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第四章(7)
「おかえりなさい、ヘリオス」
シアは教室の入り口で、満面の笑みを浮かべる息子を迎えた。
「まま、まま。だっこ~」
ヘリオスが小さな両腕をいっぱいに伸ばし、弾んだ声で抱っこをせがむ。その無垢な笑顔に、シアの心は温かさで満たされた。
「もう、仕方ないわね」
笑いながらそう言い、ヘリオスを抱き上げようとした瞬間、傷口に鋭い痛みが走った。
「うっ……」
「まま?」
ヘリオスの大きな瞳が心配そうに見つめてくる。
「なんでもないわ。リオ、今日から新しい先生がきたのよ。テリー先生っていうの」
傷の痛みに顔をしかめつつも、なんでもないように装い、テリーをヘリオスに紹介した。
「こんにちは、ヘリオス。テリーです」
テリーがヘリオスの顔をのぞき込んで笑いかける。ヘリオスは少し恥ずかしそうに「リオよ」と答えた。
「ヘリオスが赤ちゃんのときに会ったことがあるんだよ。大きくなったね」
テリーは時の流れを懐かしむように目を細め、ヘリオスの頭をそっとなでた。
「ジェイラスさん。ヘリオスを迎えにいってくださってありがとうございます。必要な話は終わりました」
シアが礼を口にすると、ジェイラスは落ち着いた様子で軽く頷いた。
「そうか。それはよかった。俺も会長と話ができたしな。ヘリオス、おいで」
ジェイラスが意外にもヘリオスを抱き上げようと手を伸ばした。その仕草があまりにも自然であり、シアは一瞬驚いた。
「ママは王太子殿下をかばっただろ? まだその怪我が治っていないんだ」
ジェイラスの声には、シアへの気遣いとヘリオスへの優しさが込められている。ヘリオスは困ったようにシアとジェイラスの顔を交互に見つめ、しばらく迷った後、ジェイラスの腕に手を伸ばした。
「リオ?」
シアは目を大きく見開いた。ヘリオスとジェイラスが顔を合わせたのは、シアが倒れた翌朝以来、二回目だ。それなのに、ヘリオスがこんなにも自然にジェイラスに懐くとは信じられない。
「まま、いたい?」
ジェイラスに抱かれながら、ヘリオスが小さな声で尋ねてくる。その純粋な気遣いに、愛おしさでいっぱいになる。
「心配してくれたのね?」
ここで「痛くない」と嘘をつくのは、ヘリオスに正直でいたいという思いに反する。
「まだ、怪我が治っていないから、少しだけ痛いの」
そう言うと、ヘリオスは目を輝かせ「いたいのいたいの、とんでけ~!」と小さな手を大きく振り回した。その仕草に、シアは思わず笑みをこぼし、痛みすら一瞬忘れた。
「あれ?」
そこでテリーは首を傾げ、好奇心に満ちた瞳でジェイラスとヘリオスを交互に見つめる。
「ジェイラスさんとヘリオスって……なんか、似てますね。なんだろう……?」
まるで宝物を掘り当てたように、目を輝かせる。
シアの心臓がドキリと鳴った。シア自身もヘリオスとジェイラスにどこか似ている雰囲気を感じていたからだ。
「そ、そうかしら?」
その声は動揺を隠しきれていない。
「どうやら世界には、自分とそっくりの人間が三人はいるそうだ」
落ち着いたジェイラスの声に、テリーもはっとして耳を傾け始める。
「そして、自分にそっくりの人物と出会ったときは、三日間、わけのわからぬ高熱にうなされ、その後、衰弱してしまうらしい」
「え? そうなんですか?」
テリーが肩をふるわせ、驚きと少しの恐怖を浮かべる。
「と言われているだけで。それが真実か嘘かは、俺にはわからない」
ニヤリと笑ったジェイラスを見たテリーは「うわぁ。騙された」と悔しそうであった。
ジェイラスはいたずらっぽく肩をすくめ、シアもそのやりとりにくすりと笑う。
「シア先生。やっぱり大人向けの授業をやりましょうよ。嘘と噂と真実の見分け方」
悔しがるテリーの言葉に、ジェイラスは「なんのことだ?」と不思議そうに尋ねてくる。
シアはテリーと顔を見合わせ「新しい授業についてです」と、答えた。
「それよりも、そろそろ帰りましょうか。私、院長先生に挨拶をしてきますね」
「そうですね」
四人は院長室に立ち寄り、今日の授業の日誌を提出して別れを告げた。
院長のあたたかな笑顔に見送られ、養護院を出ると、空は燃えるような橙色に染まっていた。街の喧騒も夕暮れと共に落ち着き始めている。
「では、僕はここで。商会の寮に住んでいるので」
モンクトン商会では、商会で働く者のための寮が、商会の屋敷の裏に用意されている。
「では、また明日」
テリーは片手を上げ、軽やかな足取りで寮へと歩いていった。
「リオ。帰るわよ。降りて歩きましょう?」
だが、ジェイラスに抱かれたままのヘリオスは「や」と駄々をこね、ジェイラスの胸にしがみついた。その様子に、シアは苦笑するしかない。
ヘリオスにとって、ジェイラスの腕はよほど居心地がいいらしい。
