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第四章(11)
結局シアは、ジェイラスから話を聞けずにいた。
目が覚めたヘリオスはジェイラスにすっかり懐き、一緒に食事を終えるまで彼の側を離れなかった。夕食のテーブルを囲む二人の姿を目にしたシアの胸には、温かさと同時にざわめきがこみ上げてきた。
それに、ヘリオスの前で話せる内容ではない。
授業の合間の昼休憩なら、ジェイラスと二人きりになれるかもしれない。だが、そんな話をした後、平静を装って授業を続けられるだろうか。ジェイラスが何を語るのか、シアには想像もつかなかった。不安と期待が交錯し、心は揺れ動く。
結局、悩んだ末に、学校の授業がない日を選び、モンクトン商会の屋敷でジェイラスと話をする場を設けることにした。
ジェイラスは、「どうせなら、ボブにも話を聞いてもらいたい」と提案した。シアは自分の不安を抑えるため、コリンナの同席を求めた。
時間はヘリオスが昼寝をする午後。普段なら、彼は一時間以上ぐっすり眠るはずだ。
場所は応接室。シアはコリンナと並んで座り、向かい側にジェイラスが腰をおろした。ボブはそんな彼らを見守るような位置に座っている。
シアの胸は、緊張で痛いほど高鳴っていた。この場があまりにも重く、喉は乾き、息を整えるのも難しかった。
「つまり、ジェイラスさんはシアの素性を知っていると?」
ボブの落ち着いた声が、静かな部屋に響いた。
ジェイラスとボブは何度も顔を合わせてきたせいか、二人の間には親密な信頼感が漂う。
「恐らく、そうだろうという話であって、絶対ではないのだが……」
ジェイラスは慎重に前置きし、言葉を選びながら続けた。
「彼女が自身に関する記憶を失っているため、それを証明する手段がない。それを承知のうえで聞いてほしい」
テーブルの上に置かれているお茶に、誰も手をつけない。白い湯気がゆらゆらと立ち上っては消えていく。
「シアは、恐らくアリシア・ガネル。ガネル子爵家の令嬢、王国騎士団、第二騎士団に所属する人物だ」
その言葉にシアの心は凍りついた。自分のことだと言われても、まるで遠い物語の登場人物のようで信じられなかった。頭の中で言葉を理解するが、現実感はまるでない。
「ヘリオスは……俺とアリシアの子……だと、思っている……」
その告白に、ボブもコリンナも驚いた様子はなかった。どちらかといえば「ああ、やっぱり」と納得した感じである。
シアはそんな彼らの反応に戸惑い、まるで自分が場違いな存在のように思えてきた。
「つまり、シアとジェイラスさんは、結婚されていた?」
コリンナの質問に、シアはどこか他人事のような気分で耳を傾けた。自分の過去が語られているのに、心が追いつかない。
「いや。結婚を前提とした付き合いをしていた……つもりだ」
ジェイラスの最後の言葉は、吐息と共に消えていく。
「シアが女性騎士というのであれば、あのときのあなたの行動も納得できるわ」
コリンナの目は遠くを見つめ、過去の記憶を辿っているかのよう。
「あのときのシアはとても勇敢だったわ。シアが通りかかってくれなかったら、私たちは今頃、ここにいなかったかもしれない。だからシアには無理を言って、サバドまで一緒に来てもらうことにしたの」
何度もコリンナから聞かされ感謝を伝えられた話だが、それでもシアにはまったく覚えがない。
「王都からサバドへ移動中、急に馬が暴れ出したの。そのまま馬車に乗り続けるのは危険だってフランクが言って、私たちは馬車から飛び降りたわ。シアはシェリーをしっかりと守ってくれたのよ」
ジェイラスは満足そうに頷いたが、シアにはその記憶がまるでない。まるで別人の物語を聞いているような気分だった。
「だけど、あなたが王国騎士団に所属する騎士だと聞いたら……納得できるかもしれないわ」
コリンナの顔は、感謝してもしきれない様子を物語っている。彼女のあたたかい眼差しに胸を締めつけられつつも、自分の過去が遠い霧の向こうにあるような感覚に襲われた。
目が覚めたヘリオスはジェイラスにすっかり懐き、一緒に食事を終えるまで彼の側を離れなかった。夕食のテーブルを囲む二人の姿を目にしたシアの胸には、温かさと同時にざわめきがこみ上げてきた。
それに、ヘリオスの前で話せる内容ではない。
授業の合間の昼休憩なら、ジェイラスと二人きりになれるかもしれない。だが、そんな話をした後、平静を装って授業を続けられるだろうか。ジェイラスが何を語るのか、シアには想像もつかなかった。不安と期待が交錯し、心は揺れ動く。
結局、悩んだ末に、学校の授業がない日を選び、モンクトン商会の屋敷でジェイラスと話をする場を設けることにした。
ジェイラスは、「どうせなら、ボブにも話を聞いてもらいたい」と提案した。シアは自分の不安を抑えるため、コリンナの同席を求めた。
時間はヘリオスが昼寝をする午後。普段なら、彼は一時間以上ぐっすり眠るはずだ。
場所は応接室。シアはコリンナと並んで座り、向かい側にジェイラスが腰をおろした。ボブはそんな彼らを見守るような位置に座っている。
シアの胸は、緊張で痛いほど高鳴っていた。この場があまりにも重く、喉は乾き、息を整えるのも難しかった。
「つまり、ジェイラスさんはシアの素性を知っていると?」
ボブの落ち着いた声が、静かな部屋に響いた。
ジェイラスとボブは何度も顔を合わせてきたせいか、二人の間には親密な信頼感が漂う。
「恐らく、そうだろうという話であって、絶対ではないのだが……」
ジェイラスは慎重に前置きし、言葉を選びながら続けた。
「彼女が自身に関する記憶を失っているため、それを証明する手段がない。それを承知のうえで聞いてほしい」
テーブルの上に置かれているお茶に、誰も手をつけない。白い湯気がゆらゆらと立ち上っては消えていく。
「シアは、恐らくアリシア・ガネル。ガネル子爵家の令嬢、王国騎士団、第二騎士団に所属する人物だ」
その言葉にシアの心は凍りついた。自分のことだと言われても、まるで遠い物語の登場人物のようで信じられなかった。頭の中で言葉を理解するが、現実感はまるでない。
「ヘリオスは……俺とアリシアの子……だと、思っている……」
その告白に、ボブもコリンナも驚いた様子はなかった。どちらかといえば「ああ、やっぱり」と納得した感じである。
シアはそんな彼らの反応に戸惑い、まるで自分が場違いな存在のように思えてきた。
「つまり、シアとジェイラスさんは、結婚されていた?」
コリンナの質問に、シアはどこか他人事のような気分で耳を傾けた。自分の過去が語られているのに、心が追いつかない。
「いや。結婚を前提とした付き合いをしていた……つもりだ」
ジェイラスの最後の言葉は、吐息と共に消えていく。
「シアが女性騎士というのであれば、あのときのあなたの行動も納得できるわ」
コリンナの目は遠くを見つめ、過去の記憶を辿っているかのよう。
「あのときのシアはとても勇敢だったわ。シアが通りかかってくれなかったら、私たちは今頃、ここにいなかったかもしれない。だからシアには無理を言って、サバドまで一緒に来てもらうことにしたの」
何度もコリンナから聞かされ感謝を伝えられた話だが、それでもシアにはまったく覚えがない。
「王都からサバドへ移動中、急に馬が暴れ出したの。そのまま馬車に乗り続けるのは危険だってフランクが言って、私たちは馬車から飛び降りたわ。シアはシェリーをしっかりと守ってくれたのよ」
ジェイラスは満足そうに頷いたが、シアにはその記憶がまるでない。まるで別人の物語を聞いているような気分だった。
「だけど、あなたが王国騎士団に所属する騎士だと聞いたら……納得できるかもしれないわ」
コリンナの顔は、感謝してもしきれない様子を物語っている。彼女のあたたかい眼差しに胸を締めつけられつつも、自分の過去が遠い霧の向こうにあるような感覚に襲われた。
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