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蜜月
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「ふく、濡れるよ」
シャワールームから出たミコトを待っていたのは、ツヴァイの抱擁だった。ぎゅうぎゅうに抱き締められて、背中や髪を撫でられている。自分だけ裸なのが恥ずかしいのか、ツヴァイの背中を叩いている。
「構わない」
腕が緩んだと思うと、ツヴァイがミコトを抱き上げる。ツヴァイの腹辺りに乗せられ、足を大きく開かされて背中側にある。ツヴァイに裸のまま抱き着かされて、肩から腕を回して、ツヴァイを上から見下ろす。この体勢にされるとミコトからキスをしないといけない。でもツヴァイも見上げてくれているから、キスしても良いんだとわかる。
唇を寄せると、ツヴァイの舌がミコトの唇を舐める。その感触にミコトはゾクッとする。小鳥みたいなキスを繰り返し、それから深く唇を重ねる。慣れた舌がミコトの中を巧みに蠢く。ミコトはもうされるがままだ。キスに酔っていると、ゆっくり湯船の中に降ろされた。もう後ろが準備を始めていたから、こぼれる前におふろに入れて良かったのかも、と離れた体温に寂しく思っていると、ドアがノックされた。竜の聴覚には店員の足音が聞こえたのかもしれない。
ツヴァイはテーブルに運ばれて来た食事を置くと、フルーツの皿だけを持ってミコトのところに来た。
ぶどうを口の中に入れられる。皮ごと食べられる緑色のぶどうだ。甘くておいしい。口の端から果汁が垂れると、ツヴァイが舐め取ってくれる。ついでに口の中を舐められて、ツヴァイがあまいと呟いた。
あーんってすればまた食べさせてくれる。おふろに入りながら、甘いやり取りをする。ツヴァイにも服を脱いで欲しいなと思ったミコトは、ツヴァイの胸元に手を伸ばした。それに気づいたツヴァイはそっと身を引き、歩いて行ってしまった。ミコトはなんだ、と思う。甘いやり取りだから、その先も期待している。体はもう当たり前に受け入れ態勢に入っているし、お湯の中じゃなかったら、誘う匂いをさせているのが知られてしまったかもしれない。
ツヴァイはミコトの元に戻って来ると、タオルを広げた。ミコトはツヴァイの行動に喜ぶ。ジャバッと勢い良く立てば、お湯が床を濡らした。構わずにツヴァイに向けて手を差し伸べると、タオルを巻いてミコトを湯船から引き上げ、お姫さま抱っこをしてくれた。
行先はベッドの上だ。ミコトは久しぶりだから緊張している。
「あれからどうしていたんだ?」
ベッドに寝かせられ、タオルを引き抜かれ、上に圧し掛かられる。それなのに質問が来た。ミコトはキスをねだりそうになったまま、ツヴァイを見た。たぶん欲しいって顔になっている。早くと思う気持ちが溢れてしまっているだろうに、ツヴァイは意地悪だ。
「あれから? 黒竜さんに捨てられてから?」
ムッとしてミコトは素直に返事をしない。名前も呼ばない。まあそれにはテレもあるが。
「悪かった」
ツヴァイは素直に謝って、ミコトが欲しがったキスをする。ん、ん、と喉から漏れる声を聞いて、可愛いと思う。ミコトが隠したがる傷痕。特に肩にある丸い痕を嫌がっている。煙草を押し付けられた痕だ。学生の頃、複数の先輩にヤリながら折檻された。それがミコトの暗い過去だ。消してやりたいと思う。だがそれはツヴァイのエゴだ。ミコトは乗り越えようとしている。だからツヴァイはそこにもキスをする。舌で舐めて、嫌そうにするミコトを見るのが好きだ。
「意地悪だ」
ミコトは拗ねる。胸を素通りし、腹の傷に舌を這わせる。ここは施設にいた時、上官に斬られた痕だ。黒竜の元に行くと決まった時、逃げるのかと脅され、死んでみろと強要された。強要されたまま、自分で切り裂いた傷跡だ。背中にも傷がある。これはツヴァイと会っている間に増えた傷だ。ミコトが卵を孕まないから、苛立った研究員に細い棒で打たれた傷跡。これはツヴァイが直接聞いていたから知っている。だがそれもミコトは笑って話した。どうせ俺はそういう存在だからとあっけらかんと。だからツヴァイはミコトから離れた。数ある理由のひとつだ。
「傷を残すのが好きなんだろ?」
そう言いながら首筋を噛む。竜の牙は鋭いが、傷がつかないぎりぎりを攻める。
「痛いの嫌いだ」
「嘘だ」
ツヴァイが刺激するたびに、ミコトの誘う匂いが濃くなって行く。それはツヴァイを煽る。それなのにミコトは別のことを考えている。
「カレンも愛のあるセックスしていると良いな」
「どういうことだ?」
ツヴァイが苛立つ。よくもこんな状況で他ごとが考えられるな、と睨むと、ミコトはへらっと笑った。
「だってカレンがさ、愛のあるセックスがしたいって言ってたんだ。何だっけ? キスしながら正常位で抱き合って、奥に出されて、良かったって言って、もう一回って言うセックスだったかな」
「具体的だな」
ツヴァイがそう言うと、ミコトが笑った。
「俺も、カレンに同じこと言った」
笑うミコトを愛しそうな顔でツヴァイが見下ろしている。
