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第四章(13)
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それを見送ったボブは、寂しそうに目を細くして、静かに語り出す。
「私たちは、シアが決めたことに何も言わない。だが、君がモンクトン商会にもたらした成果には、誇りに思ってほしい」
「では、彼女の怪我が治ったところで、王都へ連れて帰りたいと思う」
「えっ?」
ジェイラスの言葉に、シアは驚きの声をあげる。
「そんなにすぐ、王都に行かなければならないのですか?」
「君がアリシア・ガネルだとしたら騎士団の人間だ。アリシアは今、騎士団を休職している。だから、できるだけ早く、騎士団に戻ってきてほしい」
心臓が鷲づかみにされたように苦しく、シアは握りしめる手にさらに力を込めた。
「でも、学校の子どもたちが……」
ボブはゆるりと首を横に振る。
「シア。こちらのことは心配しなくていい。君は君のやるべきことをやってほしい」
「でも、困るのは子どもたちです」
「安心しなさい。テリーから提案書をもらった。あれはシアが教えながら、テリーに書かせたものだろう?」
それは、教師を増やして学校を担任制にしたいという提案書のことだ。
「君の教えは確実に根づいている。学校についてはテリーが引き継ぐし、シアのような教師になりたいと言っている子も多い。その子たちにも教える機会を作ってあげたいんだ」
「私は……もう、いらない……?」
「そうじゃない。教えというのは引き継がれていく。シアの教え子たちが、次の世代に教える」
それは院長も言っていたこと。
「だからシアにはシアにしかできないことをやってほしい」
きつく握りしめた拳が、かすかに震え始めた。その手をやさしくコリンナが包み込む。
「シア。あなたは勇敢な女性よ。三年前に私たちを助けてくれた。あのとき、あなたが来てくれて、どれだけ心強かったかわかる? それに先日だって王太子殿下を助けたでしょう?」
あのときは無我夢中だった。
モンクトン商会主催の晩餐会で王太子が暗殺されるようなことがあれば、商会の未来にも影響すると思ったからだ。
「学校の教師はあなたの教え子が引き継いでくれる。だけど、私を暴漢から助けてくれたり、王太子殿下を身体をはって助けたりするのは誰でもできることではないわ。ましてヘリオスの母親は、あなたしかいない」
本当の自分を知りたいと思う気持ちと、ここで今の生活を続けたいという思いが激しくぶつかり合う。
それはジェイラスの言葉で過去を知りたいと思い、ずっとずっと悩み続けてきたこと。それでもヘリオスには父親が必要だと感じたから、本当の自分を知りたいと口にした。だけど、怖い。
――変化を恐れていては前には進めない。
そう言ったのは誰だったろう?
ふと頭に横切ったその言葉が、シアの気持ちを支配した。
「……わかりました。怪我が治ったら、ジェイラスさんと王都に向かいます。だけど、それまでの間は、養護院での仕事を続けさせてください。できれば引き継ぎをしたいので、後任の先生を紹介していただけると……」
それがシアの選んだ妥協点だった。過去と未来を繋ぐための一歩。
「もちろんだよ、シア。それに、君が王都へ行ったからといって、私たちの絆が消えるわけではない」
ボブの声にシアの心は少しだけ軽くなった。
「そうよ、シア。この人のことだから、王都でも同じような学校を作れないかって、考えているかもしれないわ。そのときはシアが学校の代表ね」
コリンナがおどけて言えば、ジェイラスも「困ったな」と苦笑した。
「殿下からは、アリシアには騎士団に戻ってほしいと強く要望を受けている」
「やだぁ、ジェイラスさん。そんな今すぐの話じゃなくていいのよ。シアが騎士団を辞めた後、とかね!」
コリンナの話を聞いて、そんな選択肢もありかもしれないと思えば、シアの心は軽くなった。いや、何よりも、離れていてもボブやコリンナとの繋がりが消えるわけではないのだ。
