普通の男子高校生ですが異世界転生したらイケメンに口説かれてますが誰を選べば良いですか?

サクラギ

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本編

10 フィンレイ自治領

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 頬に風が当たる。薔薇の香りがする。お腹がすいた。

 目覚めると周りに薔薇が咲き乱れている。深紅の薔薇。それから白いベールが風になびいていて、白い鳥かごのような造りのガゼポの中に白い寝具があって、その上に寝かせられていた。しかも服が脱がされている。かろうじて布が下半身を隠しているけど、なぜ裸にされているのか。首に掛けているタグがあることだけは確認して、とりあえず、ことに及んだあとではないと安心した。

「お目覚めですか」

 声の方を見ると、ガゼボの向こう側に男がいる。膝をついて礼の姿勢を取り、顔を伏せているので誰なのかわからないが、見るからに中世の騎士のようで、小説の挿絵でも見ているのかという気分になる。薔薇に中世の騎士、ガゼボ。これぞ異世界と言うべきか。

「ここどこ? これどういう状況? あなた誰?」

 半身を起き上がらせ、胡坐をかく。頭をかいて、お腹が空いているのを思い出す。腹減ったと言えば、中世の騎士様が手を上げ、侍女らしきものたちが食事を運んで来た。果物がいっぱいとお肉いっぱいと円形のパンみたいなもの甘い物。あとは飲み物。たぶんフルーツジュース。もうお腹がすきすぎていたので、とりあえず、果物を口にする。甘い葡萄みたいなの。甘さが舌に滲みて喉を潤す。そうしたらお腹がグーって鳴った。

 俺の食べる様子を中世の騎士が見ている。銀のさらさらの髪が胸の真ん中まで伸びていて、額飾りで押えている。目の色は緑。キラキラ輝くエメラルドのよう。細くてか弱そうに見えるけど、腰にはちゃんと剣がある。服は白い生地に銀の刺繍が施された高そうなもの。靴はひざ下まである白いブーツ。マントも白に銀の模様が入ったヤツ。

「ここはフィンレイ自治領、ムスタ地区にある邸宅内です。私はシルヴィと申します」

「フィンレイ自治領ってどこ? 俺って罪を犯して捕らえられたんじゃないの?」

 ジュースを飲んで、パンらしき物を食べる。パンケーキみたいな味と食感だ。はちみつみたいな柔らかい甘さがある。

「フィンレイ自治領はブラッド様が領主を務めておられる場所の名です。あなたは捕らえられるような罪を犯しておられません。国が違えば法も違いますので」

「っていうことは、逃げられたってことだよね。でもこの待遇はどうして? 裸だし」

「失礼ながら、眠っておられる間に体を清めさせて頂きました。とても美しいお姿でしたので、どのようなお召し物が似合うのか、主人に問う為に待っていたのですが、到着より先にお目覚めになりました」

「主人って誰? ブラッド?」

 あまりに綺麗な薔薇の庭にいるから、その香りだけでブラッドを思い出す。

「いいえ、違います」

「違うんだ」

 ホッとしたような、寂しいような、変な感情になる。だったら何でこの待遇? って怖くなるし、普通に食べてるけど、こんなにたくさん、いろんなものを出してもらえるような間柄じゃない。

「ブラッド様はネヴィル=ノア国に捕らえられておいでです」

「捕らえられてって、王女様と結婚して暮らしてるってことだろ?」

「いいえ、違います。あなたがシュヴァルツを、黒い馬を従えた為、かの国の者に捕らえられたのです」

「言っている意味がわからないんだけど」

 食べる意欲がなくなった。俺のせいでブラッドが捕らえられている。そういう意味だとはわかる。でもなぜ俺のせいでブラッドが? 副神殿長ではなく?

「簡単に言えば、あなたはかの国の内乱に巻き込まれておいでだと言うことです」

「内乱? 俺があの馬に乗ったせいで?」

 簡単に聞いても意味がわからない。それはそうだ。俺はつい先日この国に迷い込んだだけで、何も知らない。国の名前でさえ今知ったくらいだ。

「首謀者は? 俺は誰に踊らされたの?」

「かの国の副神殿長かと」

「は? なぜ? ブラッドは副神殿長の護衛だよね? それにブラッドの方が位が高いでしょ? 王族だし」

 そう言ってふっと思いつく。王族だから捕らえられて交渉の材料にされているのか。ブラッドはいろんなものを背負っている。王女の婚姻相手であるし、自治領の領主でもある。ブラッドひとりを捕らえれば、とてもたくさんのものが手に入るという訳だ。でも、どれも俺がブラッドにかかわったせいだ。ブラッドにかかわったせいで隙を突かれたということになる。

「俺のせいだから、俺を捕らえたの?」

 だから逃げられないように服を取り上げ、交渉の材料だから空腹で死なないように食事を与えてくれている。そんなところだろうか。

「黒髪、黒い瞳は貴重だし、差し出せば喜ばれるかもしれないし。俺が罪を犯したんだから、仕方ないね。でも服は着せて。裸で拘束されてさらし者にされるのは嫌だよ」

 しゅんとうなだれる。せっかくおいしく食べていたのに、胃がキュッと縮んで吐きそうだ。どこまで行っても俺は罪人でみんなに迷惑をかけている。なんの為にここに来たのかわからない。ほんと嫌になった。

「いいえ、そうではありません。ブラッド様のなさることですから、捕らえられているのも計算の内でしょう。それにあなたは主にとっても大切なお方です。敵に差し出すようなことはございませんので、ご安心ください」

「そうなの? 俺にできることなら何でもしたいよ? ブラッドのところから逃げてしまったから、こんな悪い状況になっているんでしょ? 俺のせいなのはかわりない」

 侍女が服を持って来てくれる。いろんな種類を持って来て見せてくれた中から、無難な服を選んだ。生成りのTシャツタイプの上着に黒いパンツ。ひざ丈の黒いブーツ。ここに着く前に着ていたものと似ている。

「あなたのせいではありません。元々、かの国の神殿は神殿長派と副神殿長派で分裂していました。そこに王族が入り、きっかけを待つ状態だったのです。ブラッド様は、あなたを見つけて行動に移す覚悟を決められました。かの国と我が領も緊張状態でしたから、あなたはきっかけに過ぎないのです」

「でも、ブラッドは捕らえられているんだろ?」

「ええ、ですので、かの国を攻める大義名分を手にした、ということです」

 ずっと顔を伏せて話していたシルヴィが、顔を上げて仄暗い表情をする。

「あなたは、ブラッド様がお迎えに来られるまで、こちらでゆるりとなさっていて下さい」

 そう言われて頷いて見せた。でも内心ではとても怖かった。戦争ってことだろ? 平和だった国が戦乱のさ中にあるのだろうか。ここには何も届かない。綺麗な薔薇が咲き乱れ、甘い薔薇の香りに包まれた、静かな庭園。全てに目隠しをされているようで、落ち着かない気分になる。
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