竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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竜管制塔

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 シアを前にすると、聞きたいことも言葉にならない。話よりも恥ずかしい部分を見せているのに。

 尻は向けられても、視線は向けられない。向き合って何を言われるのか怖いのだ。シアがどういう性格か知らない。声も聞いたことがない。

 でも今日は、という思いがカレンにあった。今日こそはもう要らないと言ってもらおう。そういう覚悟だ。

 実際、妊娠しなくて捨てられた例は多いと聞いている。むしろ妊娠する方が少ないのだ。この島に異世界とのポイントが開き、基地が造られてからすでに千年が経っている。もちろん最初はこんな設備などなく、竜に気づいた島民と、国の偉い人が秘密裏に手を組み、母体を提供していた所から始まる。

 シアは若い竜だ。カレンが初めての相手だ。だから戸惑いもあるのかもしれない。本当はもっと信頼関係を結び、行為をするのかも。そう思いながら出来ないのは、カレンが恐れているからだ。

 実際、シアを前にすると、独特のオーラに気圧される。人とは違う何かがある。見た目の異質さ、綺麗さ、土と緑の匂い。近づくとより爽やかな匂いがする。皮膚の冷たさが肌に触れると、ゾクゾクする。でも擦られる内側は熱くなって、でも飛沫は氷のように冷たいから、腹の中が一気に冷えて、どこまで入ったのかを知らしめられる。

 シアを想うと性器に血が集まる。シアの手が肌に触れ、薄い唇が唇を塞ぐ。冷たい舌と舌を絡め、甘い言葉を受け止める。そういう想像をする。まさやんの言う愛のあるセックスだ。

 事前に処理していることは秘密だ。その点は報告しなければバレやしない。シアを性の対象に見ているなど、絶対にバレたくない。好きな相手に捨てられたなど、基地の連中に知られるのは嫌だった。シアにその気はない。だからカレンも気持ちを偽り続けて、あっという間に35歳になった。捨てられたかった。もっと早く。想いが10年も募る前に。

 カレンは事前検診を済ませると、いつものように銀の服を身につける。ゲートを潜る時にいっそ一瞬で死ねたら楽なのにと思い、通り抜けられて落胆する。

 シアの前に立ち、いつものように挨拶をしようとして、出来なかった。でも服は脱げる。簡単に。脱ぎながら手を広げるシアの腕に包まれ、つむじにキスを受けて、ベッドに上がる。うつ伏せて腰を上げていればシアが覆い被さって来る。

 いつもの行動。何の躊躇もない。このまま精を受ければ、体勢を崩せず、その間にシアは去ってしまう。

「……子が欲しいのか?」

 シーツに伏せているから、声がくぐもってしまった。でもシアには届いている。挿入が触れただけで止まったからだ。

「はい」

 シアの声だ。凛として、綺麗な声。たかが「はい」だけの二文字なのに、心が震えた。奥歯を噛む。涙が出そうだ。

「だったら捨ててくれ」

 体を返して、シアを睨む。涙が滲む。

「はい」

 シアが体を引いた。竜人の性器を初めて見た。凶暴に上を向いた性器をそのままに、シアはベッドから離れ、脱いだ服を拾い、身につけながら異世界側へ歩いて行った。行き先はパーテーションの向こう側だ。ドアがあるのか、わからない。でもこれで終わったことを知る。シアの声を聞いたのは二度、「はい」だけ。口付けも、手のひらの感触さえ知らない。

 カレンは膝を抱えて泣いた。
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