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38 陰謀
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獅子の咆哮が聞こえる。
竜族の包囲を突破して駆けて来てくれた。
「ハーツ!」
ハーツが従者を2名しか連れていない意味が分かる。ハーツひとりで十分なんだ。逆に守る者が増える方が負担なのかもしれない。
「俺じゃない、俺じゃないから」
「分かっている。大丈夫だ、俺が守る」
ヴィルがハーツに紘伊を渡す。ヴィルは盾になる様に立ち、もう一人の兵士が後ろを守る。未だ飛び交うのは獣人語だ。
「厨房にいた人が逃げているそうだ。毒はケーキ全部に仕込まれていた。ヒロイが食べていなくて良かった」
ハーツにしがみついている。知らずに涙が流れていた。
「なぜ? ここは竜の領で、トオルは領長の大事な伴侶じゃないの? なぜ毒なんて——俺のせい? トオルを外に呼んだから?」
「違うヒロイ、おまえのせいではない。これは竜族の問題だ。考えすぎるな」
ハーツに抱え上げられ、何処かへ連れて行かれる。それに警戒をした二人の兵士が守りながら着いて来てくれる。
「最悪の時期に踏み込んだようだ。サザリンドの所へ行く」
ハーツが説明をしてくれる。
「ごめんなさい、俺が——俺のせいで、こんな……」
「間違えるな、俺はおまえが無事であればそれで良い」
ハーツはきっとサザリンドと一緒にいた。紘伊がボタンを押したから、緊急だと分かって来てくれた。
周りの兵が緊張している。でもハーツの睨みひとつで動けない様だ。
「サザリンド、どういう事だ」
ハーツは紘伊を抱えたまま、ソファで退屈そうにするサザリンドと対面した。
「人の嫉妬とは恐ろしいものだな」
「どう言う事だ」
サザリンドは嘲笑うかの様に言う。それに対し、ハーツは冷静に受けている。
部屋に誰かが連れて来られる。後ろ手に縛られた人だ。その姿を見て紘伊は固まる。
「どうしたヒロイ」
どういう事かと思考が回る。なぜここにマサキがいる? トオルはマサキに会えないと言っていた。怖い考えしか浮かんで来ない。
「まさか我が伴侶とハーツの婚約者が知り合いとは思わなかった」
サザリンドが嘘を吐く。それはハーツも気づいている。ハーツの体が怒りで震えているから、紘伊はどうして良いのか分からなくなる。
「どうして? マサキ、トオルと仲が良かったんじゃないのか?」
ハーツの腕の中から下ろしてもらったけど、手は離して貰えなかった。それはハーツの思いもあるし、それで少しは落ち着いてもいられる。
「知らない! 僕は何も知らない!」
ぽろぽろと涙が床を濡らしている。紘伊は何を信じて良いのかも分からずにいる。でもあの施設で一緒にいたふたりを信じたい。
「サザリンド、俺をハメたのか?」
ハーツの言葉にサザリンドが笑う。
「何を言うハーツ、私はお前たちを招待しただけだろ? 竜が欲しいと言うから許可を出した。それだけの事だろう?」
「では竜を頂き領に向かおう。この事態の我らへの咎めは?」
「これは身内の不祥事だ。ウェルズとは何の関係もない。婚約者を怯えさせたようだ、むしろ謝罪をしよう」
謝る気もない半笑いの表情だ。それを見ているだけで怒りが湧いて来る。
「トオルを大事にする意思はあるのか?」
震えが止まらない。怒りが渦巻く。ハーツに止められている。ダメだと思うのに、抑えられなかった。
「堕胎したそうだ」
獣人語をハーツが翻訳してくれる。
「トオルは?」
「危険な状態だ。ヒロイ、諦められないか」
ハーツは紘伊の意思を汲んでくれている。話さなくても分かる。でなければこんな聞き方をしない。
「身請けを願おう。国の法に則り、その者と貴殿の伴侶を貰い受ける」
サザリンドが笑う。勝ち誇ったように。その後は獣人語だ。紘伊には分からない。でもハーツが不利な条件を飲まされているのだろう。紘伊の我儘を飲んで、不利を受け入れている。こんなに強くて王者の風格を持つこの獣人を、紘伊が貶めている。
