竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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竜殱滅

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 目を覚ました時、天井に見覚えが無かったし、匂いに土と草の匂いが含まれていて、懐かしいと思ってしまった。見回すと丸太を組んで作られた壁が周りを囲んでいる。扉が二つ、炊事場があり、4人掛けのテーブルがある。それも丸太が組まれて出来ていて、椅子も木で作られたものだ。テーブルの下にくすんだ朱色の絨毯が敷かれており、その横に二階へ続く梯子がある。カレンが寝かされているのは、炊事場の反対側だ。床に布団を敷いてある上にいる。体には少し重く感じる毛布が掛けられている。毛布の中の自分の体を見ると、生成りのシャツに緩いくるぶし丈のパンツを穿いている。シャツの中には包帯が巻かれていて、腹から血を流していたことを思い出した。痛みはほとんどない。動くと傷が引き攣れる感じして少し痛むくらいだった。

「起きた?」

 ドアが開く音がして、そこから男が現れた。カレンがそちらを見ると、視線に気づいた男がそう言って笑った。カレンに近づき、カレンの横に腰を下ろした。

「傷はどう? こっちの医者に傷を見て貰ったんだ。血を多く流しすぎて痙攣を起こしていたんだ。助かって良かった」

「……だ、……れ…だ…」

「ああ、わるい、喉が渇くよな。水、持って来るよ」

 立ち上がった男は、炊事場から水を持って来る。介護用の水を飲ませる急須型のものに入った水を、カレンの頭を少し持ち上げて、口に含ませてくれた。口の中を潤し、喉を通すと、水が滲み渡るのがわかった。

「あり……がと……」

「いや、早く元気になってくれよ、せっかく命、助かったんだからさ」

 水をもう一口飲ませてくれて、ゆっくりと頭を下ろしてくれた。
 男は黒い髪をしている。瞳の色は青。肌は焼けた小麦色。カレンよりは体つきがしっかりしているけど、歳は20代前半に見える。

「俺、ミコトっていうんだ。おまえ背負って逃げた、覚えてるか?」

 カレンはミコトを見て、記憶を呼び起こす。

「ああ、撃たれた、怪我は大丈夫か?」

「かすり傷だ。普通に歩けるし、大丈夫」

 ミコトの手がカレンの頬に触れた。カレンはびっくりしてじっとミコトを見る。

「かすり傷、痕になるかもしれねえ。悪いな、うまく避けてやれなかった」

「そんなこと、気にしなくて良いよ」

「でも白銀の竜に怒られそうだ」

 ミコトは白い歯を見せてニカッと笑う。何も悪いことなんてないっていうような、明るい笑顔を見て、カレンは少しだけ体の力を抜いた。

「ここはどこ?」

「空間を無事に潜り抜けられたんだけどさ、竜の渓谷には出られなかった。でも親切な人が助けてくれて、この家も貸してくれた」

 カレンは部屋を見回して、ミコトを見る。

「こんな良い家、貸してもらえる?」

 怪我も治療してもらっているし、家まで貸してくれる。そんな親切な人、いるとは思えない。何か代償を払っている。物を知らないカレンでも、ただより高いものはない、ということはわかる。

「うーん、まあ、俺のできることして稼いだ。そんなことより早く傷治して、白銀の竜を探そう。見つけたらおまえを助けたお礼を貰うから、気にするな」

「危ないことしてないよな?」

「ああ、大丈夫だ。心配ねえよ」

 ミコトはまたニカッと笑った。

「本当か?」

「本当に決まってんだろ。竜語が通じるんだ、何でもできる」

「竜語……」

 言葉が通じる。それは強みだと思う。

「空を竜が行きかうんだぜ? もう少し良くなったら、外を見せてやるよ」

「わかった。済まないがもう少し休ませてもらう」

 カレンがそう言うと、ミコトはホッとしたように笑った。
 ミコトの笑みを見て、カレンはミコトが何かを隠していると思った。でも聞かれたくないと言う雰囲気があったから、あえて聞かなかった。聞いたとしてもカレンは動けない。早く良くなって、ミコトに負担を掛けないようにしようと思う。
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