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†ジェイラスの友(2)
「おめでとう、ジェイ。よかったな」
ジェイラスはアリシアと結婚式を挙げた。晴れた空に鳩の羽音が響く。
聖堂の扉が開け放たれ、純白のドレスに身を包むアリシアと、騎士の礼服に身を正したジェイラスが、大階段の上に現れた。
ランドルフはクラリッサとアンドリューを連れ、階段の上で二人を待っていた。後方では、生後半年の娘が乳母に抱かれ、愛らしい寝息を立てている。
「ありがとうございます、殿下」
ジェイラスの瞳には、かつての虚無はなく深い喜びが見える。彼にこのような顔をさせる人間が存在していることが奇跡なのだ。
アリシアも優雅に頭を下げ、微笑んだ。
「ここでは友人として扱ってくれ、ジェイ」
「おめでとう、アリシア。わたくしも友人として心から祝福いたします」
いつの間にか、クラリッサもアリシアとの仲を深めていた。クラリッサは自分の護衛にとアリシアをと望んだようだが、それに反対したのはもちろんジェイラスだ。
アリシアは第二騎士団の伝令係のままだが、鳩の担当となった。それはアリシアが鳩小屋に行くと、鳩たちがおとなしくなるというのが理由らしい。必要であれば鳩を飛ばし、鳩の世話をする毎日。
「ところで、ヘリオスはどうしている?」
このような厳かな式典で、おとなしくできるような年でもないだろう。
「あぁ……父が……」
ジェイラスが白目になりながら顔を向けた先には、ヘリオスを抱いてニコニコとしている公爵の姿があった。
「なるほどな」
「アリシア、また後でお会いしましょう」
クラリッサが手を振り、ランドルフたちは先に人混みから離れた。
ケンジット公爵は、突然の孫に戸惑いつつも、わりと素直にその存在を受け入れたようだ。
その後は、あのようにヘリオスを離さないらしい。「じいじ」と呼ばれるたびに、目尻を下げているのだとか。
近衛騎士団長時代の威厳はどこにいったものかとジェイラスは笑っていたが、彼だって似たようなものだろう。
こうやって二人が、無事に結婚式を挙げられたのも、一年前の事件があらかた片づいたためである。
ヘバーリア国の呪具による騒動は、すべてヘバーリア国が秘密裏に処理をすすめた。
呪具を扱っていた民族の末裔たちが引き起こした内乱みたいなもの。そんな位置づけにされている。
魔法具の普及と共に隅に追いやられた呪具だが、価値を見直せと、そういった思いがあったらしい。
その力を見せつけるため、彼らが目をつけたのがユグリ国のモンクトン商会だった。ここはギニー国とつながっているから、呪具の力でそのつながりを断ち切りたかった。そしてモンクトン商会とヘバーリア国をつなげ、呪具師の力を見せつけようとしたのだ。
コリンナが王都セレを訪れた日、フランクが呪具を使って彼女の記憶を奪おうとした。しかし、彼女が臨時の護衛として雇ったアリシアが、呪具による呪詛を受けてしまい、自身に関する記憶をすべて失った。
その後三年間、アリシアは行方不明者として扱われた。
だが紆余曲折の末、ジェイラスはアリシアと再会でき、なんとか彼女にかけられた呪詛を解除できたわけだが、その呪具をエイミが嬉々として解析していたのは言うまでもない。
どうやら忘却の呪詛は「愛する者を疑ったとき」に発動するものだった。これは、エイミが呪具を解析した際にわかった事実。
モンクトン夫妻は、離れていても確かな絆で結ばれていた。
しかしあのときのアリシアは、ジェイラスの愛を疑っていた。だからアリシアが呪詛を受けたのだ。
またその原因が、舞い上がり過ぎたジェイラスと、見目紛らわしいエイミのせいだとわかれば、ランドルフも頭を抱えたくなる。
あのパーティーで、ジェイラスはいやいやエイミと一緒に踊っていたのを思い出した。もちろん、エイミが脅して無理やり踊ったのだ。
後日、アリシアがジェイラスの元を去った理由を聞いたエイミは「ごめんね~」とアリシアに謝っていた。
とにかく、すべてが丸くおさまった。
これでジェイラスも死に急ぐようなことはしないはず。
そろそろランドルフも「破天荒な王太子」の汚名を返上したい。
むしろこれ以上、ジェイラスをこれ以上振り回すのは、気の毒だ。
バササササ――。
突然の羽音に、ランドルフは顔を上げた。
