竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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竜殱滅

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 世界が揺れていた。
 ぐるぐる回る世界の中で、体も心も切り離された別の場所にあり、自分が何であるかもわからなくなっていた。

 ぐるぐる回る世界の中で、人の叫び声をたくさん聞いた。
 腹が痛い。
 体が揺れるたび、激痛が脳へ伝わる。痛みに耐える為に噛み締める奥歯も痛い。

「あと少しだ、我慢しろ」

 ギリギリと奥歯を噛み、隙間から嗚咽が漏れる。
 痛いと言葉にできない。痛みが痺れとなる。

「気は失うなよ、手は離すな」

 よくわからない状況下にある。
 腹が痛いのは、黒曜に手術されたからだろう。服の上から腹を押えているけど、指の隙間から血が溢れて来ている。縫合されずに放置されたまま、この状況にあるのか。縫合はされたけど、開いてしまったのか、わからない。ただ痛い。痛くて意識が遠のいて行く。

「早く、空間が歪んでいる」

 前を走る男から焦りの声が聞こえて来る。

「やはり閉じるか」

 カレンを背負う男がそう言った。
 空間が閉じる。シアとのつながりが消えてしまう。
 そう思ったカレンは、男の肩を掴む手に力を入れ、痛みからではない嗚咽を漏らした。
 たぶん、体の中にあったシアとの繋がりを切り取ってしまった。もうシアの子を孕むことはない。シアは別の次元の生き物で、本来なら出会うことはなかった。空間が閉じるのなら、その方が良い。そうすれば黒曜の思惑が実行されることがなくなる。

「おまえはどうする? このまま行くのか? それともこいつだけを送るのか?」

「行くよ、こいつをひとり空間の向こうに送り込んで、生きて行けると思えねえから」

 カレンを背負う男がそう言う。
 カレンは抗議の声を上げたかったが、痛みで声が出せなかった。
 行きたくない。次元の向こうに行っても、カレンにはもうシアとのつながりがない。シアに会い、もう一度捨てられるのは耐えられない。

「竜が暴走している。空間が消えかかっている」

「実験棟の地下だ! 管制塔の地下とは別の道が空いている。ここを守っていてくれ、俺らだけで行く」

 前を走る男が足を止めた。後ろから追って来る者がある。拳銃の発砲音が聞こえる。応戦する者の発砲音も。怒声が響く。爆発音も聞こえて来る。カレンを背負う男の足から血が飛ぶ。カレンの頬に傷を作り、男の肩から血が飛ぶ。

 次元の向こうへ飛び込んだ時、地面に倒れ込んだ男は、太ももと足首と肩から血を流していた。

「大丈夫?」

 そう言って男を気遣うカレンの腹からは大量の血が流れている。
 空間のゆがみは意識を遠のかせる。いや、これは出血から来る失神なのだろうか。

 もう一度シアに会いたかったけど、このまま死んでしまうのなら、それでも良いかと思った。
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