竜族の包囲を突破して駆けて来てくれた。
「ハーツ!」
ハーツが従者を2名しか連れていない意味が分かる。ハーツひとりで十分なんだ。逆に守る者が増える方が負担なのかもしれない。
「俺じゃない、俺じゃないから」
「分かっている。大丈夫だ、俺が守る」
ヴィルがハーツに紘伊を渡す。ヴィルは盾になる様に立ち、もう一人の兵士が後ろを守る。未だ飛び交うのは獣人語だ。
「厨房にいた人が逃げているそうだ。毒はケーキ全部に仕込まれていた。ヒロイが食べていなくて良かった」
ハーツにしがみついている。知らずに涙が流れていた。
「なぜ? ここは竜の領で、トオルは領長の大事な伴侶じゃないの? なぜ毒なんて——俺のせい? トオルを外に呼んだから?」
「違うヒロイ、おまえのせいではない。これは竜族の問題だ。考えすぎるな」
ハーツに抱え上げられ、何処かへ連れて行かれる。それに警戒をした二人の兵士が守りながら着いて来てくれる。
「最悪の時期に踏み込んだようだ。サザリンドの所へ行く」
ハーツが説明をしてくれる。
「ごめんなさい、俺が——俺のせいで、こんな……」
「間違えるな、俺はおまえが無事であればそれで良い」
ハーツはきっとサザリンドと一緒にいた。紘伊がボタンを押したから、緊急だと分かって来てくれた。
周りの兵が緊張している。でもハーツの睨みひとつで動けない様だ。
「サザリンド、どういう事だ」
ハーツは紘伊を抱えたまま、ソファで退屈そうにするサザリンドと対面した。
「人の嫉妬とは恐ろしいものだな」
「どう言う事だ」
サザリンドは嘲笑うかの様に言う。それに対し、ハーツは冷静に受けている。
部屋に誰かが連れて来られる。後ろ手に縛られた人だ。その姿を見て紘伊は固まる。
「どうしたヒロイ」
どういう事かと思考が回る。なぜここにマサキがいる? トオルはマサキに会えないと言っていた。怖い考えしか浮かんで来ない。
「まさか我が伴侶とハーツの婚約者が知り合いとは思わなかった」
サザリンドが嘘を吐く。それはハーツも気づいている。ハーツの体が怒りで震えているから、紘伊はどうして良いのか分からなくなる。
「どうして? マサキ、トオルと仲が良かったんじゃないのか?」
ハーツの腕の中から下ろしてもらったけど、手は離して貰えなかった。それはハーツの思いもあるし、それで少しは落ち着いてもいられる。
「知らない! 僕は何も知らない!」
ぽろぽろと涙が床を濡らしている。紘伊は何を信じて良いのかも分からずにいる。でもあの施設で一緒にいたふたりを信じたい。
「サザリンド、俺をハメたのか?」
ハーツの言葉にサザリンドが笑う。
「何を言うハーツ、私はお前たちを招待しただけだろ? 竜が欲しいと言うから許可を出した。それだけの事だろう?」
「では竜を頂き領に向かおう。この事態の我らへの咎めは?」
「これは身内の不祥事だ。ウェルズとは何の関係もない。婚約者を怯えさせたようだ、むしろ謝罪をしよう」
謝る気もない半笑いの表情だ。それを見ているだけで怒りが湧いて来る。
「トオルを大事にする意思はあるのか?」
震えが止まらない。怒りが渦巻く。ハーツに止められている。ダメだと思うのに、抑えられなかった。
「堕胎したそうだ」
獣人語をハーツが翻訳してくれる。
「トオルは?」
「危険な状態だ。ヒロイ、諦められないか」
ハーツは紘伊の意思を汲んでくれている。話さなくても分かる。でなければこんな聞き方をしない。
「身請けを願おう。国の法に則り、その者と貴殿の伴侶を貰い受ける」
サザリンドが笑う。勝ち誇ったように。その後は獣人語だ。紘伊には分からない。でもハーツが不利な条件を飲まされているのだろう。紘伊の我儘を飲んで、不利を受け入れている。こんなに強くて王者の風格を持つこの獣人を、紘伊が貶めている。
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