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第六章(10)
「……シア、大丈夫か? どこか痛いところは?」
「あ、うん。大丈夫」
先ほどまでの頭痛も、今では嘘のように引いている。
「ラス、ごめんね」
「シア? 思い出した?」
アリシアはコクリと頷く。
ランドルフとクラリッサの結婚パーティーがあった三年前。彼から求婚されたあの日。そして逃げ出した翌日のことがまざまざと思い出される。
だからといって、シアとして過ごした三年間の記憶が消えるわけでもなかった。
アリシアは、三年前にコリンナたちと出会い、記憶を失う直前までの記憶を口にした。
「……なるほどな。モンクトン夫人が襲われたのも、馬が暴れたのも、フランクの仕業だろう。不自然すぎる。まあ、これも今後調べていけばはっきりするだろうな。それよりもシア、あのとき、どうして俺から逃げた?
鋭い紫眼がアリシアを射貫く。
「そ、それは……ごめんなさい……」
それしか言えない。
三年前のアリシアは弱かった。着飾ってジェイラスの隣に立ってみたものの、彼と釣り合っているとは思えなかった。
それにジェイラスは、他の令嬢からも声をかけられ談笑を楽しんでいるというのに、アリシアに声をかけようとする男性はいなかった。
それもあり、自身が消失していたところにジェイラスからの言葉。
――俺たちの子が殿下の子を護衛する。それに憧れがあるんだ。
だから子を産んでくれる女性であれば、誰でもいいのだと思ったこと。
さらにジェイラスは、アリシアに対して決して好きだとか愛しているとか、言ってくれなかったこと。
「え? 俺、シアに言ってない? 好きだって」
「三年前は……」
「すまない……心の中では何千回も叫んでいた」
今になってしれっとそのようなことを言われ、アリシアもどう答えたら良いかがわからない。
「それに、誤解を与えたならすまない。俺の子がランドルフの子の護衛……まぁ、今であればヘリオスがアンドリュー王子の護衛につくのが夢だというのは、俺にとってランドルフの存在が生きる意味だったからだ」
「それは……ラスの両親の話と関係する?」
「する。ランドルフがいなければ、俺は今、生きてはいなかっただろう。だから自分の子にも、心の支えになれるような人と出会ってほしい。だが、その相手はランドルフの子だろう。そういった願いだ。あのときは昂ぶっていたから、いろいろと言葉が足りなかったかもしれない」
今なら彼の言葉を信じることができる。それはシアだったときの記憶によるもの。彼女は、彼の隣に立つにふさわしい女性になろうと、そう決めたから。
「三年前、気持ちばかりが先走って、何も考えずに求婚したことを後悔した」
ジェイラスが立ち上がり、机の引き出しから小さな箱を取り出した。
「君と会う約束をしたあの日。本当はこれを渡したかった」
小さな箱に入っていたのは、紫色の宝石がはめ込まれた指輪。
「アリシア・ガネル。どうか私、ジェイラス・ケンジットと結婚していいただけませんか?」
真剣な眼差しに訴えられ、目の奥がツンと熱くなる。唇が震え、このまま何か言葉を紡げば、涙も一緒にこぼれてきそうだった。それでもなんとか気持ちを整え「はい」と答えた。
「この指輪を、シアの指にはめてもいいか?」
「もちろん」
箱から取り出した指輪を、ジェイラスがアリシアの左手の薬指にはめた。だが、アリシアはすぐに気づいた。
「あっ。ご、ごめんなさい。三年経って、サイズが変わったみたいで……」
指輪はすかすかで、これではすぐに指から抜けてしまう。
「すぐにサイズを直す。十日……十日後にやり直す! それまで俺から逃げるなよ?」
「逃げません」
にっこりと笑って顔を合わせた二人は、軽くキスを交わした。
「あ、うん。大丈夫」
先ほどまでの頭痛も、今では嘘のように引いている。
「ラス、ごめんね」
「シア? 思い出した?」
アリシアはコクリと頷く。
ランドルフとクラリッサの結婚パーティーがあった三年前。彼から求婚されたあの日。そして逃げ出した翌日のことがまざまざと思い出される。
だからといって、シアとして過ごした三年間の記憶が消えるわけでもなかった。
アリシアは、三年前にコリンナたちと出会い、記憶を失う直前までの記憶を口にした。
「……なるほどな。モンクトン夫人が襲われたのも、馬が暴れたのも、フランクの仕業だろう。不自然すぎる。まあ、これも今後調べていけばはっきりするだろうな。それよりもシア、あのとき、どうして俺から逃げた?
鋭い紫眼がアリシアを射貫く。
「そ、それは……ごめんなさい……」
それしか言えない。
三年前のアリシアは弱かった。着飾ってジェイラスの隣に立ってみたものの、彼と釣り合っているとは思えなかった。
それにジェイラスは、他の令嬢からも声をかけられ談笑を楽しんでいるというのに、アリシアに声をかけようとする男性はいなかった。
それもあり、自身が消失していたところにジェイラスからの言葉。
――俺たちの子が殿下の子を護衛する。それに憧れがあるんだ。
だから子を産んでくれる女性であれば、誰でもいいのだと思ったこと。
さらにジェイラスは、アリシアに対して決して好きだとか愛しているとか、言ってくれなかったこと。
「え? 俺、シアに言ってない? 好きだって」
「三年前は……」
「すまない……心の中では何千回も叫んでいた」
今になってしれっとそのようなことを言われ、アリシアもどう答えたら良いかがわからない。
「それに、誤解を与えたならすまない。俺の子がランドルフの子の護衛……まぁ、今であればヘリオスがアンドリュー王子の護衛につくのが夢だというのは、俺にとってランドルフの存在が生きる意味だったからだ」
「それは……ラスの両親の話と関係する?」
「する。ランドルフがいなければ、俺は今、生きてはいなかっただろう。だから自分の子にも、心の支えになれるような人と出会ってほしい。だが、その相手はランドルフの子だろう。そういった願いだ。あのときは昂ぶっていたから、いろいろと言葉が足りなかったかもしれない」
今なら彼の言葉を信じることができる。それはシアだったときの記憶によるもの。彼女は、彼の隣に立つにふさわしい女性になろうと、そう決めたから。
「三年前、気持ちばかりが先走って、何も考えずに求婚したことを後悔した」
ジェイラスが立ち上がり、机の引き出しから小さな箱を取り出した。
「君と会う約束をしたあの日。本当はこれを渡したかった」
小さな箱に入っていたのは、紫色の宝石がはめ込まれた指輪。
「アリシア・ガネル。どうか私、ジェイラス・ケンジットと結婚していいただけませんか?」
真剣な眼差しに訴えられ、目の奥がツンと熱くなる。唇が震え、このまま何か言葉を紡げば、涙も一緒にこぼれてきそうだった。それでもなんとか気持ちを整え「はい」と答えた。
「この指輪を、シアの指にはめてもいいか?」
「もちろん」
箱から取り出した指輪を、ジェイラスがアリシアの左手の薬指にはめた。だが、アリシアはすぐに気づいた。
「あっ。ご、ごめんなさい。三年経って、サイズが変わったみたいで……」
指輪はすかすかで、これではすぐに指から抜けてしまう。
「すぐにサイズを直す。十日……十日後にやり直す! それまで俺から逃げるなよ?」
「逃げません」
にっこりと笑って顔を合わせた二人は、軽くキスを交わした。
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