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本編
18 迎え
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領主が戻ると言う伝令があった。
状況は変わっていなくて、領主となる獣人を伴うということだった。
リヒトもアイザックも緊張した日を過ごしていたけど、領民には悟られないようにしていた。
リヒトやアイザックが何かを言って、領民の心を離してしまってはいけないし、何より領主と領民の信頼関係を信じるという。
その日は、伝令が届いて三日後に訪れた。
領の紋を印した馬車と、その後ろに二台馬車が続く。それを見張り台から確認し、連絡が届いてすぐに、領民に家から出ないようにという命令がされ緊張が走る。領内には見張りの者と役所の役員、警備の上役だけしかいない。
リヒトとアイザックは入口に立ち、馬車の到着を待っている。俺は領にとって何者でもないから、本当は立ち会うのもよくないと思ったけど、心配だから中央城の中の目立たない場所にいさせてもらっていた。
馬車から領主が降りて来て、脇に立つ。次の馬車から獣人が降りて来る。
それを領主は受け入れていると周りにわからせるように、降りる補助の手を差し出していた。
獣人というのに見た目は人と変わらない。しいて言えば、服装が変わって見える程度で、それはチャイナ服に近い、裾の長い上着とその下にズボン、靴は踵に留め具のあるサンダルだ。
歳はどうなのだろう。30歳くらいに見えるが、獣人の歳の取り方を知らないし、人と同じ基準で見て良いのかもわからない。
領主は獣人にリヒトとアイザックを紹介し、領主室のある二階へ上がって行く。リヒトは着いて行ったけど、アイザックは残った。領主たちが二階の部屋に入るのを待って、俺はアイザックの元に行ったんだけど、行ったのを後悔することになった。
アイザックに駆け寄ると、アイザックの表情が硬くなっているのがわかり、アイザックの見ている方を見た。
アイザックの手が俺の腕を掴んだ。俺の震えが伝わったのだろう。俺はどうして良いのかわからない。アイザックの手が離れる。彼らに俺たちの関係を知らせない為なのだろうけど、俺は不安で倒れそうだ。
「シン、待たせてしまい、すみません」
とても懐かしい声と香り。まるで昨日別れたとでも言うような、自然な笑みを見せて俺に近づいて来る。その後ろにはクロードもいて、とても懐かしく思えた。
「アイザック、シンを守って頂き、ありがとうございました」
クロードが何もなかったように言う。
「王都へ連れて行くのか?」
アイザックが平静を装って聞いた。
答えたのはクロードで、ブラッドは俺をじっと見ている。とても居心地が悪い。
「王がシンをお待ちです。それにデュアン神殿長も心配しています」
王? と疑問に思う。王は処刑されたと聞いている。じゃあ、王って誰? 自治領の領主がブラッドだったから、てっきりブラッドは王になったと思っていた。それにデュアン副神殿長の肩書きが神殿長になっている。前神殿長を処刑して、その座を奪ったということなのか。
「俺、行かないとダメ? 俺なんて一般の人だろ? そりゃあ、最初に良くしてもらった恩は忘れてないよ? でも王様に会うような、そんな身分じゃないし」
「行きますよ?」
ブラッドに微笑まれた。それを見て逆らえないと思った。ここで逆らって抗っても、俺に自由はないと悟った。彼らの方が身分が上だ。しかも国の中枢に近い。アイザックも俺も、彼らの一言でどうにでもされる。一番怖いのは、俺のせいでアイザックが殺されたり、領が取り上げられたり、潰されたりすることだ。
「はい」
俺は絞り出すように返事をした。アイザックの手が硬く握られ、震えている。でも俺はアイザックの側を離れて行く。
「待て」
アイザックの声が背中に掛かる。
止めてくれるのかと思って足を止めたけど、それも怖い。
「髪と目を隠して行け」
アイザックが少しだけ時間を稼いでくれる。室内に戻るアイザックの後ろへ踵を返して走った。
「馬車で待っています」
クロードが俺の背中に向けて言った。
室内に駆け込み、人のいない部屋に入って、アイザックに抱きついた。涙が流れる。でも数秒を惜しんでキスをした。
「気をつけて行くんだ」
アイザックが言う。ずっとわかっていたと言うように、止めもせず、泣き言も言わない。だから俺も何も言わない。ごめんなさいとも戻って来るとも。
アイザックから離れる。胸が痛い。アイザックを見つめながら数歩下がり、想いを振り切るように背を向けた。
建物から出る前に涙を拭き、馬車まで走った。
馬車の前にはクロードが立っていて、馬車のドアを開けてくれる。中から薔薇の香りがした。見ればブラッドが手を差し出してくれていて、段を上って手を取れば、ブラッドの隣に引き寄せられた。
ドアが閉まる前にキスされる。抱え込まれて身動きが取れない。背中にアイザックの視線を感じてた。ブラッドはわざとドアが閉まる前にキスしたのだと思う。ブラッドは知っている。俺たちがブラッドのいない間に何をしていたのか、ぜんぶ。
怖かった。これからいったい何が始まるのか。王都はどうなってしまったのか。怖くて気が遠くなる。
