竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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白銀の竜

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「ユイト、……ユイ・デ・アイル……ユアか」

 シャルが勝手にカレンの子に名前を付けた。カレンの子は不満げだったが、カレンはとても喜んだ。それがカレンの本名だとは知らずに。

「ユイ、ユア、可愛い。今日からユアだ」

 カレンが可愛くそう言ってユイに迫ったから、ユイも仕方なく納得したらしい。

「わかったよ、カレンがコイツを俺の親だっていうのなら、信じるよ。それでカレンが幸せならそれで良いよ」

 ユイがカレンを抱きしめる。そうするとシャルが嫉妬してカレンを引き離した。

「なんだよ、良いだろ? おまえはカレンを連れて行くんだろ? 少しぐらい甘えさせろよ」

 俺の産みの親だと言われたら、シャルも仕方がなくカレンを離す。でも手だけは繋いでおく。それがカレンには甘く思えて嬉しいようだ。

「カレン良かったな」

 ミコトはカレンたちを遠巻きにして見ていて、微笑ましいとニコニコだ。その横左右に黒竜がいる。腕を組んで不貞腐れた表情の二頭は、ミコトを挟んでけん制し合っている。

「カレンは元の場所に戻るんだろ? 俺は……」

 ミコトは左右を見上げる。どちらも好きだ。ミコトには選べない。

「おまえはツヴァイを選べ」

 シャルが勝手に横柄な態度でそう言った。白銀の竜の意見は命令だ。だがこの場合は二頭いる。ツヴァイは従うがアイに従う義務はない。しかもアイはユイの従者でもない。この中で全てを知るのは歴史を知っているシャルだけだ。

「俺はカレンを俺の次元の竜の渓谷へ連れて行く。だからおまえも一緒に来い」

 カレンは少しだけ竜の歴史を知っている。ナギに聞いたからだ。竜の歴史はまだ始まったばかり。これから様々な困難に出会い、打ち勝って行く。その先にシャルたちの存在がある。

「一緒に来て欲しい」

 カレンがアイには申し訳なさそうにして、そう言った。シャルが良く言ったとばかりにカレンの頬を撫でる。

「黒竜さんは本当に俺を受け入れてくれるのか?」

 アイが傷ついた顔をする。引き留めようと手を伸ばし、ツヴァイのけん制の視線を受けて手を止めた。

「名を呼べ、ミコト」

 ツヴァイはミコトを引き寄せて額にキスをした。

「アイごめんなさい」

 そう言ったのはカレンだ。

「アイにはやることがあると思う。ユイの本当の意味での黒竜を傍に置いて欲しいし、黒髪、黒い瞳の子を探してあげて欲しい」

 だってそうだよな? と、カレンはシャルを見上げる。始まりはカレンとシャルになる。だが歴史上はユイとユイの選ぶ相手が始祖の血となる。これは言葉にしないが、カレンには不安もある。これからユイとアイの世界には戦争が起こる。どういう形で行われるのかカレンは知らない。だが確実にある。だからそんな場所にミコトを置いては行けない。人の寿命は短いから、ミコトが生きている間に起こるかどうかはわからないが。

「アイにも素敵な相手がみつかる。俺は、……」

 ミコトが言葉に詰まり、ツヴァイを見た。それから覚悟を決めた表情でアイを見る。

「俺は、汚れてる。俺なんかよりも良いヤツ、いっぱいいる。アイなら大丈夫だ」

 強がりはミコトの癖だ。自分を下げるのも。でもミコトは本当にそうだと思っている。理不尽な状況からさんざん奪われ尽くした体だ。ツヴァイにだっていらないと思われても仕方がない。それなのにツヴァイは欲しいと言ってくれている。何もかも知っているのはツヴァイだ。ツヴァイとは体を繋いだだけじゃない。10年の間、カレンがシャルと会っていた間、ミコトはカレンよりも長い時間をツヴァイと過ごして来た。ツヴァイは聞き役に長けている。ミコトが何を言っても臆せず、寡黙に聞き流すから、カレンは好き勝手にいろいろ話して聞いてもらった。愚痴も、自分の嫌なところも、理不尽な出来事も。だから嫌われたと思った。不潔な体はもう抱けないと思われていたのかと思っていた。でも違う。違うと思えただけで嬉しかった。

「俺はミコトが好きだった。幸せにな」

 アイはミコトを抱きしめて、頬を寄せた。ツヴァイは嫌々ながら、それを見逃してやった。
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