6 / 68
竜管制塔
5
しおりを挟む
日本人だけど日本語が片言のカレンは、月に一度の基地からの脱出に行ったことがない。
基地は太平洋上のとある島の中にある。ヘリで飛んで本島に上陸、帰りは3日後の夕刻。職員は10名ごと、3日置きに基地から出られる。島には自動会計のコンビニと自販機しかない。あとは基地専用の通販を使用。通常の通販は受け取り口が本島の住所でまとめられ、基地に送られる為、日数がけっこうかかる。しかも中身の検査があるので、下手な物は注文できない。
カレンは10歳から基地にいて、外を知らないから、基地では竜語以外使用禁止の為、日本語を忘れている。モバイル端末でするのは麻雀やパズルで、日本語は必要ない。
つまらない人生なのかもしれないと、10年ずっと思い続けている。そうなると、争う相手のいた幼少期が懐かしくなる。当時は死ぬか生きるかくらいの残酷な蹴落とし合いの中にいて、早く終わることばかり考えていたのに、いざこの権利を手にすると、想像が現実になったからか、つまらない。代わり映えのしない日々。
今日もまた、飛び立って行くヘリを見送る。
基地の職員は3~5年で移動になる。本島の各所に関係施設がある。海外の竜関係の関係施設との連携の為、海外にも日本の職員が派遣されていると聞く。
競い合った3人は、記憶を抜かれて本島に送られた者と、カレンが特殊な状況になった場合、突然死とか感染る病気とか、その場合の交代役として残され、後継の育成に携わっていると聞いた。
竜は長生きだ。カレンが授精出来なくても、すぐに取り替えられる。カレンはこの十数年を担う授精の為のパーツにすぎない。
カレンは自室のベッドに座り、ビールのプルタブを開けた。直接缶から飲む。半分ほど飲んでオヤジくさい息を吐く。ぷは~ってやるのがビールの飲み方だとまさやんに教わった。でもレイルの前でやったら行儀が悪いと言われた。それをまさやんに言ったら、日本の男の嗜みだそうだ。ビールの当てにスルメを食べるのも嗜みだとか。
同僚の殆どがカレンを遠巻きにする。まさやんとレイルしかカレンと気安く話す人はいない。殆どが無視、不躾な視線を送る、の方が多いかもしれない。
不安になると相談センターに電話をする。「妊娠しないんですけど~」なんて電話を取るのは、基地内の誰か。女性の時もあれば男性の時もある。基地内のどこに繋がっているのかは知らない。そういう専用ダイヤル番号が冷蔵庫に貼ってある。歴代の竜のお相手が使用しているのだろう。
「そうですね、気持ちの問題もあるようですので、リラックスを心がけてはいかがですか? 室内にアロマを炊くとか、入浴剤を使用するとか。お酒は飲まれますか?」
「はい、お休みの日は起き抜けに缶ビール1本、お昼ご飯は食べずに寝て、夕飯時に3本、寝るまで飲んでることもあります」
「それは多いですよぉ。気晴らしは必要でしょうから、お酒も時には良いと思いますが、母体になる訳ですからね。日々の規則正しい生活を心がけて下さい」
「わかりました」
と言いながらビールを飲む。
「あとは妊娠後の幸せな生活を想像すると良いって仰る方もおみえですよ。ちょっと特殊な生活ですから、想像も難しいかもしれませんが、心が幸せの方が、赤ちゃんも来やすいかもしれませんねえ」
「なるほど、わかりました。所で、相手になかなか会えなくて、生活の想像なんてできないんですけど~そこのところはどうしたら……」
「えっとですね~あはははは、そういった個人情報にはお応えできないんですよぉ。その辺りは上の方にご相談下さい。ではお時間ですのでぇ~失礼しまーす」
ブツッと回線が切れる。ビールを飲み干して、ベッドに横になった。白い天井。四角くて何もない。横壁も白。窓もない。空調が壁にあるが、格子の奥は網が張られている。この部屋は地下1階にある。もちろん地球側。でも下の階のゲートを潜った先は異世界と繋がっている。ありえない現実。殆どの人がそこをスルーして考えないようにしている。実際に直面しているのは、今はカレンひとりだけ。
管制塔の向こうに竜がいる。そこからシアが竜人に変化してカレンの前に立つ。現実だろうか。騙されてはいないか。そろそろ狂って来たのかもしれない。
基地は太平洋上のとある島の中にある。ヘリで飛んで本島に上陸、帰りは3日後の夕刻。職員は10名ごと、3日置きに基地から出られる。島には自動会計のコンビニと自販機しかない。あとは基地専用の通販を使用。通常の通販は受け取り口が本島の住所でまとめられ、基地に送られる為、日数がけっこうかかる。しかも中身の検査があるので、下手な物は注文できない。
カレンは10歳から基地にいて、外を知らないから、基地では竜語以外使用禁止の為、日本語を忘れている。モバイル端末でするのは麻雀やパズルで、日本語は必要ない。
つまらない人生なのかもしれないと、10年ずっと思い続けている。そうなると、争う相手のいた幼少期が懐かしくなる。当時は死ぬか生きるかくらいの残酷な蹴落とし合いの中にいて、早く終わることばかり考えていたのに、いざこの権利を手にすると、想像が現実になったからか、つまらない。代わり映えのしない日々。
今日もまた、飛び立って行くヘリを見送る。
基地の職員は3~5年で移動になる。本島の各所に関係施設がある。海外の竜関係の関係施設との連携の為、海外にも日本の職員が派遣されていると聞く。
競い合った3人は、記憶を抜かれて本島に送られた者と、カレンが特殊な状況になった場合、突然死とか感染る病気とか、その場合の交代役として残され、後継の育成に携わっていると聞いた。
竜は長生きだ。カレンが授精出来なくても、すぐに取り替えられる。カレンはこの十数年を担う授精の為のパーツにすぎない。
カレンは自室のベッドに座り、ビールのプルタブを開けた。直接缶から飲む。半分ほど飲んでオヤジくさい息を吐く。ぷは~ってやるのがビールの飲み方だとまさやんに教わった。でもレイルの前でやったら行儀が悪いと言われた。それをまさやんに言ったら、日本の男の嗜みだそうだ。ビールの当てにスルメを食べるのも嗜みだとか。
同僚の殆どがカレンを遠巻きにする。まさやんとレイルしかカレンと気安く話す人はいない。殆どが無視、不躾な視線を送る、の方が多いかもしれない。
不安になると相談センターに電話をする。「妊娠しないんですけど~」なんて電話を取るのは、基地内の誰か。女性の時もあれば男性の時もある。基地内のどこに繋がっているのかは知らない。そういう専用ダイヤル番号が冷蔵庫に貼ってある。歴代の竜のお相手が使用しているのだろう。
「そうですね、気持ちの問題もあるようですので、リラックスを心がけてはいかがですか? 室内にアロマを炊くとか、入浴剤を使用するとか。お酒は飲まれますか?」
「はい、お休みの日は起き抜けに缶ビール1本、お昼ご飯は食べずに寝て、夕飯時に3本、寝るまで飲んでることもあります」
「それは多いですよぉ。気晴らしは必要でしょうから、お酒も時には良いと思いますが、母体になる訳ですからね。日々の規則正しい生活を心がけて下さい」
「わかりました」
と言いながらビールを飲む。
「あとは妊娠後の幸せな生活を想像すると良いって仰る方もおみえですよ。ちょっと特殊な生活ですから、想像も難しいかもしれませんが、心が幸せの方が、赤ちゃんも来やすいかもしれませんねえ」
「なるほど、わかりました。所で、相手になかなか会えなくて、生活の想像なんてできないんですけど~そこのところはどうしたら……」
「えっとですね~あはははは、そういった個人情報にはお応えできないんですよぉ。その辺りは上の方にご相談下さい。ではお時間ですのでぇ~失礼しまーす」
ブツッと回線が切れる。ビールを飲み干して、ベッドに横になった。白い天井。四角くて何もない。横壁も白。窓もない。空調が壁にあるが、格子の奥は網が張られている。この部屋は地下1階にある。もちろん地球側。でも下の階のゲートを潜った先は異世界と繋がっている。ありえない現実。殆どの人がそこをスルーして考えないようにしている。実際に直面しているのは、今はカレンひとりだけ。
管制塔の向こうに竜がいる。そこからシアが竜人に変化してカレンの前に立つ。現実だろうか。騙されてはいないか。そろそろ狂って来たのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる