竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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白銀の竜

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 そこはとても広い自然の中だ。広い空間の中で爆音が響いている。人の怒声が聞こえている。順序良く並び、号令に合わせて一糸乱れぬ動作で列を成す。
 軽い音の銃が的を射る。大型の戦車が帷子の音を響かせ、列を成す。

 シャルとツヴァイは建物の陰でそれを見ている。
 休憩用の施設なのか、迷彩服にヘルメットをかぶった人が行き来している。

『戦時中か?』

 ツヴァイが疑問を口にする。

『まさか、自衛隊の訓練基地だ』

 確かに緊迫感には欠けるかと風景を眺める。

『あそこ』

 シャルが視線を送る。
 ツヴァイが視線の先を見ると、そこのは数人の集団が壁沿いに並び、歓談している姿があった。
 その中に黒髪、青い瞳、焼けた肌の男がいる。

『……ミコトか』

『正解』

 ツヴァイには相手の匂いはわからない。ミコトがツヴァイの相手に選ばれたのは、たまたま研究所にツヴァイの指定した容姿の者が数人しかおらず、その中で立候補した為だった。ただの偶然、それだけだった。

『ミコトは自衛官になっているんだな』

『まぁ、彼は初めから自衛隊に就職していたからな。施設が無ければ彼の生き方が歪むことはない』

 ミコトは可哀想な生き方をしていた。ミコトの体の傷を知るのはツヴァイだけだ。シャルはミコトの情報を知っているだけで、実際に会ったことはない。シャルがツヴァイの相手に興味を示さなかったからだ。というよりカレン以外に目を向けなかったともいう。

『おまえに未練があるから、俺もそれに付き合わされているのか?』

 シャルとツヴァイ以外の者は、すでに新しい歴史の流れに沿って生きている。何の疑問も持たず、それが当たり前の世界の中で。ツヴァイは不満だ。記憶とはそぐわない世界の中に取り残された気分を味わっている。だったら通常通り、勝手に記憶の書き換えを終え、何も知らずに生きていた方が楽ではないかと思う。だがツヴァイの役割は白銀の竜の従者だ。白銀の竜を守ることが使命。シャルに未練があり、もう一度、それを手に入れようという意思があるのなら、付き従うのが運命かとも思う。

『俺のせいにするなよ。おまえだって未練があるんだろ? っていうかさ、カレンとミコトには未練がないのだろうな。幸せにしてやれなかったからかな。急に時空が離れてしまったから、その影響で記憶が飛んでしまったのかもしれない』

『どうせ俺ら別れた後だっただろ? 未練持たれても困るってだけだ。ここで幸せにやっている。俺らに邪魔をする権利はねえよ』

 ツヴァイの意見を聞いてシャルは落ち込む。すでに時は経ってしまった。竜と出会わない歴史にいる彼らの前に姿を現すほど馬鹿ではない。すでにふたつの世界はわかれた。未練はあっても気づかぬふりで背を向けるしかない。

『帰ろう』

 シャルが泣きそうな顔で笑う。
 ツヴァイはシャルを見て頷く。元気づける為にフードの上から頭を撫でた。
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