50 / 94
第四章(6)
「そこで、時間割というものがあると知りました。クラスが年齢や能力別に分かれていて、一日に五科目や六科目も学ぶんです。この時間割なら、効率よく教え、学ぶことができると思いました」
この学校では、時間割といった概念がない。集まってきた子どもたちに、何を学びたいかを聞いて、それをひたすら教えていく。今日は昨日の続きを、明日は今日の続きをと、そんなふうに流れにまかせて教えていたのだ。
「もしかして、テリーはその時間割制度をここにも取り入れたいのかしら?」
「そうです、さすがシア先生です」
テリーの目は子犬のようにはしゃいでいた。その純粋な熱意に、シアは笑みを抑えきれなかった。だが、彼の提案に水を差すのは気が引ける。それでも、教師として意見を伝えるべきだ。
「時間割制度を採用するのは、いい案だと思います。ただ、これには二つのやり方があって……」
「二つ? 選任の教師が、その科目を教えるのではないんですか?」
「ええ、そう。そのやり方は科目担任制と呼ばれるやり方ね。だけどもう一つ。一人の先生がすべての教科を教える、固定担任制というやり方もあります」
「つまり、ギニー語の苦手な僕が、ギニー語を教えなければならないということですね?」
「そうなりますね。例えば、テリーが十歳以下の低学年のクラスを受け持ち、すべての科目を教える。私が上学年のクラスを受け持ってすべての科目を教える。となれば、固定担任制になるわけです」
テリーは腕を組んでう~んと唸った。
「時間割を取り入れるところまではできそうなんだけれどなぁ。やっぱり、僕とシア先生だけでは、先生の数が圧倒的に足りないですよね……あっ」
そこでテリーがポンと手を叩く。
「でしたら、その科目担任制と固定担任制の二つを取り入れるのはどうでしょう? 基本は固定担任制なんですが、一部の授業だけ科目担任制にする。つまり、ギニー語はシア先生が教えるんですけど、その代わり、僕は会計学を受け持ちます。もっと教師の数が増えたら、科目担任制にすればいいですよね?」
彼が言うようにその案であれば、実現できそうだ。
「そうね。すごいわ、テリー。では、まずはその案を会長に提案してみましょう。うまくいけば、教師の数も増えるかもしれないわ!」
「シア先生にそう言われると、なんか照れますね」
そう謙遜しながらも、テリーの顔は自信に満ちていた。
「あ、でも……」
シアが言いかけると、テリーは表情を曇らせる。
「何か気になることでも?」
「気になるというか……欲が出てきたの。今は子どもたちに勉強を教えているけれど、学びたい大人だっていると聞いているので」
「あ~、そうですね。僕がシア先生に勉強を習ったと言ったら、先輩たちはうらやましがっていましたし」
「大人向けの授業……始められるといいなって」
テリーはゆっくりと目を瞬かせ、驚きと興味が入り混じった表情を浮かべた。
「先生、それ、面白いです。でも、大人向けの授業って、子どもたちと同じですか?」
「そうですね、読み書きができない人は、やはりそれを学びたいと思うだろうけど。だけど、商売をしている人は、もっと世の中のことを知りたいのではないかしら? だから、大衆誌を使った授業とか……。嘘と噂と真実についてって、これはコリンナが言ったことですが」
「大人の授業すぎて、僕にはちょっと難しいです……でも、大人向けの授業、面白そうですね。例えば、会長が商売で儲ける方法の授業をしたら、商人たちがこぞってやってきますね」
「それだわ」
シアはひらめきに目を輝かせ、パチンと手を叩いた。
「授業とまではいかなくても、自分の経験を話してもらうの。えぇと……講演会?」
「なるほど。講演会ですね」
「それも一緒に会長へ提案してみましょう。授業の科目担任制、大人向けの講演会の実施。この学校がサバドの街以外にも広まっていけば、ここで教師をしたいという人や学びたいという人が、集まるかもしれないですね」
そこまで話をしたとき、廊下からバタバタと元気な足音が聞こえてきた。続いて、「こら、走るな!」という大人の声。
シアとテリーは顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべた。
「まま」
走って教室に飛び込んできたのは、ヘリオスだ。金色の髪を揺らし、満面の笑顔でシアに抱きついてくる。