その確信が、シアの心から重い悩みを吹き飛ばした。
「私たちは、シアが決めたことに何も言わない。だが、君がモンクトン商会にもたらした成果には、誇りに思ってほしい」
「では、彼女の怪我が治ったところで、王都へ連れて帰りたいと思う」
「えっ?」
ジェイラスの言葉に、シアは驚きの声をあげる。
「そんなにすぐ、王都に行かなければならないのですか?」
「君がアリシア・ガネルだとしたら騎士団の人間だ。アリシアは今、騎士団を休職している。だから、できるだけ早く、騎士団に戻ってきてほしい」
心臓が鷲づかみにされたように苦しく、シアは握りしめる手にさらに力を込めた。
「でも、学校の子どもたちが……」
ボブはゆるりと首を横に振る。
「シア。こちらのことは心配しなくていい。君は君のやるべきことをやってほしい」
「でも、困るのは子どもたちです」
「安心しなさい。テリーから提案書をもらった。あれはシアが教えながら、テリーに書かせたものだろう?」
それは、教師を増やして学校を担任制にしたいという提案書のことだ。
「君の教えは確実に根づいている。学校についてはテリーが引き継ぐし、シアのような教師になりたいと言っている子も多い。その子たちにも教える機会を作ってあげたいんだ」
「私は……もう、いらない……?」
「そうじゃない。教えというのは引き継がれていく。シアの教え子たちが、次の世代に教える」
それは院長も言っていたこと。
「だからシアにはシアにしかできないことをやってほしい」
きつく握りしめた拳が、かすかに震え始めた。その手をやさしくコリンナが包み込む。
「シア。あなたは勇敢な女性よ。三年前に私たちを助けてくれた。あのとき、あなたが来てくれて、どれだけ心強かったかわかる? それに先日だって王太子殿下を助けたでしょう?」
あのときは無我夢中だった。
モンクトン商会主催の晩餐会で王太子が暗殺されるようなことがあれば、商会の未来にも影響すると思ったからだ。
「学校の教師はあなたの教え子が引き継いでくれる。だけど、私を暴漢から助けてくれたり、王太子殿下を身体をはって助けたりするのは誰でもできることではないわ。ましてヘリオスの母親は、あなたしかいない」
本当の自分を知りたいと思う気持ちと、ここで今の生活を続けたいという思いが激しくぶつかり合う。
それはジェイラスの言葉で過去を知りたいと思い、ずっとずっと悩み続けてきたこと。それでもヘリオスには父親が必要だと感じたから、本当の自分を知りたいと口にした。だけど、怖い。
――変化を恐れていては前には進めない。
そう言ったのは誰だったろう?
ふと頭に横切ったその言葉が、シアの気持ちを支配した。
「……わかりました。怪我が治ったら、ジェイラスさんと王都に向かいます。だけど、それまでの間は、養護院での仕事を続けさせてください。できれば引き継ぎをしたいので、後任の先生を紹介していただけると……」
それがシアの選んだ妥協点だった。過去と未来を繋ぐための一歩。
「もちろんだよ、シア。それに、君が王都へ行ったからといって、私たちの絆が消えるわけではない」
ボブの声にシアの心は少しだけ軽くなった。
「そうよ、シア。この人のことだから、王都でも同じような学校を作れないかって、考えているかもしれないわ。そのときはシアが学校の代表ね」
コリンナがおどけて言えば、ジェイラスも「困ったな」と苦笑した。
「殿下からは、アリシアには騎士団に戻ってほしいと強く要望を受けている」
「やだぁ、ジェイラスさん。そんな今すぐの話じゃなくていいのよ。シアが騎士団を辞めた後、とかね!」
コリンナの話を聞いて、そんな選択肢もありかもしれないと思えば、シアの心は軽くなった。いや、何よりも、離れていてもボブやコリンナとの繋がりが消えるわけではないのだ。
その確信が、シアの心から重い悩みを吹き飛ばした。
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