頭上を一羽の白い鳩が、左足に手紙をつけて飛んでいった。
ジェイラスはアリシアと結婚式を挙げた。晴れた空に鳩の羽音が響く。
聖堂の扉が開け放たれ、純白のドレスに身を包むアリシアと、騎士の礼服に身を正したジェイラスが、大階段の上に現れた。
ランドルフはクラリッサとアンドリューを連れ、階段の上で二人を待っていた。後方では、生後半年の娘が乳母に抱かれ、愛らしい寝息を立てている。
「ありがとうございます、殿下」
ジェイラスの瞳には、かつての虚無はなく深い喜びが見える。彼にこのような顔をさせる人間が存在していることが奇跡なのだ。
アリシアも優雅に頭を下げ、微笑んだ。
「ここでは友人として扱ってくれ、ジェイ」
「おめでとう、アリシア。わたくしも友人として心から祝福いたします」
いつの間にか、クラリッサもアリシアとの仲を深めていた。クラリッサは自分の護衛にとアリシアをと望んだようだが、それに反対したのはもちろんジェイラスだ。
アリシアは第二騎士団の伝令係のままだが、鳩の担当となった。それはアリシアが鳩小屋に行くと、鳩たちがおとなしくなるというのが理由らしい。必要であれば鳩を飛ばし、鳩の世話をする毎日。
「ところで、ヘリオスはどうしている?」
このような厳かな式典で、おとなしくできるような年でもないだろう。
「あぁ……父が……」
ジェイラスが白目になりながら顔を向けた先には、ヘリオスを抱いてニコニコとしている公爵の姿があった。
「なるほどな」
「アリシア、また後でお会いしましょう」
クラリッサが手を振り、ランドルフたちは先に人混みから離れた。
ケンジット公爵は、突然の孫に戸惑いつつも、わりと素直にその存在を受け入れたようだ。
その後は、あのようにヘリオスを離さないらしい。「じいじ」と呼ばれるたびに、目尻を下げているのだとか。
近衛騎士団長時代の威厳はどこにいったものかとジェイラスは笑っていたが、彼だって似たようなものだろう。
こうやって二人が、無事に結婚式を挙げられたのも、一年前の事件があらかた片づいたためである。
ヘバーリア国の呪具による騒動は、すべてヘバーリア国が秘密裏に処理をすすめた。
呪具を扱っていた民族の末裔たちが引き起こした内乱みたいなもの。そんな位置づけにされている。
魔法具の普及と共に隅に追いやられた呪具だが、価値を見直せと、そういった思いがあったらしい。
その力を見せつけるため、彼らが目をつけたのがユグリ国のモンクトン商会だった。ここはギニー国とつながっているから、呪具の力でそのつながりを断ち切りたかった。そしてモンクトン商会とヘバーリア国をつなげ、呪具師の力を見せつけようとしたのだ。
コリンナが王都セレを訪れた日、フランクが呪具を使って彼女の記憶を奪おうとした。しかし、彼女が臨時の護衛として雇ったアリシアが、呪具による呪詛を受けてしまい、自身に関する記憶をすべて失った。
その後三年間、アリシアは行方不明者として扱われた。
だが紆余曲折の末、ジェイラスはアリシアと再会でき、なんとか彼女にかけられた呪詛を解除できたわけだが、その呪具をエイミが嬉々として解析していたのは言うまでもない。
どうやら忘却の呪詛は「愛する者を疑ったとき」に発動するものだった。これは、エイミが呪具を解析した際にわかった事実。
モンクトン夫妻は、離れていても確かな絆で結ばれていた。
しかしあのときのアリシアは、ジェイラスの愛を疑っていた。だからアリシアが呪詛を受けたのだ。
またその原因が、舞い上がり過ぎたジェイラスと、見目紛らわしいエイミのせいだとわかれば、ランドルフも頭を抱えたくなる。
あのパーティーで、ジェイラスはいやいやエイミと一緒に踊っていたのを思い出した。もちろん、エイミが脅して無理やり踊ったのだ。
後日、アリシアがジェイラスの元を去った理由を聞いたエイミは「ごめんね~」とアリシアに謝っていた。
とにかく、すべてが丸くおさまった。
これでジェイラスも死に急ぐようなことはしないはず。
そろそろランドルフも「破天荒な王太子」の汚名を返上したい。
むしろこれ以上、ジェイラスをこれ以上振り回すのは、気の毒だ。
バササササ――。
突然の羽音に、ランドルフは顔を上げた。
頭上を一羽の白い鳩が、左足に手紙をつけて飛んでいった。
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