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第四章(12)
「シアはあのとき、仕事を辞めて実家に帰るところだと言っていたの。もしかして、ジェイラスさんとの結婚が決まって……?」
コリンナが口元に手を当て、首を傾げた。三年前の記憶は、誰にとっても曖昧なものだ。
「なるほど。そうであれば、つじつまが合うかもしれないな」
コリンナの言葉の先を奪ったのはボブだった。
「客観的に見ても、ジェイラスさんとヘリオスはよく似ている。親子と言われても違和感はない。もしかしたら、ヘリオスを授かったから、騎士団を辞めて実家に帰ろうとしたところを、コリンナと出会ったのかもしれない」
「ガネル子爵に連絡を入れたところ、アリシアが戻っていないことが判明した。王都からガネル領に戻るには、サバドを経由する必要があったが、サバド行きの馬車の名簿にはアリシアの名前がなかった。だが、モンクトン商会の人間と行動を共にしたのであれば、名簿に名前がなかったことにも納得ができる」
まるで過去を悔やむように吐露するジェイラスの姿を見れば、シアの心がしくしくと痛み出す。彼がどれほどの思いを抱えてきたのか、それが伝わってくる。
「サバドの養護院での取り組みを聞いたとき、そこで子どもたちに勉強を教えているのはアリシアではないかと疑った。こうして彼女と会い、話をして、剣を交わらせ、シアがアリシア・ガネルであると確信している」
ジェイラスは紫色の瞳で真っすぐにシアを見つめた。シアもすべてを見透かすようなこの視線から、目が離せない。
だけどこの眼差しを知っている。ときにやさしくて、ときに甘えたがりで、ときに心強い。
記憶の断片に触れるようなもどかしさが、シアの心に渦巻き始める。
「会長にはアリシアを保護してもらった恩義を感じている。だが……アリシアを返していただきたい」
切なさがにじむ声で懇願され、シアの心臓は痛いくらいに激しく動いていた。
「ジェイラスさん。勘違いしないでいただきたい。シアを返すも何も……。私たちは行き場のないシアを、モンクトン商会で雇い、生活の場を与えていただけ。彼女が本来の場所に戻りたいというのであれば、それを止める権利など我々にはありません」
それは、今後の人生をシア自身で選べと、そう言っているかのよう。
シアは膝の上においた手で、ワンピースのスカートをぎゅっと握りしめ、感情の波に耐えた。
「なあ、シア。君はどうしたい?」
幼子を諭すような口調で尋ねるボブからは、やさしさと気遣いが見え隠れする。
「私は……」
モンクトン商会で目覚めた日。シアが不安がらないようにと励ましてくれたのはコリンナだった。妊娠がわかり、出産の後押しをしてくれたのもコリンナだ。ヘリオスが生まれると、シェリーが弟のように可愛がってくれた。
記憶もない、お金もない、仕事もないシアに手を差し伸べてくれたのはボブだ。養護院での教師役はシアにとって天職だった。
ジェイラスと出会わなければ、きっとこれからも養護院で子供たちに教え続けただろう。
だけど、それではダメだとシアの心の奥が訴えるのだ。
家族はどうしている? ヘリオスの父親は?
会いたい、知りたい――。
そんな気持ちが膨れ上がってくる。
「私は……できれば記憶を取り戻したいと思います。ヘリオスに父親がいるなら、三人で一緒に暮らしたい。ヘリオスのためにも……」
ガタガタッと激しい音がした。驚き顔を上げると、ジェイラスが顔を真っ赤にして立ち上がっていた。
ボブもコリンナも驚いて、ジェイラスを見上げる。
そんな彼は、視線に気がつくと「失礼した」と言って、もう一度腰をおろした。
コリンナが口元に手を当て、首を傾げた。三年前の記憶は、誰にとっても曖昧なものだ。
「なるほど。そうであれば、つじつまが合うかもしれないな」
コリンナの言葉の先を奪ったのはボブだった。
「客観的に見ても、ジェイラスさんとヘリオスはよく似ている。親子と言われても違和感はない。もしかしたら、ヘリオスを授かったから、騎士団を辞めて実家に帰ろうとしたところを、コリンナと出会ったのかもしれない」
「ガネル子爵に連絡を入れたところ、アリシアが戻っていないことが判明した。王都からガネル領に戻るには、サバドを経由する必要があったが、サバド行きの馬車の名簿にはアリシアの名前がなかった。だが、モンクトン商会の人間と行動を共にしたのであれば、名簿に名前がなかったことにも納得ができる」
まるで過去を悔やむように吐露するジェイラスの姿を見れば、シアの心がしくしくと痛み出す。彼がどれほどの思いを抱えてきたのか、それが伝わってくる。
「サバドの養護院での取り組みを聞いたとき、そこで子どもたちに勉強を教えているのはアリシアではないかと疑った。こうして彼女と会い、話をして、剣を交わらせ、シアがアリシア・ガネルであると確信している」
ジェイラスは紫色の瞳で真っすぐにシアを見つめた。シアもすべてを見透かすようなこの視線から、目が離せない。
だけどこの眼差しを知っている。ときにやさしくて、ときに甘えたがりで、ときに心強い。
記憶の断片に触れるようなもどかしさが、シアの心に渦巻き始める。
「会長にはアリシアを保護してもらった恩義を感じている。だが……アリシアを返していただきたい」
切なさがにじむ声で懇願され、シアの心臓は痛いくらいに激しく動いていた。
「ジェイラスさん。勘違いしないでいただきたい。シアを返すも何も……。私たちは行き場のないシアを、モンクトン商会で雇い、生活の場を与えていただけ。彼女が本来の場所に戻りたいというのであれば、それを止める権利など我々にはありません」
それは、今後の人生をシア自身で選べと、そう言っているかのよう。
シアは膝の上においた手で、ワンピースのスカートをぎゅっと握りしめ、感情の波に耐えた。
「なあ、シア。君はどうしたい?」
幼子を諭すような口調で尋ねるボブからは、やさしさと気遣いが見え隠れする。
「私は……」
モンクトン商会で目覚めた日。シアが不安がらないようにと励ましてくれたのはコリンナだった。妊娠がわかり、出産の後押しをしてくれたのもコリンナだ。ヘリオスが生まれると、シェリーが弟のように可愛がってくれた。
記憶もない、お金もない、仕事もないシアに手を差し伸べてくれたのはボブだ。養護院での教師役はシアにとって天職だった。
ジェイラスと出会わなければ、きっとこれからも養護院で子供たちに教え続けただろう。
だけど、それではダメだとシアの心の奥が訴えるのだ。
家族はどうしている? ヘリオスの父親は?
会いたい、知りたい――。
そんな気持ちが膨れ上がってくる。
「私は……できれば記憶を取り戻したいと思います。ヘリオスに父親がいるなら、三人で一緒に暮らしたい。ヘリオスのためにも……」
ガタガタッと激しい音がした。驚き顔を上げると、ジェイラスが顔を真っ赤にして立ち上がっていた。
ボブもコリンナも驚いて、ジェイラスを見上げる。
そんな彼は、視線に気がつくと「失礼した」と言って、もう一度腰をおろした。
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