シアは教室の入り口で、満面の笑みを浮かべる息子を迎えた。
「まま、まま。だっこ~」
ヘリオスが小さな両腕をいっぱいに伸ばし、弾んだ声で抱っこをせがむ。その無垢な笑顔に、シアの心は温かさで満たされた。
「もう、仕方ないわね」
笑いながらそう言い、ヘリオスを抱き上げようとした瞬間、傷口に鋭い痛みが走った。
「うっ……」
「まま?」
ヘリオスの大きな瞳が心配そうに見つめてくる。
「なんでもないわ。リオ、今日から新しい先生がきたのよ。テリー先生っていうの」
傷の痛みに顔をしかめつつも、なんでもないように装い、テリーをヘリオスに紹介した。
「こんにちは、ヘリオス。テリーです」
テリーがヘリオスの顔をのぞき込んで笑いかける。ヘリオスは少し恥ずかしそうに「リオよ」と答えた。
「ヘリオスが赤ちゃんのときに会ったことがあるんだよ。大きくなったね」
テリーは時の流れを懐かしむように目を細め、ヘリオスの頭をそっとなでた。
「ジェイラスさん。ヘリオスを迎えにいってくださってありがとうございます。必要な話は終わりました」
シアが礼を口にすると、ジェイラスは落ち着いた様子で軽く頷いた。
「そうか。それはよかった。俺も会長と話ができたしな。ヘリオス、おいで」
ジェイラスが意外にもヘリオスを抱き上げようと手を伸ばした。その仕草があまりにも自然であり、シアは一瞬驚いた。
「ママは王太子殿下をかばっただろ? まだその怪我が治っていないんだ」
ジェイラスの声には、シアへの気遣いとヘリオスへの優しさが込められている。ヘリオスは困ったようにシアとジェイラスの顔を交互に見つめ、しばらく迷った後、ジェイラスの腕に手を伸ばした。
「リオ?」
シアは目を大きく見開いた。ヘリオスとジェイラスが顔を合わせたのは、シアが倒れた翌朝以来、二回目だ。それなのに、ヘリオスがこんなにも自然にジェイラスに懐くとは信じられない。
「まま、いたい?」
ジェイラスに抱かれながら、ヘリオスが小さな声で尋ねてくる。その純粋な気遣いに、愛おしさでいっぱいになる。
「心配してくれたのね?」
ここで「痛くない」と嘘をつくのは、ヘリオスに正直でいたいという思いに反する。
「まだ、怪我が治っていないから、少しだけ痛いの」
そう言うと、ヘリオスは目を輝かせ「いたいのいたいの、とんでけ~!」と小さな手を大きく振り回した。その仕草に、シアは思わず笑みをこぼし、痛みすら一瞬忘れた。
「あれ?」
そこでテリーは首を傾げ、好奇心に満ちた瞳でジェイラスとヘリオスを交互に見つめる。
「ジェイラスさんとヘリオスって……なんか、似てますね。なんだろう……?」
まるで宝物を掘り当てたように、目を輝かせる。
シアの心臓がドキリと鳴った。シア自身もヘリオスとジェイラスにどこか似ている雰囲気を感じていたからだ。
「そ、そうかしら?」
その声は動揺を隠しきれていない。
「どうやら世界には、自分とそっくりの人間が三人はいるそうだ」
落ち着いたジェイラスの声に、テリーもはっとして耳を傾け始める。
「そして、自分にそっくりの人物と出会ったときは、三日間、わけのわからぬ高熱にうなされ、その後、衰弱してしまうらしい」
「え? そうなんですか?」
テリーが肩をふるわせ、驚きと少しの恐怖を浮かべる。
「と言われているだけで。それが真実か嘘かは、俺にはわからない」
ニヤリと笑ったジェイラスを見たテリーは「うわぁ。騙された」と悔しそうであった。
ジェイラスはいたずらっぽく肩をすくめ、シアもそのやりとりにくすりと笑う。
「シア先生。やっぱり大人向けの授業をやりましょうよ。嘘と噂と真実の見分け方」
悔しがるテリーの言葉に、ジェイラスは「なんのことだ?」と不思議そうに尋ねてくる。
シアはテリーと顔を見合わせ「新しい授業についてです」と、答えた。
「それよりも、そろそろ帰りましょうか。私、院長先生に挨拶をしてきますね」
「そうですね」
四人は院長室に立ち寄り、今日の授業の日誌を提出して別れを告げた。
院長のあたたかな笑顔に見送られ、養護院を出ると、空は燃えるような橙色に染まっていた。街の喧騒も夕暮れと共に落ち着き始めている。
「では、僕はここで。商会の寮に住んでいるので」
モンクトン商会では、商会で働く者のための寮が、商会の屋敷の裏に用意されている。
「では、また明日」
テリーは片手を上げ、軽やかな足取りで寮へと歩いていった。
「リオ。帰るわよ。降りて歩きましょう?」
だが、ジェイラスに抱かれたままのヘリオスは「や」と駄々をこね、ジェイラスの胸にしがみついた。その様子に、シアは苦笑するしかない。
ヘリオスにとって、ジェイラスの腕はよほど居心地がいいらしい。
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