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8 登校

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 憂鬱な朝。でも大学は休めない。

 結局、自分は暗いんだと改めて自覚した。高校の時だって集まりにはなるべく参加していたけど、帰ってからの疲労がすごくて。休みまで出かける気にはなれなかった。

「おはよう碧」

 後ろから声をかけられて、背中を軽く叩かれた。玲だった。おはようと告げると嬉しそうに笑まれた。

「昨日、賢吾から電話があったんだろ? ありがとうな、OKしてくれたって聞いたよ」

「あーうん、良いよ。暇だし」

 玲のテンションにはついて行けないけど、ノリにはついていかなくてはと笑って見せる。頬がひきつっていないと良いけど。

「ドラマのエキストラに受かったんだよね? おめでとう。玲ってそういうの興味あったんだね」

「こいつ俳優志望だぜ?」

 背後から声がかかり、玲の肩に腕を回したのは隼也だ。首に落としたヘッドホンから小さく音が聞こえて来る。シャカシャカ音だけで曲名はわからない。

「そうだったの? 玲」

「っていうか知らねえの佐倉だけだろ」

 鼻にかけた笑みをする隼也とお愛想笑いの玲を見て、不安な気持ちに苛まれる。

「そうか、みんな知ってるんだね」

「それよりも碧、日程は8月に入ってすぐの1週間だからよろしくね」

「俺が家の手伝いに行く日じゃねえか。おまえ賢吾と1週間も何すんの?」

 利益の為に食い下がる玲と疑問という名の非難を口にする隼也に何て答えれば良い?

「わかった、予定しておくよ。1週間、ね? 何したら良いかな?」

 あははと笑むしか方法がない。胸の中がズキズキと痛む。俺だってわかってる。俺と1週間も一緒にいたってつまらないだけだ。1日だって1時間だって間が持つかどうか。

「隼也、俺ら1限いっしょだっただろ? 碧ごめん、また昼休みにね」

 玲が隼也を引っ張るようにして反対の道へ行く。隼也の意見に賛成して、やっぱり辞めたと断られたら困るからだろ? だって俺だって同じ方向だ。隼也がまだ話したそうに振り返ったけど、手を振っておいた。

 何だろう。いろいろ面倒になる。こんな生活を望んだ訳じゃない。なぜふたりは俺と同じ大学を選んだのだろう。賢吾と同じW大にすれば良かったのに。

 俳優が望みだったら、そういう学部がある大学にするとか、もっと都会に行くとか、エキストラのオーディションじゃなくて事務所に入るとか劇団に入るとか——卑屈になっている。玲は良い人だ。自分の利益だけを優先させるのなら俺と付き合う筈がない。友達だから良くしてくれている。なのに俺は自分の都合に合わないからって文句ばかりを考えている。

 人付き合いは難しい。好き嫌いだけでは成り立たない煩わしさがある。それなのにひとりになるのは嫌だという矛盾。ひとりで行動は好きだけど、集団の中のひとりは心が死んでしまう。玲と隼也の背中を見送って、同じ道を歩いて行く。
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