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白銀の竜
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その光景は、あってはならないものだ。
白銀の竜が同じ空間に二頭いる。歴史を紡ぐ神に選ばれし存在だ。その二頭が同じ地に降り、対峙している。そして黒竜だ。黒竜は特に数に制限がある訳ではない。ただ白銀の竜の従者としてある黒竜は一頭だ。だが今は二頭いる。ただツヴァイはまだ人型だ。訳も分からず、二頭の白銀の竜を見上げていた。
「どういうことだ?」
風が巻き起こる。ギャーギャーと鳴きながら、翼を広げて、威嚇しあっている白銀の竜などあっていいものなのか。
「え? 黒竜さん?」
ツヴァイは声の主に視線を向けた。ミコトだ。しかもツヴァイの記憶にある姿と同じ。ついさっき見たばかりの迷彩服に身を包んだ精悍な男のミコトではなく、可愛くて細身のツヴァイが愛したミコトだった。
「どういうこと? これ、夢?」
走る勢いのまま、ミコトはツヴァイの胸に飛び込んで来た。甘い匂いがする。思わずおでこにキスをした。
ミコトはツヴァイを見上げて笑う。歯を見せて笑うのはミコトの癖だ。
「迎えに来てくれた?」
心の中がほわんとする。ミコトにはそういう作用がある。だから離れたかった。だが胸に抱けばどうでも良くなる。それなのに別の存在がミコトの腕を引き、ツヴァイから奪った。
人化した黒竜だ。竜から人化したばかりだ。鱗が体の表面に残っているのは、新しい歴史の中で、人と竜の距離が近づいている証らしい。鱗がボディースーツのようになっている。裸を気にしなかった生活仕様までもが歴史の変化でかわっているようだ。
「ミコト、俺を選べ」
黒竜の腕の中に抱かれたミコトは不思議そうに顔を見上げている。腹の立つ光景だ。
「アイ、どうした? ナギは良いのか?」
アイはミコトを強く抱きしめた。
「ナギを看取った。寿命を全うしたよ」
「そっか、ちゃんと最期まで一緒にいられたんだ。よかったな」
ミコトもまた、愛しいというように黒竜の胸に頬を預けている。ツヴァイは激高する。竜化して戦いを挑んでいるシャルの気持ちがようやくわかる。
「ミコトは俺のものだ」
ミコトの腕を引き、黒竜から取り戻す。
「ミコト、俺と来い」
「うわ、すげえ」
ミコトは黒竜ニ頭に挟まれて、ポカンとした表情をしている。それから嬉しそうに頬を染めた。
「ミコト、俺はおまえが忘れられなかった。もう二度と離さない、俺と一緒に生きてくれ」
アイがミコトに懇願する。必死で、思いを込めた表情に、ツヴァイは気圧された。ツヴァイはずっと無気力に生きて来た。小競り合いくらいしか争いのない世界の中で、白銀の竜の従者に選ばれ、白銀の竜の世話係のようにして生きて来た。ミコトを選んだのも気まぐれだ。シャルがカレンを可愛がる間、暇ができるから、それを埋める為の相手にすぎなかった。それなのに、奪われると思うと怒りが身を包む。
「アイ、俺とまたしたい?」
アイはミコトが初めてで、たぶんナギとはしていない。忘れられないというのは体が? と思うミコトだけど、それでもここまで乞われたことはない。誰にも必要とされなかったミコトだ。こんなことを言われたら惹かれる。
「黒竜さんは? 俺のこと、捨てたんじゃねえの?」
ミコトの疑問の目がツヴァイに向く。そういえば名も教えていなかった。
「ツヴァイ・デ・イシュクだ」
「ツ……ツィ…チィって呼んで良いか?」
竜の名は人には呼びづらい。シャルもカレンにシアと呼ばれている。それと同じ呼び方のようだ。
「好きに呼ばせてやる。だから傍にいろ」
