竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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双子島

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 双子島のサバイバルは楽しいものだった。
 ナギはあの施設から出たことがないらしいし、竜たちも好んでこちら側には来ないらしい。だから知らない。双子島の反対側の山には民家がある。それはもう誰も住んでいない廃墟だが、外敵から身を守る場所にはなった。しかも食べられる野菜が自生している。元は人が植えたものかもしれないが、それが残っているのだ。

「ライターがあるのは強いよな。水は湧水があって綺麗だし、大きい獣もいないと聞いているから安心できる」

「虫よけもすごいよな。俺らの周りの虫が逃げて行くくらい強力だ。ただ蛇はな、気を付けないと」

 蛇といっても胴が太くて長さ1メートル以上もあるヤツがいる。奴らは木の上から落ちて来る。何度か危機的状況に合って、周りを警戒しながら歩く癖がついて来た。

「ミコトが軍出身っていうのが強いな。野営の仕方がわかっているって心強いよ」

「へへへ、そうだろ? 俺でも役にたつだろ?」

 ミコトは得意げだ。褒められること自体がない生き方をしていたから、特別な意味を持つようだ。

「でもね、ミコト、ここって時間の感覚がないだろ? だから心配なことがある」

 この島に朝昼夜の違いはない。気温も変わらない。雲が空を覆っていて、時折、日差しが落ちる程度だ。

「なに?」

「体の心配、ミコトは大丈夫か?」

「ああ、いつもの定期的に来るヤツ。俺は平気、さんざんアイとヤったからな、次はひと月後だと思う」

 ミコトは採った野菜を鍋で茹でながら、料理に楽しみを見出している。やることがあった方がミコトは良いらしい。

「そうか、そうだったな。俺はちょっと危ない気がする。卵産んで1週間くらいだろ? また卵を宿せるように体が戻っている感覚があるから、戻ったら兆しそうな予感がする」

「えーそれってどうする? 辛いだろ」

 ミコトは発情する辛さを知っている。自分で処理しながら感覚を濁して行く行為は慰めにもならない。竜とすれば一回で治まるのに、それがないと3日は疼きが続く。

「仕方ないよな、俺らの決まり事だ。ここからあと2日で渓谷があるっていう場所に着く予定だ。たぶんそこまでは大丈夫だと思う。渓谷に着いたら、安全な場所を探して、ひとりにしてくれたら助かる」

 いくら同じ体の持ち主だと言っても、そういう現象を見られたくない。ひとりで悶えている姿を見られるのは恥ずかしすぎる。

「うん、わかった。俺もいつそうなるかわからないだろ? お互い様だ、気にするな」

「ああ、ありがとう」

「っていうかさ、渓谷で兆すんだったら、次元の向こうに匂いが届くんじゃねえの? 相手をひとりで耐えさせて、冷静でいられるものなのかなあ?」

 ミコトは出来上がったスープをカップに注ぎ、カレンに手渡す。ナギにもらったパンと一緒に。

「次元は同じかもしれないが、時列がまるで違う。そんな場所にまで届くと思うか? 無理だろ。もし仮に届くとしたら、卵を産む段階で気づくだろ。それこそひとりにされたくない場面だった」

「まあそうか、それはそうだな。悪い、適当なこと言った」

 ミコトは謝ったが、カレンは特に気にしていない。

「別に謝ることはない。ミコトには悪いが、俺はシアが迎えに来ない方が良いと思っているよ。今更合わせる顔もないからな」

 シアとは別の竜の子を産んだカレンだ。シアと会うのが怖い。もう捨てられた後だ。好きにすれば良いと言われるのも怖いし、それを理由に責められたら……いや、気にも留められないのだろう。

「元の世界の次元を潜れば、体も元に戻るかもしれねえよ? 竜に出会わなかった俺らに変化するのかもな」

 ミコトはニカッと笑う。そんな未来が来たらいろんなことがやり直せるだろう。
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