「愛のあるセックス、してやるよ」
そう耳元で囁かれ、ミコトは息を飲む。熱い視線で見られて鼓動が早くなる。後ろが濡れて、シーツを汚した。
シャワールームから出たミコトを待っていたのは、ツヴァイの抱擁だった。ぎゅうぎゅうに抱き締められて、背中や髪を撫でられている。自分だけ裸なのが恥ずかしいのか、ツヴァイの背中を叩いている。
「構わない」
腕が緩んだと思うと、ツヴァイがミコトを抱き上げる。ツヴァイの腹辺りに乗せられ、足を大きく開かされて背中側にある。ツヴァイに裸のまま抱き着かされて、肩から腕を回して、ツヴァイを上から見下ろす。この体勢にされるとミコトからキスをしないといけない。でもツヴァイも見上げてくれているから、キスしても良いんだとわかる。
唇を寄せると、ツヴァイの舌がミコトの唇を舐める。その感触にミコトはゾクッとする。小鳥みたいなキスを繰り返し、それから深く唇を重ねる。慣れた舌がミコトの中を巧みに蠢く。ミコトはもうされるがままだ。キスに酔っていると、ゆっくり湯船の中に降ろされた。もう後ろが準備を始めていたから、こぼれる前におふろに入れて良かったのかも、と離れた体温に寂しく思っていると、ドアがノックされた。竜の聴覚には店員の足音が聞こえたのかもしれない。
ツヴァイはテーブルに運ばれて来た食事を置くと、フルーツの皿だけを持ってミコトのところに来た。
ぶどうを口の中に入れられる。皮ごと食べられる緑色のぶどうだ。甘くておいしい。口の端から果汁が垂れると、ツヴァイが舐め取ってくれる。ついでに口の中を舐められて、ツヴァイがあまいと呟いた。
あーんってすればまた食べさせてくれる。おふろに入りながら、甘いやり取りをする。ツヴァイにも服を脱いで欲しいなと思ったミコトは、ツヴァイの胸元に手を伸ばした。それに気づいたツヴァイはそっと身を引き、歩いて行ってしまった。ミコトはなんだ、と思う。甘いやり取りだから、その先も期待している。体はもう当たり前に受け入れ態勢に入っているし、お湯の中じゃなかったら、誘う匂いをさせているのが知られてしまったかもしれない。
ツヴァイはミコトの元に戻って来ると、タオルを広げた。ミコトはツヴァイの行動に喜ぶ。ジャバッと勢い良く立てば、お湯が床を濡らした。構わずにツヴァイに向けて手を差し伸べると、タオルを巻いてミコトを湯船から引き上げ、お姫さま抱っこをしてくれた。
行先はベッドの上だ。ミコトは久しぶりだから緊張している。
「あれからどうしていたんだ?」
ベッドに寝かせられ、タオルを引き抜かれ、上に圧し掛かられる。それなのに質問が来た。ミコトはキスをねだりそうになったまま、ツヴァイを見た。たぶん欲しいって顔になっている。早くと思う気持ちが溢れてしまっているだろうに、ツヴァイは意地悪だ。
「あれから? 黒竜さんに捨てられてから?」
ムッとしてミコトは素直に返事をしない。名前も呼ばない。まあそれにはテレもあるが。
「悪かった」
ツヴァイは素直に謝って、ミコトが欲しがったキスをする。ん、ん、と喉から漏れる声を聞いて、可愛いと思う。ミコトが隠したがる傷痕。特に肩にある丸い痕を嫌がっている。煙草を押し付けられた痕だ。学生の頃、複数の先輩にヤリながら折檻された。それがミコトの暗い過去だ。消してやりたいと思う。だがそれはツヴァイのエゴだ。ミコトは乗り越えようとしている。だからツヴァイはそこにもキスをする。舌で舐めて、嫌そうにするミコトを見るのが好きだ。
「意地悪だ」
ミコトは拗ねる。胸を素通りし、腹の傷に舌を這わせる。ここは施設にいた時、上官に斬られた痕だ。黒竜の元に行くと決まった時、逃げるのかと脅され、死んでみろと強要された。強要されたまま、自分で切り裂いた傷跡だ。背中にも傷がある。これはツヴァイと会っている間に増えた傷だ。ミコトが卵を孕まないから、苛立った研究員に細い棒で打たれた傷跡。これはツヴァイが直接聞いていたから知っている。だがそれもミコトは笑って話した。どうせ俺はそういう存在だからとあっけらかんと。だからツヴァイはミコトから離れた。数ある理由のひとつだ。
「傷を残すのが好きなんだろ?」
そう言いながら首筋を噛む。竜の牙は鋭いが、傷がつかないぎりぎりを攻める。
「痛いの嫌いだ」
「嘘だ」
ツヴァイが刺激するたびに、ミコトの誘う匂いが濃くなって行く。それはツヴァイを煽る。それなのにミコトは別のことを考えている。
「カレンも愛のあるセックスしていると良いな」
「どういうことだ?」
ツヴァイが苛立つ。よくもこんな状況で他ごとが考えられるな、と睨むと、ミコトはへらっと笑った。
「だってカレンがさ、愛のあるセックスがしたいって言ってたんだ。何だっけ? キスしながら正常位で抱き合って、奥に出されて、良かったって言って、もう一回って言うセックスだったかな」
「具体的だな」
ツヴァイがそう言うと、ミコトが笑った。
「俺も、カレンに同じこと言った」
笑うミコトを愛しそうな顔でツヴァイが見下ろしている。
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