普通の男子高校生ですが異世界転生したらイケメンに口説かれてますが誰を選べば良いですか?

サクラギ

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本編

12 避難

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「それにしてもおまえ、1ヶ月もどこにいたんだ? ブラッドの自治領には入れたのか?」

 背中をぽんぽんされながら安心していると、アイザックが妙なことを言って来た。

「1ヶ月って?」

 アイザックを見上げて見詰めると、アイザックはフッと目を逸らした。ああ、この体勢は誘ってるって思われるのか。何気なく距離を取った。アイザックの手が虚しげに下される。

「おまえが逃げてから1ヶ月と少し経っている」

 アイザックに言われてそういうことかと思う。たった3日で事態がこんなに進む訳がないと、どこかで違和感を覚えていた。あの屋敷には時間の感覚を狂わせる何かがあったのだ。だから脳がぼんやりして動きづらく感じていた。

「ブラッドの自治領に入れたけど、逃げて来たんだ。あそこじゃ何の情報もなくて心配で」

 そう言うとアイザックが腕を掴んで来る。

「何か嫌なことをされたのか? タグを外されるような、なにか」

 俺はアイザックに首を振って見せた。

「違うよ。すごく良くしてもらっていたんだけど、皆んなが心配で逃げて来ただけ。タグを外したのは俺の意思だから大丈夫」

 そう言うとアイザックは微妙な顔つきで俺を見る。じっと見て来るから何だろうと思ったけど、わかった。

「ああ、別に性的な意味で外したんじゃないよ? タグがあると監視されてるようで嫌だっただけだよ」

 アイザックが「俺の前で外して」っていう、以前に言っていた言葉を思い出した。

 俺がそう言うと、アイザックはホッとした顔になる。

「そうか。監視か。そういう付加もあったのか」

「たぶんね、タグの付加のおかげで自治領に入れてたんだよ。外したから逃げられた。自由だったけど、自由じゃなかったんだ、あそこは」

 アイザックがまた抱きしめて来る。

「おまえが無事で良かった」

「うん、ありがとう」

 って良い雰囲気で答えたが、その時、地面が揺れて大きな音が近づいて来た。馬が落ち着かないように鳴き声を上げ、蹄を鳴らしている。

 アイザックの表情が緊張へと変わる。音を立てないように立ち上がり、アイザックが後ろにある裏口のドアを少し開けた。

「なに?」

 って言ったら話すなっていうポーズを取られて黙る。

 音がどんどん近づいて来る。動物の走る音に近いけど大きすぎるし速い。アイザックのそばに寄ったら、ガッとドアに爪が掛かる。とても大きな鋭い爪だと思ったら、ドアが吹っ飛んで行った。

 目の前に獣の顔がある。吹っ飛んだドアの隙間に大きな前足と顔が突っ込まれ、荒い息が吹き込まれる。小屋が揺れる。

 俺はアイザックに庇われ、建物の奥に尻もちをついた。

 獣は銀の狼だ。でも常識を覆す大きさで、象よりも大きい。それが二頭、隙間から見えている。

「下がれ」

 外から男の声が聞こえた。
 獣はその声に従い、下がった。
 下がった所から男が入って来る。見たことのない男だ。白いシャツに黒いパンツ、黒いベルトに剣がある。銀のフード付きのコートを着て、フードを深く被っている。肌は白く、髪は銀。ウェーブのかかった長めの髪がフードの下に見える。

「どけ」

 男はアイザックに向かい言ったが、アイザックは背に俺を隠して動かなかった。

「危害を加える気はない。その者を渡せ」

「獣を連れて身勝手な振る舞いをする奴に渡す気はない」

 アイザックの腰にも剣がある。いつでも抜けるように、手が掛けられていた。

 男がフードを外す。赤い目が光って見える。歳は若い。俺と同じくらいだろうか。

 アイザックの手が剣にあるからか、男も剣に手を置いている。二人の間に緊張が見えて、俺は呼吸が上がる。本気の戦闘なんて見たことがない。怖いという思いが身を包んでしまっている。心臓の音が耳の中に響く。

「ブラッド様の所に連れて行く、大人しく渡せ」

 男がそう言うと、アイザックが身構えながら立ち上がった。緊張が高まる。

「戦乱の只中に連れて行くと言うのか! それを見逃せと? できないな」

「ブラッド様の意思だ、無駄な戦いをしたくはない」

「だったらブラッドに伝えろ。さっさと戦乱を終わらせ、平穏を取り戻してから自分で来い。これ以上、シンを利用するな」

 外で獣が咆哮を上げた。一頭が街の方へ駆けて行く。男は外を見て舌打ちすると、アイザックを見る。

「今は引く。シン、これだけは付けておけ。これを目印に迎えに行く」

 アイザックを警戒しながら俺に近づき、手にタグを渡して来た。
 俺が受け取ると、すぐに外に走り出て行き、もう一頭の狼の背に乗っている。
 タグは付ける気にならないからズボンのポケットに突っ込んだ。

 先に出たアイザックに続き、外に出て見れば、二頭の狼だけではなく、熊や猿もいる。みんな象くらいに大きい。それら10頭ほどが城のある方角に向かい、駆けて行った。

 壊された戸口に立ち、アイザックと一緒に駆けて行く獣の後ろ姿を見やる。
 別のドアからも人が出て来て、怯えた表情で同じ方向を見ていた。

「ここも戦場になるかもしれない。すぐに退避命令を伝えろ」

 アイザックがそう叫ぶと、皆が一斉に動き出した。カートに乗って建物へ行く。俺はアイザックが乗る馬の前に乗せてもらった。

 ひとまず建物に行く。獣は人を襲わず、家畜にも手を出さず、城の方へ駆けて行くが、人々の悲鳴が聞こえて来る。

 建物の近くで馬から下され、アイザックに待ってろと言われた。アイザックは管理棟に入って行って、10分もしないうちに戻って来た。背中に荷物がある。手を引かれて馬車の御者台に乗せられた。アイザックは後ろに荷物を置き、俺の隣に座って手綱を取る。

 みんな避難の準備をしていたらしく、荷物を持った人たちが次々に出て来て、方々の道へ散って行く。馬車だったり、馬だったり、いろいろだ。

「どこへ行くの?」

「俺の住む領がある。国境近くだからここよりは安全だ」

 馬車の速度が上がる。獣のせいで怯えて動かない馬がいるのに、アイザックの馬は怯えることなく走っている。ふと見ると黒い馬が並走していた。馬車に繋がれていない。馬の意思で着いて来ている。

 アイザックが俺の髪を撫でた。大丈夫だと言うように。

「あれはもうおまえの馬だな。俺の領まで着いて来る気だろう。すげえ驚かれるぜ? おまえも」

「俺?」

 そう言ってアイザックを見たらニヤッと笑われた。

「王の馬に黒髪黒い瞳の可愛い子を俺が連れて帰るんだ。皆が卒倒するだろうよ」

 そういえば髪も目も隠してないことを思い出した。でももう良い。変に取り繕った所で上手くは行かなかった。それよりももっと力を付けて、自分で抵抗できるようになった方が断然良い。もう戻れないのだから、ここで生きて行けるように、強くならないとダメだ。

「俺が行っても大丈夫? 迷惑じゃない?」

「俺が連れて行きたい。側にいない間、すげえ怖かった。俺の選択がおまえを苦しめていたらと思うと……もうあんな想いはしたくねえよ」

 ギュッと手を握られた。強く握ってから離される。アイザックの横顔を見る。痛そうに歪められた表情を見て胸が痛んだ。
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