遅れてすぐにジェイラスが姿を現し、息を弾ませながらも穏やかな笑みを浮かべていた。
この学校では、時間割といった概念がない。集まってきた子どもたちに、何を学びたいかを聞いて、それをひたすら教えていく。今日は昨日の続きを、明日は今日の続きをと、そんなふうに流れにまかせて教えていたのだ。
「もしかして、テリーはその時間割制度をここにも取り入れたいのかしら?」
「そうです、さすがシア先生です」
テリーの目は子犬のようにはしゃいでいた。その純粋な熱意に、シアは笑みを抑えきれなかった。だが、彼の提案に水を差すのは気が引ける。それでも、教師として意見を伝えるべきだ。
「時間割制度を採用するのは、いい案だと思います。ただ、これには二つのやり方があって……」
「二つ? 選任の教師が、その科目を教えるのではないんですか?」
「ええ、そう。そのやり方は科目担任制と呼ばれるやり方ね。だけどもう一つ。一人の先生がすべての教科を教える、固定担任制というやり方もあります」
「つまり、ギニー語の苦手な僕が、ギニー語を教えなければならないということですね?」
「そうなりますね。例えば、テリーが十歳以下の低学年のクラスを受け持ち、すべての科目を教える。私が上学年のクラスを受け持ってすべての科目を教える。となれば、固定担任制になるわけです」
テリーは腕を組んでう~んと唸った。
「時間割を取り入れるところまではできそうなんだけれどなぁ。やっぱり、僕とシア先生だけでは、先生の数が圧倒的に足りないですよね……あっ」
そこでテリーがポンと手を叩く。
「でしたら、その科目担任制と固定担任制の二つを取り入れるのはどうでしょう? 基本は固定担任制なんですが、一部の授業だけ科目担任制にする。つまり、ギニー語はシア先生が教えるんですけど、その代わり、僕は会計学を受け持ちます。もっと教師の数が増えたら、科目担任制にすればいいですよね?」
彼が言うようにその案であれば、実現できそうだ。
「そうね。すごいわ、テリー。では、まずはその案を会長に提案してみましょう。うまくいけば、教師の数も増えるかもしれないわ!」
「シア先生にそう言われると、なんか照れますね」
そう謙遜しながらも、テリーの顔は自信に満ちていた。
「あ、でも……」
シアが言いかけると、テリーは表情を曇らせる。
「何か気になることでも?」
「気になるというか……欲が出てきたの。今は子どもたちに勉強を教えているけれど、学びたい大人だっていると聞いているので」
「あ~、そうですね。僕がシア先生に勉強を習ったと言ったら、先輩たちはうらやましがっていましたし」
「大人向けの授業……始められるといいなって」
テリーはゆっくりと目を瞬かせ、驚きと興味が入り混じった表情を浮かべた。
「先生、それ、面白いです。でも、大人向けの授業って、子どもたちと同じですか?」
「そうですね、読み書きができない人は、やはりそれを学びたいと思うだろうけど。だけど、商売をしている人は、もっと世の中のことを知りたいのではないかしら? だから、大衆誌を使った授業とか……。嘘と噂と真実についてって、これはコリンナが言ったことですが」
「大人の授業すぎて、僕にはちょっと難しいです……でも、大人向けの授業、面白そうですね。例えば、会長が商売で儲ける方法の授業をしたら、商人たちがこぞってやってきますね」
「それだわ」
シアはひらめきに目を輝かせ、パチンと手を叩いた。
「授業とまではいかなくても、自分の経験を話してもらうの。えぇと……講演会?」
「なるほど。講演会ですね」
「それも一緒に会長へ提案してみましょう。授業の科目担任制、大人向けの講演会の実施。この学校がサバドの街以外にも広まっていけば、ここで教師をしたいという人や学びたいという人が、集まるかもしれないですね」
そこまで話をしたとき、廊下からバタバタと元気な足音が聞こえてきた。続いて、「こら、走るな!」という大人の声。
シアとテリーは顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべた。
「まま」
走って教室に飛び込んできたのは、ヘリオスだ。金色の髪を揺らし、満面の笑顔でシアに抱きついてくる。
遅れてすぐにジェイラスが姿を現し、息を弾ませながらも穏やかな笑みを浮かべていた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。