22 / 31
本編
21 王との謁見
しおりを挟む
とても広い部屋だった。
中央の赤い絨毯に添って、白い柱が並んでいる。その奥に階段があって、その上部に王座がある。王座にはまだ人はいないが、そこに王が現れるのだろうと予想がつく。
ブラッドが先頭、俺が後に続き、その後ろにクロードが続く。まるで罪人だと思い、その通りなのだと思った。裁かれる。この国に争いを生んだ元凶として。
足がもつれて倒れても、誰も手を貸してくれない。立ち止まって振り返ったブラッドの視線の中、何でもないように立ち上がって、ブラッドに続いて壇上に近づく。ギャラリーが誰もいないことだけが救いだ。
階段の数メートル手前で立ち止まり、ブラッドが自分の横に俺を置き、同じように膝を付かされる。クロードはどこにいるのかと思えば、俺よりもかなり後ろの柱の陰に座り、控えていた。
静まり返った部屋内が緊張を呼ぶ。気が遠くなって倒れそうだけど、自分で自分を叱咤して気を張る。
そのうち壇上に音がして、足音が聞こえて来る。数名の足音は左右から聞こえ、階段を降りたところで止まった。その次に中央の椅子に座る音が聞こえた。王が座ったのだろう。俺はずっと絨毯の模様を見ている。顔を上げるのも怖いし、見られていると思うのも怖い。
「顔を上げろ」
階段を降りて来た者が声をかけて来る。
思わずビクッと肩を揺らした。ブラッドを見て、同じように顔を上げる。
段の下には兵が左右4名立っていて、その前に立つ進行役がシルヴィだった。思わず視線を向けてしまったけど、今はそんな状況じゃない。ブラッドの領で会った時とは立場が違う。
視線を上げる。王座の方へ。
目が合う。ずっと見られていた。背中がゾクッとした。
「おまえがシンか」
手置きにひじを掛け、頬杖をつきながら、俺を見下している。
獣人の王というから、どんな種族なのだろうと思っていたけど、耳も尾もない人型だった。でも雰囲気が違う。見た目は人だけど、オーラというか、気配というか、思わず逃げたくなるけど、逃げたら殺されるとわかるような、そんな感じだ。
「は、い」
返事が遅れた。ブラッドが視線をよこして来たから、返事をするのだと気づいた。
緊張で声が掠れた。息を付こうと、視線を下げたら、そこに足があった。足があると思った瞬間、蹴り飛ばされた。ほんとに一瞬で、何が起こったのかわからなかった。絨毯の上を滑り、柱に背をぶつけて止まった。横腹を蹴られたというのには、痛みで気づいた。
激高した王を止めているのはブラッドだった。ブラッドがいなかったら、王は俺の方へ来て、もっと痛めつけて来ただろう。怒りが炎のように立ち上って見える気がした。荒い息遣いが獣を彷彿とさせる。
「おやめ下さい」
「うるさい!」
俺は体勢を整え、飛ばされた柱の前で膝を付き、視線を下げた。どうして怒らせているのかわからない。でも怒りの矛先は俺に向いている。彼はこの国の王だ。彼のひとことで殺される。
「貴方の望み通りの結果が得られたのは、シンのおかげです。それなのになぜこのような……」
ブラッドが王の足にしがみつきながら、行動を止めている。でも王は俺を睨みつけている。
「おまえを裏切るようなヤツをなぜかばう!」
「それは私とシンの問題です。王には関係ない」
ブラッドがそう言うと、王は視線をブラッドへ向けた。
「お前が望むのなら、もう一度、新たな者を呼び寄せることもできるのだぞ! なぜあの者にこだわる!」
召喚、という文字が頭に浮かぶ。
そうか、また別の人を召喚することができるのだ。俺にこだわる必要はない。
「あなたもまた、前神殿長のように、彼らをもてあそぶと言うのですか?」
「はあ? まったく意味が違うだろ? 裏切ったのはあいつだ、かばう必要がどこにある?」
今度はブラッドを蹴り飛ばす勢いだ。俺は痛む腹に手を置き、荒い息をつきながら、状況を見守っている。
「私の気持ちをお考えください」
ブラッドが真摯な目で王を見上げる。王は怯えたような顔をして、言葉に詰まった。
「あなたは、あなたの望むものを手にしました。それは私の望むものでもあります。希望は叶えられ、世界は変わり、あなたが王になったのです。私の務めは終わり。違うのですか?」
「……それはそうだが」
王の言葉の歯切れが悪くなる。
立場は王の方が上なのに、関係性はブラッドの方が上に見える。
「でしたら、私の自由ではないのですか? 私にはシンが必要なのです。王は約束を違えるのですか?」
「おまえはそれで幸せになれるのか?」
王の痛みに耐える表情が見える。ブラッドは王を見上げ、美しい顔に笑みを見せた。それはとても嬉しそうに見えて、俺は胸が痛む。
「はい」
ブラッドが頷くと、王は見限るように視線を外し、壇上へとあがって行く。
力任せに王座に座り、ふてぶてしく足を組む。
「シン、俺はお前を許す気はないが、ブラッドは頑固だからな、ブラッドの気が済むまでは自由にしてやる。だが覚えておけ、今後、また裏切るようなことがあれば、即座に蹴り殺してやる」
俺は何も答えられず、痛む胸を押さえて、ただ下を向いていた。ブラッドを見ることもできない。
ただ、何も言えなかったから、俺に本当の自由はない。それが罰だというのか。ブラッドという支配者の奴隷になって、逆らえず、生きながらえる。死を選べなかった臆病者だ。視界が歪む。蹴られた横腹と、打ち付けた背中が痛く、鼓動が耳に強く響いていた。
中央の赤い絨毯に添って、白い柱が並んでいる。その奥に階段があって、その上部に王座がある。王座にはまだ人はいないが、そこに王が現れるのだろうと予想がつく。
ブラッドが先頭、俺が後に続き、その後ろにクロードが続く。まるで罪人だと思い、その通りなのだと思った。裁かれる。この国に争いを生んだ元凶として。
足がもつれて倒れても、誰も手を貸してくれない。立ち止まって振り返ったブラッドの視線の中、何でもないように立ち上がって、ブラッドに続いて壇上に近づく。ギャラリーが誰もいないことだけが救いだ。
階段の数メートル手前で立ち止まり、ブラッドが自分の横に俺を置き、同じように膝を付かされる。クロードはどこにいるのかと思えば、俺よりもかなり後ろの柱の陰に座り、控えていた。
静まり返った部屋内が緊張を呼ぶ。気が遠くなって倒れそうだけど、自分で自分を叱咤して気を張る。
そのうち壇上に音がして、足音が聞こえて来る。数名の足音は左右から聞こえ、階段を降りたところで止まった。その次に中央の椅子に座る音が聞こえた。王が座ったのだろう。俺はずっと絨毯の模様を見ている。顔を上げるのも怖いし、見られていると思うのも怖い。
「顔を上げろ」
階段を降りて来た者が声をかけて来る。
思わずビクッと肩を揺らした。ブラッドを見て、同じように顔を上げる。
段の下には兵が左右4名立っていて、その前に立つ進行役がシルヴィだった。思わず視線を向けてしまったけど、今はそんな状況じゃない。ブラッドの領で会った時とは立場が違う。
視線を上げる。王座の方へ。
目が合う。ずっと見られていた。背中がゾクッとした。
「おまえがシンか」
手置きにひじを掛け、頬杖をつきながら、俺を見下している。
獣人の王というから、どんな種族なのだろうと思っていたけど、耳も尾もない人型だった。でも雰囲気が違う。見た目は人だけど、オーラというか、気配というか、思わず逃げたくなるけど、逃げたら殺されるとわかるような、そんな感じだ。
「は、い」
返事が遅れた。ブラッドが視線をよこして来たから、返事をするのだと気づいた。
緊張で声が掠れた。息を付こうと、視線を下げたら、そこに足があった。足があると思った瞬間、蹴り飛ばされた。ほんとに一瞬で、何が起こったのかわからなかった。絨毯の上を滑り、柱に背をぶつけて止まった。横腹を蹴られたというのには、痛みで気づいた。
激高した王を止めているのはブラッドだった。ブラッドがいなかったら、王は俺の方へ来て、もっと痛めつけて来ただろう。怒りが炎のように立ち上って見える気がした。荒い息遣いが獣を彷彿とさせる。
「おやめ下さい」
「うるさい!」
俺は体勢を整え、飛ばされた柱の前で膝を付き、視線を下げた。どうして怒らせているのかわからない。でも怒りの矛先は俺に向いている。彼はこの国の王だ。彼のひとことで殺される。
「貴方の望み通りの結果が得られたのは、シンのおかげです。それなのになぜこのような……」
ブラッドが王の足にしがみつきながら、行動を止めている。でも王は俺を睨みつけている。
「おまえを裏切るようなヤツをなぜかばう!」
「それは私とシンの問題です。王には関係ない」
ブラッドがそう言うと、王は視線をブラッドへ向けた。
「お前が望むのなら、もう一度、新たな者を呼び寄せることもできるのだぞ! なぜあの者にこだわる!」
召喚、という文字が頭に浮かぶ。
そうか、また別の人を召喚することができるのだ。俺にこだわる必要はない。
「あなたもまた、前神殿長のように、彼らをもてあそぶと言うのですか?」
「はあ? まったく意味が違うだろ? 裏切ったのはあいつだ、かばう必要がどこにある?」
今度はブラッドを蹴り飛ばす勢いだ。俺は痛む腹に手を置き、荒い息をつきながら、状況を見守っている。
「私の気持ちをお考えください」
ブラッドが真摯な目で王を見上げる。王は怯えたような顔をして、言葉に詰まった。
「あなたは、あなたの望むものを手にしました。それは私の望むものでもあります。希望は叶えられ、世界は変わり、あなたが王になったのです。私の務めは終わり。違うのですか?」
「……それはそうだが」
王の言葉の歯切れが悪くなる。
立場は王の方が上なのに、関係性はブラッドの方が上に見える。
「でしたら、私の自由ではないのですか? 私にはシンが必要なのです。王は約束を違えるのですか?」
「おまえはそれで幸せになれるのか?」
王の痛みに耐える表情が見える。ブラッドは王を見上げ、美しい顔に笑みを見せた。それはとても嬉しそうに見えて、俺は胸が痛む。
「はい」
ブラッドが頷くと、王は見限るように視線を外し、壇上へとあがって行く。
力任せに王座に座り、ふてぶてしく足を組む。
「シン、俺はお前を許す気はないが、ブラッドは頑固だからな、ブラッドの気が済むまでは自由にしてやる。だが覚えておけ、今後、また裏切るようなことがあれば、即座に蹴り殺してやる」
俺は何も答えられず、痛む胸を押さえて、ただ下を向いていた。ブラッドを見ることもできない。
ただ、何も言えなかったから、俺に本当の自由はない。それが罰だというのか。ブラッドという支配者の奴隷になって、逆らえず、生きながらえる。死を選べなかった臆病者だ。視界が歪む。蹴られた横腹と、打ち付けた背中が痛く、鼓動が耳に強く響いていた。
2
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる