験が、彼の視野をどれほど広げたのかが伝わってくる。
最後の子どもたちが元気よく手を振って帰路につくのを見送り、シアはほっと息をついた。
夕暮れの光が窓から入り込み、教室内に長い影を落とす。
今日はテリーとジェイラスが子どもたちの指導に当たってくれたから、いつもより負担は軽かった。しかし、子どもたちの学びへの貪欲さは増すばかりだ。
普段は他の子に遠慮して質問ができなかった子も、積極的に質問をし、さらにもっと難しい問題に挑戦したいとまで言い出す始末。
その姿にシアも嬉しくなった半面、今まで彼らの学ぶ意欲を抑え込んでしまっていたのかと、自己嫌悪に陥った。
「シア先生」
隣の教室からテリーがやってきて、シアははっと顔をあげた。テリーの後ろにはジェイラスもいる。彼も最後の剣の指導が終わったのだろう。汗ばんだ額に少し疲れた色を浮かべつつ、それでも満足そうに笑みを浮かべていた。
「今日の授業は終わりですよね。今後について、少し相談したいのですが」
新しい教師としてテリーが加わった今、お互い、足りないところを補いながら、子どもたちの教育をよりよいものにしていきたい。
「ええ、それはお願いしたいところですが……」
そう言ったシアは、教室の前方にある時計にチラチラと視線を送る。
「あ、ヘリオスのお迎えですか? 大きくなったんでしょうね」
テリーの明るい声に、シアも少し恥ずかしくなる。
「そうなの、ごめんなさい」
「だったら、俺が迎えにいこう。ちょうど会長にも話があったところだ。ここに連れてくればいいのか?」
名乗りをあげたのはジェイラスだった。
「俺が迎えに行けば、その間、二人で相談ができるだろう?」
「え、と……そうですけども。だけど、ジェイラスさんに、そんな……申し訳ないです……」
シアは戸惑いを隠せない。それはやはり、彼の身分が原因だ。
「気にするな。さっきも言ったように、俺は会長に用がある。そのついでに君の息子を迎えに行く。そう思ってくれればいい」
「そうですが……」
ヘリオスがジェイラスと顔を合わせたのは、シアが毒で倒れた翌朝、ジェイラスが様子を見に来たときのことだ。
ジェイラスを見たヘリオスは、興奮した様子で「きしさまだ、きしさまだ」と声をあげていたが、その一回ぽっきりしか会っていない。
ヘリオスがジェイラスを受け入れてくれるかどうかが問題だ。
「もし、息子がぐずっていたら。フランクかコリンナに相談していただければ……」
「フランク? あぁ、君の代わりにここに来ていた教師だな。人のよい青年だった。わかった、ヘリオスに何かあったときには彼に頼ろう」
その言葉を聞いて、シアは胸をなでおろした。それになんとなく、彼にならヘリオスを任せても大丈夫だろうという思いもあった。
「では、ジェイラスさん。ヘリオスのお迎えをお願いしてもよろしいですか?」
「ああ。では、いってくる」
教室を出ていったジェイラスの足音が遠ざかる。その足音に耳をすませながら、感謝の気持ちに包まれた。
「では、シア先生。早速ですが、今後の授業について相談しましょう。そして、そのやり方を会長に提案して、会長の承認がおりたら実践する」
テリーの積極的な提案にシアも驚きを隠せない。いつの間にこれほどまで成長したのだろう。
「え、と。シア先生。僕の話、どこかおかしかったですか?」
どうやらシアも自分では気づかぬうちに笑みを浮かべていたようだ。テリーの成長を誇らしく思う気持ちが、自然と顔に表れていたのだ。
「いいえ、違うの。あなたがこんなに成長して……感慨深いというか……きっと、私は嬉しいのね」
シアの言葉に、テリーも釣られるように口元を緩めた。その笑顔が、二年前、シアの授業を受けていたテリーの姿と重なる。
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「それで、魔石を届けるために貴族学校へ行く機会もありました。授業風景は見られませんでしたが、学びの場を目にできました」
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