隣のブラッドの方を見るのさえ怖い。
状況は変わっていなくて、領主となる獣人を伴うということだった。
リヒトもアイザックも緊張した日を過ごしていたけど、領民には悟られないようにしていた。
リヒトやアイザックが何かを言って、領民の心を離してしまってはいけないし、何より領主と領民の信頼関係を信じるという。
その日は、伝令が届いて三日後に訪れた。
領の紋を印した馬車と、その後ろに二台馬車が続く。それを見張り台から確認し、連絡が届いてすぐに、領民に家から出ないようにという命令がされ緊張が走る。領内には見張りの者と役所の役員、警備の上役だけしかいない。
リヒトとアイザックは入口に立ち、馬車の到着を待っている。俺は領にとって何者でもないから、本当は立ち会うのもよくないと思ったけど、心配だから中央城の中の目立たない場所にいさせてもらっていた。
馬車から領主が降りて来て、脇に立つ。次の馬車から獣人が降りて来る。
それを領主は受け入れていると周りにわからせるように、降りる補助の手を差し出していた。
獣人というのに見た目は人と変わらない。しいて言えば、服装が変わって見える程度で、それはチャイナ服に近い、裾の長い上着とその下にズボン、靴は踵に留め具のあるサンダルだ。
歳はどうなのだろう。30歳くらいに見えるが、獣人の歳の取り方を知らないし、人と同じ基準で見て良いのかもわからない。
領主は獣人にリヒトとアイザックを紹介し、領主室のある二階へ上がって行く。リヒトは着いて行ったけど、アイザックは残った。領主たちが二階の部屋に入るのを待って、俺はアイザックの元に行ったんだけど、行ったのを後悔することになった。
アイザックに駆け寄ると、アイザックの表情が硬くなっているのがわかり、アイザックの見ている方を見た。
アイザックの手が俺の腕を掴んだ。俺の震えが伝わったのだろう。俺はどうして良いのかわからない。アイザックの手が離れる。彼らに俺たちの関係を知らせない為なのだろうけど、俺は不安で倒れそうだ。
「シン、待たせてしまい、すみません」
とても懐かしい声と香り。まるで昨日別れたとでも言うような、自然な笑みを見せて俺に近づいて来る。その後ろにはクロードもいて、とても懐かしく思えた。
「アイザック、シンを守って頂き、ありがとうございました」
クロードが何もなかったように言う。
「王都へ連れて行くのか?」
アイザックが平静を装って聞いた。
答えたのはクロードで、ブラッドは俺をじっと見ている。とても居心地が悪い。
「王がシンをお待ちです。それにデュアン神殿長も心配しています」
王? と疑問に思う。王は処刑されたと聞いている。じゃあ、王って誰? 自治領の領主がブラッドだったから、てっきりブラッドは王になったと思っていた。それにデュアン副神殿長の肩書きが神殿長になっている。前神殿長を処刑して、その座を奪ったということなのか。
「俺、行かないとダメ? 俺なんて一般の人だろ? そりゃあ、最初に良くしてもらった恩は忘れてないよ? でも王様に会うような、そんな身分じゃないし」
「行きますよ?」
ブラッドに微笑まれた。それを見て逆らえないと思った。ここで逆らって抗っても、俺に自由はないと悟った。彼らの方が身分が上だ。しかも国の中枢に近い。アイザックも俺も、彼らの一言でどうにでもされる。一番怖いのは、俺のせいでアイザックが殺されたり、領が取り上げられたり、潰されたりすることだ。
「はい」
俺は絞り出すように返事をした。アイザックの手が硬く握られ、震えている。でも俺はアイザックの側を離れて行く。
「待て」
アイザックの声が背中に掛かる。
止めてくれるのかと思って足を止めたけど、それも怖い。
「髪と目を隠して行け」
アイザックが少しだけ時間を稼いでくれる。室内に戻るアイザックの後ろへ踵を返して走った。
「馬車で待っています」
クロードが俺の背中に向けて言った。
室内に駆け込み、人のいない部屋に入って、アイザックに抱きついた。涙が流れる。でも数秒を惜しんでキスをした。
「気をつけて行くんだ」
アイザックが言う。ずっとわかっていたと言うように、止めもせず、泣き言も言わない。だから俺も何も言わない。ごめんなさいとも戻って来るとも。
アイザックから離れる。胸が痛い。アイザックを見つめながら数歩下がり、想いを振り切るように背を向けた。
建物から出る前に涙を拭き、馬車まで走った。
馬車の前にはクロードが立っていて、馬車のドアを開けてくれる。中から薔薇の香りがした。見ればブラッドが手を差し出してくれていて、段を上って手を取れば、ブラッドの隣に引き寄せられた。
ドアが閉まる前にキスされる。抱え込まれて身動きが取れない。背中にアイザックの視線を感じてた。ブラッドはわざとドアが閉まる前にキスしたのだと思う。ブラッドは知っている。俺たちがブラッドのいない間に何をしていたのか、ぜんぶ。
怖かった。これからいったい何が始まるのか。王都はどうなってしまったのか。怖くて気が遠くなる。
隣のブラッドの方を見るのさえ怖い。
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