48 / 68
双子島
14
しおりを挟む
カレンはナギに内緒で最初に宛がわれた家に向かった。
家ではミコトが大掃除をしていた。部屋の窓とドアを開け放って、シーツを全部洗って、布団を外に干している。それを見るまでもなく、カレンはミコトがしていたことに気づいているけど、あえて何も言わなかった。言わなかったけど、ミコトもカレンが気づいていることを悟っている。それだけで十分だった。
「なんで戻って来た?」
ミコトがテーブルについたカレンにお茶を出しながら言う。ナギにもらった紅茶だ。久しぶりの味。
「俺さ、やっぱりシアに愛されてなかったって改めて知って逃げて来た。あの卵もシアの可能性もないってわかって、やっぱり少しは期待していた。シアの子だったら良いって思っていた」
「そりゃそうだろ」
ミコトは簡単に言う。カレンは椅子の上に足を乗せ、膝を抱えている。
「ミコト、本気になっていないよな?」
「なってねえよ」
即答にカレンは疑いの目を向ける。
「ナギには言うなよ? わざと気づかないようにしている節がある。本来聡い人だと思うのに、アイに関することだけ考えないようにしているのだろう。自分が傷つかないように」
カレンの意見にミコトは頷いた。
「わかってる。俺はナギの代わりを務めただけだ。……そういうの、わかる。俺はいつも愛されねえから、少しだけ気分を味わった、それだけだ。……あーあ、ナギってどうして逃げているんだろう。愛されるの簡単だろうに、愛されたい奴が愛されなくて、愛されたくねえ奴が愛される、ままならねえよ」
ミコトがため息を吐く。ミコトもカレンと同じように椅子に足を上げて膝を抱えた。
「違うよ、ミコト。ナギは体が弱くてああいう行為ができないんだ。だからアイに気を使っている。アイに向ける自分の感情が研究者とか家族とかそういうものだと言い訳している」
「けど、贅沢としか思えねえもん」
ミコトが憤慨する。
「あーあ、ヤりたくてもヤれねえ奴と、ヤりたくないのにヤらされていた奴と、どっちが不幸なんだろうな」
カレンはミコトの意見に賛同はせず、ミコトとは別のため息を吐く。
「ミコトも俺も、どちらかと言えばヤりたくてヤってた方だろ? 嘘はダメだ。ナギは自分を卑下て考えすぎている。まあ、元々、竜を神として崇めていた民族の生き残りらしいから、竜の代表のアイと自分が番うっていう発想が欠落しているのだと思うよ。でもさ、考えてみろよ、アイは俺とミコトのせいで性欲を覚えた。ミコトがたくさん教えたんだろ? 気持ち良くなる方法」
カレンがそう言うと、ミコトは得意げに笑う。
「俺たちはさ、やっぱりここにいたらダメだと思う。卵はこの時に必要だったかもしれないけど、俺たちは確実に邪魔だ。俺たちを届かない思いのはけ口にされたくないだろ? あとはアイがナギを口説き落とせば良いと思うんだ。白銀の竜が生まれらた、白銀の竜を守る存在が必要になる。この島に人はナギだけで、性欲が生まれた竜はアイだけだ」
「そうなればアイはナギを逃せない。必死になるかな?」
「なってもらわないと困る。だから俺たちは竜の渓谷へ行こう」
カレンがそう言うと、ミコトは首を傾げた。そういえばミコトがいない場所で竜の渓谷の話をナギとしたことを思い出す。
「ナギが言っていたんだ。俺たちの世界が竜の渓谷と次元を繋げていたのなら、そこが次元の繋がりやすい場所かもしれないって。だから行ってみたいと思う。可能性は低いけど、俺たちは帰らないといけないと思う」
「わかった」
ミコトは簡単に頷いた。でも不満はあるらしい。膝を抱える態勢から胡坐に変え、うーんと伸びをしている。
「でもさ、元の世界に戻っても良いことねえよ? カレンは戸籍がないだろうし、俺は研究所から逃げたって思われてるだろうから、捕まったら処刑かもしれねえもん」
「……そうだったな。だったらシアと黒竜のところに行けると良いな。そこなら俺ら知られてないし、少しは人もいるんだろうし。昔の竜の相手がいて、住む場所くらい世話してくれるかもしれない」
カレンの言葉にミコトは笑う。
「安易な考えだけど、それしかねえな。俺、黒竜に聞いてみてえよ。俺のこといらねえのなら、何で呼んだってさ。それくらいやり返したって良いよな? だって覚悟決めて体まで変えられたんだ」
ミコトの言葉を聞いて、カレンも頷いた。
「そうだな、俺も聞いてみたい」
久しぶりの紅茶を飲みながら、双子島の反対側へ行く計画を立てた。
家ではミコトが大掃除をしていた。部屋の窓とドアを開け放って、シーツを全部洗って、布団を外に干している。それを見るまでもなく、カレンはミコトがしていたことに気づいているけど、あえて何も言わなかった。言わなかったけど、ミコトもカレンが気づいていることを悟っている。それだけで十分だった。
「なんで戻って来た?」
ミコトがテーブルについたカレンにお茶を出しながら言う。ナギにもらった紅茶だ。久しぶりの味。
「俺さ、やっぱりシアに愛されてなかったって改めて知って逃げて来た。あの卵もシアの可能性もないってわかって、やっぱり少しは期待していた。シアの子だったら良いって思っていた」
「そりゃそうだろ」
ミコトは簡単に言う。カレンは椅子の上に足を乗せ、膝を抱えている。
「ミコト、本気になっていないよな?」
「なってねえよ」
即答にカレンは疑いの目を向ける。
「ナギには言うなよ? わざと気づかないようにしている節がある。本来聡い人だと思うのに、アイに関することだけ考えないようにしているのだろう。自分が傷つかないように」
カレンの意見にミコトは頷いた。
「わかってる。俺はナギの代わりを務めただけだ。……そういうの、わかる。俺はいつも愛されねえから、少しだけ気分を味わった、それだけだ。……あーあ、ナギってどうして逃げているんだろう。愛されるの簡単だろうに、愛されたい奴が愛されなくて、愛されたくねえ奴が愛される、ままならねえよ」
ミコトがため息を吐く。ミコトもカレンと同じように椅子に足を上げて膝を抱えた。
「違うよ、ミコト。ナギは体が弱くてああいう行為ができないんだ。だからアイに気を使っている。アイに向ける自分の感情が研究者とか家族とかそういうものだと言い訳している」
「けど、贅沢としか思えねえもん」
ミコトが憤慨する。
「あーあ、ヤりたくてもヤれねえ奴と、ヤりたくないのにヤらされていた奴と、どっちが不幸なんだろうな」
カレンはミコトの意見に賛同はせず、ミコトとは別のため息を吐く。
「ミコトも俺も、どちらかと言えばヤりたくてヤってた方だろ? 嘘はダメだ。ナギは自分を卑下て考えすぎている。まあ、元々、竜を神として崇めていた民族の生き残りらしいから、竜の代表のアイと自分が番うっていう発想が欠落しているのだと思うよ。でもさ、考えてみろよ、アイは俺とミコトのせいで性欲を覚えた。ミコトがたくさん教えたんだろ? 気持ち良くなる方法」
カレンがそう言うと、ミコトは得意げに笑う。
「俺たちはさ、やっぱりここにいたらダメだと思う。卵はこの時に必要だったかもしれないけど、俺たちは確実に邪魔だ。俺たちを届かない思いのはけ口にされたくないだろ? あとはアイがナギを口説き落とせば良いと思うんだ。白銀の竜が生まれらた、白銀の竜を守る存在が必要になる。この島に人はナギだけで、性欲が生まれた竜はアイだけだ」
「そうなればアイはナギを逃せない。必死になるかな?」
「なってもらわないと困る。だから俺たちは竜の渓谷へ行こう」
カレンがそう言うと、ミコトは首を傾げた。そういえばミコトがいない場所で竜の渓谷の話をナギとしたことを思い出す。
「ナギが言っていたんだ。俺たちの世界が竜の渓谷と次元を繋げていたのなら、そこが次元の繋がりやすい場所かもしれないって。だから行ってみたいと思う。可能性は低いけど、俺たちは帰らないといけないと思う」
「わかった」
ミコトは簡単に頷いた。でも不満はあるらしい。膝を抱える態勢から胡坐に変え、うーんと伸びをしている。
「でもさ、元の世界に戻っても良いことねえよ? カレンは戸籍がないだろうし、俺は研究所から逃げたって思われてるだろうから、捕まったら処刑かもしれねえもん」
「……そうだったな。だったらシアと黒竜のところに行けると良いな。そこなら俺ら知られてないし、少しは人もいるんだろうし。昔の竜の相手がいて、住む場所くらい世話してくれるかもしれない」
カレンの言葉にミコトは笑う。
「安易な考えだけど、それしかねえな。俺、黒竜に聞いてみてえよ。俺のこといらねえのなら、何で呼んだってさ。それくらいやり返したって良いよな? だって覚悟決めて体まで変えられたんだ」
ミコトの言葉を聞いて、カレンも頷いた。
「そうだな、俺も聞いてみたい」
久しぶりの紅茶を飲みながら、双子島の反対側へ行く計画を立てた。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる