竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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蜜月

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「カレン、体が準備してる? 甘い匂い、する」

 シャルにそう言われて、カレンは驚いて目を見張り、それから顔を赤らめて俯いた。仕方ない。シャルの膝に乗り、シャルに告白されている。愛してるとまで言われた。想いが形になって体に表れる。

「抱きたい、カレン、良い?」

 返事を言う前にもう抱き上げられている。抱き上げられて二階の階段を上って行く。カレンはシャルの胸に顔をうずめて、恥ずかしさに耐えていた。

 シャルの部屋に連れて行かれた。シャルの部屋は暗くされている。朝昼夜のない場所だ。ずっと明るい。だから暗がりを作っているらしい。窓の向こう側に黒いドアがある。両開きの黒いドア。室内にはランプがある。シャルがランプに火を灯すと、窓の外の黒いドアのせいで、窓が鏡のようになった。抱き上げられているカレンの姿が映っている。それはとても綺麗な姿だ。自分の姿をマジマジと見る最初の機会がシャルに抱き上げられている姿だった。シャルは相変わらず綺麗だ。銀の髪が胸まで伸びている。柔らかい髪はゆるく束ねられて左側にある。束ねているのは黒い宝石がはまった輪だ。カレンはベッドに下ろされ、シャルの行動を見守る。

 壁際の棚に行ったシャルはカレンに背中を向けている。今のうちに服を脱がないとと、カレンはボタンを外して行く。シャルが振り返り、カレンの行動を見て、すぐに止めた。

「カレン、もうそんなこと、しなくて良いよ」

 シャルはカレンの横に座り、カレンの手を握った。

「カレンはいつも、誰かに言い付けられた行動を取っていたんだよね?」

「あ、うん、そうだった」

 カレンはずっと窓に自分が写っているのを気にしている。自分の姿を見て、言葉を発すると、粗野な言い方を控えてしまう。見た目が可愛い。それはずっとミコトに言われていた。でもやっとそれに本当の意味で気づいた。可愛い姿の自分が自分であると認識して、言葉がうまく出て来ない。

「どうしたの?」

 それにシャルが気づく。カレンの視線を追って、鏡になった窓に向く。

「あ、あの、自分の見た目が、その、慣れなくて……」

「可愛い?」

 シャルは小首を傾げて笑い、カレンを膝に乗せて、窓と向き合う。

「え? なんで? 見たくないよ?」

「どうして? 可愛いの、ちゃんと自覚したら良いよ」

 自分の顔が赤くなるのは自分でわかる。なのに窓に自分が映っている。可愛い容姿だけど見ているのは辛い。恥ずかしい。だからシャルを見ると、シャルは甘く笑んでカレンの唇に唇を重ねた。カレンの体がビクッと揺れる。これが初めてのキスだってシャルは気づいているのだろうか。

「嫌だ?」

 シャルは軽いキスに留め、震えるカレンを抱きしめ、頬に手を添えた。

「嫌じゃないけど、俺、あの、卵産んだ。ごめん、そういうの、するとわかるかなって思うと、怖い」

 シャルの胸の服を握り、震えている。涙が頬を伝う。これは裏切りじゃないのか。勝手にシャルの子を孕んで、別の竜の体を借りて、卵を産んだ。シャルの知らないところで。

「許せない」

 シャルが強い声を出す。カレンはビクッとしてシャルから離れようとした。だがシャルの手が逃さない。

「許せないけど、仕方がないと思うようにした。だってそうだろ? カレンが傍にいない方が辛い」

「でも、許せないんだろ? ……なぁ、本当にシアの子だった? 俺の為に嘘をついていない? だってシア、精子の管理をしていたんだろ? 精は冷たくないってミコトに教えてもらった」

「嘘じゃないよ。精子の管理をしていたのは事実だよ。まだカレンとは長くふたりで居たかったから。それだけの理由だよ。できた卵の精子は、人側に提供したものだろうね。提供する代わりにカレンを探す手伝いをしてもらった。最初に出会う前の話だ。それが残されていて、カレンの中に入れられた。……まぁ、別の竜と交わった訳じゃないから、まだ許せる範囲かな」

 シャルにそう言われて、また怖くなる。許せる範囲を超えている。伝えずにこの先一緒にいることはできないと、カレンは震える体を叱咤して、シャルを見上げた。

「俺、アイに、手伝ってもらった。卵の取り出し方、知ってるだろ?」

 カレンが握り続けているせいで、シャルの服がしわになっている。でも手の力を抜けない。震えが止まらないから。

「シアがいないから! ずっと、シアを呼んでた。シアが良かった。ぜんぶ、ぜんぶ。でもいなかっただろ? でもアイに手伝ってもらった。俺は、自分が許せないけど、許せないから、シアの傍にいて良いのかわからない」

「そんなこと言うな」

 シャルが大きな声を出す。声で驚いたカレンを抱きしめなおす。肩に頬を寄せて、隙間が少しもないようにする。シャルが泣いている。カレンの耳にシャルの小さな息遣いが聞こえている。後悔はカレンだけのものじゃない。シャルも同じ。カレンはそれを知り、手をシャルの背に回した。愛しい。そういう気持ちが胸に迫った。
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