本気で欲しい。そう思うのは、竜本来の獣じみた独占欲によるものだろうか。
白銀の竜が同じ空間に二頭いる。歴史を紡ぐ神に選ばれし存在だ。その二頭が同じ地に降り、対峙している。そして黒竜だ。黒竜は特に数に制限がある訳ではない。ただ白銀の竜の従者としてある黒竜は一頭だ。だが今は二頭いる。ただツヴァイはまだ人型だ。訳も分からず、二頭の白銀の竜を見上げていた。
「どういうことだ?」
風が巻き起こる。ギャーギャーと鳴きながら、翼を広げて、威嚇しあっている白銀の竜などあっていいものなのか。
「え? 黒竜さん?」
ツヴァイは声の主に視線を向けた。ミコトだ。しかもツヴァイの記憶にある姿と同じ。ついさっき見たばかりの迷彩服に身を包んだ精悍な男のミコトではなく、可愛くて細身のツヴァイが愛したミコトだった。
「どういうこと? これ、夢?」
走る勢いのまま、ミコトはツヴァイの胸に飛び込んで来た。甘い匂いがする。思わずおでこにキスをした。
ミコトはツヴァイを見上げて笑う。歯を見せて笑うのはミコトの癖だ。
「迎えに来てくれた?」
心の中がほわんとする。ミコトにはそういう作用がある。だから離れたかった。だが胸に抱けばどうでも良くなる。それなのに別の存在がミコトの腕を引き、ツヴァイから奪った。
人化した黒竜だ。竜から人化したばかりだ。鱗が体の表面に残っているのは、新しい歴史の中で、人と竜の距離が近づいている証らしい。鱗がボディースーツのようになっている。裸を気にしなかった生活仕様までもが歴史の変化でかわっているようだ。
「ミコト、俺を選べ」
黒竜の腕の中に抱かれたミコトは不思議そうに顔を見上げている。腹の立つ光景だ。
「アイ、どうした? ナギは良いのか?」
アイはミコトを強く抱きしめた。
「ナギを看取った。寿命を全うしたよ」
「そっか、ちゃんと最期まで一緒にいられたんだ。よかったな」
ミコトもまた、愛しいというように黒竜の胸に頬を預けている。ツヴァイは激高する。竜化して戦いを挑んでいるシャルの気持ちがようやくわかる。
「ミコトは俺のものだ」
ミコトの腕を引き、黒竜から取り戻す。
「ミコト、俺と来い」
「うわ、すげえ」
ミコトは黒竜ニ頭に挟まれて、ポカンとした表情をしている。それから嬉しそうに頬を染めた。
「ミコト、俺はおまえが忘れられなかった。もう二度と離さない、俺と一緒に生きてくれ」
アイがミコトに懇願する。必死で、思いを込めた表情に、ツヴァイは気圧された。ツヴァイはずっと無気力に生きて来た。小競り合いくらいしか争いのない世界の中で、白銀の竜の従者に選ばれ、白銀の竜の世話係のようにして生きて来た。ミコトを選んだのも気まぐれだ。シャルがカレンを可愛がる間、暇ができるから、それを埋める為の相手にすぎなかった。それなのに、奪われると思うと怒りが身を包む。
「アイ、俺とまたしたい?」
アイはミコトが初めてで、たぶんナギとはしていない。忘れられないというのは体が? と思うミコトだけど、それでもここまで乞われたことはない。誰にも必要とされなかったミコトだ。こんなことを言われたら惹かれる。
「黒竜さんは? 俺のこと、捨てたんじゃねえの?」
ミコトの疑問の目がツヴァイに向く。そういえば名も教えていなかった。
「ツヴァイ・デ・イシュクだ」
「ツ……ツィ…チィって呼んで良いか?」
竜の名は人には呼びづらい。シャルもカレンにシアと呼ばれている。それと同じ呼び方のようだ。
「好きに呼ばせてやる。だから傍にいろ」
本気で欲しい。そう思うのは、竜本来の獣じみた独占欲によるものだろうか。
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