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本編
20 準備
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王都へ近づくと戦乱の跡が見え始めた。たくさんの人がいた大通りに人影はなく、とても寂れた風景になっている。
王城は外観を見る限り変化はないが、神殿は瓦礫の山となっており、手がつけられないまま残されていた。
「神殿長はどうされているの?」
ブラッドの邸宅に行くのかと思っていたが、馬車は王城の門を通り抜けた。
「王城内の神殿に移られましたよ」
「そう」
ブラッドと一緒の馬車に乗っているのに、行為の意味も聞けないまま目的地に着いてしまう。ブラッドは不機嫌に見える。話せば答えてくれるけど、無駄な話は一切しない。ブラッドの無表情が怖い。やることだけやって、何の言い訳も説明もない。そう思っているのに聞くことさえできない俺が一番情けない。
王城の中も広い。正門から入って一番奥に大きな建物があるから、そこが王専用の城なんだと思うのだけれど、向かったのはその右側奥にある建物で、その建物だけでもかなり大きい。建物の前にロータリーがあって、馬車停めが脇に作られている。建物の中央入り口前で降ろされると、馬車は係りの者が引き継ぎ、その馬車停めまで運ばれて行く。その係りの者の中にも獣人がいて、人型に耳や尾がついている。もしかしたら、普通の姿に見えている人も、実は獣人かもしれないと思う。
ブラッドが俺を伴い、クロードが先導してくれている。
建物内ですれ違う人や獣人は、クロードとブラッドを見て廊下の隅に寄り、胸に手を置き、視線を下げて通り過ぎるのを待っている。その姿を見るだけで、彼らの地位が高いのだとわかる。
かなり奥に入り込んだと思っていると、クロードが振り返り、ブラッドへ視線を送り、行動を別にした。俺はブラッドに導かれるまま、扉を潜ってまた廊下を歩き、また扉を潜るという動作を3度繰り返して、もうどこにいるのか見当もつかなくなった頃、ひとつの部屋に通された。
その部屋は以前のブラッドの屋敷の部屋に似ていて、薔薇の香りがしている。それだけでブラッドの部屋なんだろうと察しが付く。でも従者や侍女の姿はない。一番に連れて行かれたのは湯殿で、旅の汚れを落とせということだろう、無言で湯殿に連れて行かれ、置いて行かれた。
圧倒的に言葉がない。怒っているのか、不機嫌なのか。初めて会った時はとても綺麗で温かい人だと思ったのに、今の印象はまるで違う。見た目が綺麗なぶん、冷たく見える。
服を脱いで、体を洗う。
ブラッドから逃げたのは俺だ。
ブラッドに伴侶はいないのだと聞いた。ブラッドの婚姻相手が実は現在の王の妃であると聞いた。
ブラッドにされた行為の後始末も、綺麗にできていないから、中に指を入れて洗う。無理やりされたから、中が傷ついていて、指を入れると痛みが走った。でもその痛みが罰なのだと思えて来る。
ブラッドはひとつも嘘はついていない。俺がクロードの話を聞いて、確かめることもせず、勝手に逃げ出した。そしてアイザックを愛した。それなのにブラッドに抱かれてしまった。
全身を中まで綺麗に洗い、湯船に浸かる。
湯船には薔薇の花が浮かんでいる。深紅の薔薇。がくから上が切り落とされた綺麗なままの薔薇をひとつ取り、においを嗅ぐ。自分のして来たことを思い出すたび、胸が痛む。ぜんぶ考えて、その時やれること、自分の気持ちを信じて生きて来たと思うのだけど、どれも間違っていたと思える。全て失った。それが結果だ。
なんの為にこんなに遠い地に来たのか、わからない。
この国の在り方を壊す為に来たのだろうか。俺のせいで全てが壊れた。自分だけではなく、国を道連れに。
怖くて震える。湯船の中でお湯につかっているのに、寒い。泣きたいけど涙は出ない。泣いて許しを乞っても許されることではない。同時に誰かに許されたいのだと思っているのだと気づく。弱い自分が嫌で湯船を出た。
湯船を出ると、湯殿の先の部屋でブラッドが待っていて、タオルを広げていてくれる。裸のまま立ち止まると、ブラッドから近づいてくれて、タオルで包んでくれた。
思わずブラッドを見るけど、ブラッドは無表情のままだ。
ふとすると過去の、出会ったばかりのブラッドを思い出す。でも違う。俺はブラッドを裏切った。
ブラッドが服まで着せてくれる。まるで着せ替え人形のように、じっと行為を受けるだけで精一杯だった。
上等な衣装を着せられ、その色が黒というところに怖さを感じる。この国において、黒は最上級の色だ。騎士団でさえ、黒は避け、黒に近い色を使用していた。髪も目も黒のまま。そして黒い衣装。たぶんこの先に待ち受けるのは王との謁見。
ブラッドは軍服ではなく、貴族の衣装だ。色は白。香りは薔薇。動きが優雅なので、とても高貴な印象を受ける。
ブラッドに添われて部屋を出る。
廊下で会う人や獣人はブラッドに敬意を払う。それを見るだけで怖い。ここには誰も味方がいない。
ずっとアイザックを想い、頭の中で名前を呼んでいる。ふと見ると、ブラッドがこちらを見ていた。俺がアイザックを想っていると見透かされたようで、怖さが増す。思い出すだけでもアイザックに罰が行くような気がして、頭の中のアイザックを消そうと思った。
廊下を何度も曲がり、扉を潜り、どこにいるのかわからないまま、兵の並ぶ大きな扉の前に立たされた。
怖すぎて倒れそうだと思っていると、クロードが現れた。クロードは軍服を着ている。黒に近い色の軍服は、以前のままだ。少し落ち着いたところで扉が開く。中から光が溢れ、まぶしくて視線を逸らした。
王城は外観を見る限り変化はないが、神殿は瓦礫の山となっており、手がつけられないまま残されていた。
「神殿長はどうされているの?」
ブラッドの邸宅に行くのかと思っていたが、馬車は王城の門を通り抜けた。
「王城内の神殿に移られましたよ」
「そう」
ブラッドと一緒の馬車に乗っているのに、行為の意味も聞けないまま目的地に着いてしまう。ブラッドは不機嫌に見える。話せば答えてくれるけど、無駄な話は一切しない。ブラッドの無表情が怖い。やることだけやって、何の言い訳も説明もない。そう思っているのに聞くことさえできない俺が一番情けない。
王城の中も広い。正門から入って一番奥に大きな建物があるから、そこが王専用の城なんだと思うのだけれど、向かったのはその右側奥にある建物で、その建物だけでもかなり大きい。建物の前にロータリーがあって、馬車停めが脇に作られている。建物の中央入り口前で降ろされると、馬車は係りの者が引き継ぎ、その馬車停めまで運ばれて行く。その係りの者の中にも獣人がいて、人型に耳や尾がついている。もしかしたら、普通の姿に見えている人も、実は獣人かもしれないと思う。
ブラッドが俺を伴い、クロードが先導してくれている。
建物内ですれ違う人や獣人は、クロードとブラッドを見て廊下の隅に寄り、胸に手を置き、視線を下げて通り過ぎるのを待っている。その姿を見るだけで、彼らの地位が高いのだとわかる。
かなり奥に入り込んだと思っていると、クロードが振り返り、ブラッドへ視線を送り、行動を別にした。俺はブラッドに導かれるまま、扉を潜ってまた廊下を歩き、また扉を潜るという動作を3度繰り返して、もうどこにいるのか見当もつかなくなった頃、ひとつの部屋に通された。
その部屋は以前のブラッドの屋敷の部屋に似ていて、薔薇の香りがしている。それだけでブラッドの部屋なんだろうと察しが付く。でも従者や侍女の姿はない。一番に連れて行かれたのは湯殿で、旅の汚れを落とせということだろう、無言で湯殿に連れて行かれ、置いて行かれた。
圧倒的に言葉がない。怒っているのか、不機嫌なのか。初めて会った時はとても綺麗で温かい人だと思ったのに、今の印象はまるで違う。見た目が綺麗なぶん、冷たく見える。
服を脱いで、体を洗う。
ブラッドから逃げたのは俺だ。
ブラッドに伴侶はいないのだと聞いた。ブラッドの婚姻相手が実は現在の王の妃であると聞いた。
ブラッドにされた行為の後始末も、綺麗にできていないから、中に指を入れて洗う。無理やりされたから、中が傷ついていて、指を入れると痛みが走った。でもその痛みが罰なのだと思えて来る。
ブラッドはひとつも嘘はついていない。俺がクロードの話を聞いて、確かめることもせず、勝手に逃げ出した。そしてアイザックを愛した。それなのにブラッドに抱かれてしまった。
全身を中まで綺麗に洗い、湯船に浸かる。
湯船には薔薇の花が浮かんでいる。深紅の薔薇。がくから上が切り落とされた綺麗なままの薔薇をひとつ取り、においを嗅ぐ。自分のして来たことを思い出すたび、胸が痛む。ぜんぶ考えて、その時やれること、自分の気持ちを信じて生きて来たと思うのだけど、どれも間違っていたと思える。全て失った。それが結果だ。
なんの為にこんなに遠い地に来たのか、わからない。
この国の在り方を壊す為に来たのだろうか。俺のせいで全てが壊れた。自分だけではなく、国を道連れに。
怖くて震える。湯船の中でお湯につかっているのに、寒い。泣きたいけど涙は出ない。泣いて許しを乞っても許されることではない。同時に誰かに許されたいのだと思っているのだと気づく。弱い自分が嫌で湯船を出た。
湯船を出ると、湯殿の先の部屋でブラッドが待っていて、タオルを広げていてくれる。裸のまま立ち止まると、ブラッドから近づいてくれて、タオルで包んでくれた。
思わずブラッドを見るけど、ブラッドは無表情のままだ。
ふとすると過去の、出会ったばかりのブラッドを思い出す。でも違う。俺はブラッドを裏切った。
ブラッドが服まで着せてくれる。まるで着せ替え人形のように、じっと行為を受けるだけで精一杯だった。
上等な衣装を着せられ、その色が黒というところに怖さを感じる。この国において、黒は最上級の色だ。騎士団でさえ、黒は避け、黒に近い色を使用していた。髪も目も黒のまま。そして黒い衣装。たぶんこの先に待ち受けるのは王との謁見。
ブラッドは軍服ではなく、貴族の衣装だ。色は白。香りは薔薇。動きが優雅なので、とても高貴な印象を受ける。
ブラッドに添われて部屋を出る。
廊下で会う人や獣人はブラッドに敬意を払う。それを見るだけで怖い。ここには誰も味方がいない。
ずっとアイザックを想い、頭の中で名前を呼んでいる。ふと見ると、ブラッドがこちらを見ていた。俺がアイザックを想っていると見透かされたようで、怖さが増す。思い出すだけでもアイザックに罰が行くような気がして、頭の中のアイザックを消そうと思った。
廊下を何度も曲がり、扉を潜り、どこにいるのかわからないまま、兵の並ぶ大きな扉の前に立たされた。
怖すぎて倒れそうだと思っていると、クロードが現れた。クロードは軍服を着ている。黒に近い色の軍服は、以前のままだ。少し落ち着いたところで扉が開く。中から光が溢れ、まぶしくて視線を逸らした。
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