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8 境界を壊す意気込み
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サンドウィッチを両手で持って、少しずつかじって行くミルルを見ている。
やっぱり可愛いなという感想しかない。先週のあの行動が嘘のようだ。
「そういえばマールから聞いたのだが、ミルルには人族の友人がいるらしいね」
「はい」
少し警戒したかな。耳がピクピク動いている。
「相談なんだが、その子に住み込みの仕事をする気はないかな?」
「どうしてですか? なぜ彼を?」
それはそうか。急に人族を雇いたいなど、風俗を想像されても仕方がない。
「いや、南門近くの宿屋兼食堂で住み込みの仕事があってね、冬眠をしない者を探している」
私がそう言うと、ミルルはホッとしたようだ。
「マスターは熊の獣人で、冬眠をする。冬眠の間は奥方の猫の獣人が煮込み料理を出す店だ。私の行き付けの店でね、マールと飲みに行った時に相談されたんだ」
少々の演出はスパイスだ。
ミルルが警戒せず頷けばそれで良い。
「そういうことならユートに聞いてみます」
「ああ、そうして欲しい。もちろん、店での安全は約束する。成人後も相談に乗るし、悪い話ではないと思うよ」
そう言いながら、封筒に入れたバイト料を渡す。
「ありがとうございます。先週もお菓子をたくさんありがとうございました。みんなで楽しく頂きました」
「うん、喜んで貰えたのなら嬉しいよ。今日もこれ、持って帰ってね」
紙袋をふたつ渡した。
「ありがとうございます。でもバイト料を頂いていますから、こういうのは……」
「迷惑? ごめんね、孤児院のこと、良く知らないんだ。ダメなことはきちんと伝えて欲しい」
サンドウィッチをひとつ食べて、お茶を飲んでいる。ふうふうとして、冷ましながら飲むのも可愛い。
「あまり待遇が良いとわかると、いろいろ面倒なことが起こるんです。初めは大丈夫です。でも二度目は少し困ると言うか……」
ミルルのシュンとした表情は、とても胸に痛い。
「ミルル、もしかして孤児院でいじめられてる?」
「いいえ、そんなことはありません」
忙しなく首を振って、さらに落ち込ませてしまった。
「本当に? あのね、ミルル。私は部外者だし、何を聞こうが誰にも話さない。ミルルが話して楽になれたら良いなと思うんだよ。どう? 相談してみない?」
ふるふると首を振られてしまった。
ミルルには踏み込めない境界がある。雇い主と割り切られているからだろう。
「ミルルは、ああいうのは、好きじゃないんだろう? 今は? 強要されてない?」
踏み込ませて貰えないからと、踏み込まずにいれば、いつまで経っても平行線だ。
「いいえ、だいじょうぶです。マールさんとアレスさんのおかげで、別の場所に行けとは言われなくなりました。ありがとうございます」
ペコッと頭を下げられて、ニコッと微笑まれる。社交辞令の笑みだ。
「仕事を強要されることがあるの?」
口ぶりに引っ掛かりを覚える。
毎月ノルマがあるのだろうか。
「いいえ、選択は自分でしています」
「そう」
強要される時もあるのだろう。でなければ、行為をさせる相手の仕事を選ばないと思う。そこはミルルを信じている。
やっぱり可愛いなという感想しかない。先週のあの行動が嘘のようだ。
「そういえばマールから聞いたのだが、ミルルには人族の友人がいるらしいね」
「はい」
少し警戒したかな。耳がピクピク動いている。
「相談なんだが、その子に住み込みの仕事をする気はないかな?」
「どうしてですか? なぜ彼を?」
それはそうか。急に人族を雇いたいなど、風俗を想像されても仕方がない。
「いや、南門近くの宿屋兼食堂で住み込みの仕事があってね、冬眠をしない者を探している」
私がそう言うと、ミルルはホッとしたようだ。
「マスターは熊の獣人で、冬眠をする。冬眠の間は奥方の猫の獣人が煮込み料理を出す店だ。私の行き付けの店でね、マールと飲みに行った時に相談されたんだ」
少々の演出はスパイスだ。
ミルルが警戒せず頷けばそれで良い。
「そういうことならユートに聞いてみます」
「ああ、そうして欲しい。もちろん、店での安全は約束する。成人後も相談に乗るし、悪い話ではないと思うよ」
そう言いながら、封筒に入れたバイト料を渡す。
「ありがとうございます。先週もお菓子をたくさんありがとうございました。みんなで楽しく頂きました」
「うん、喜んで貰えたのなら嬉しいよ。今日もこれ、持って帰ってね」
紙袋をふたつ渡した。
「ありがとうございます。でもバイト料を頂いていますから、こういうのは……」
「迷惑? ごめんね、孤児院のこと、良く知らないんだ。ダメなことはきちんと伝えて欲しい」
サンドウィッチをひとつ食べて、お茶を飲んでいる。ふうふうとして、冷ましながら飲むのも可愛い。
「あまり待遇が良いとわかると、いろいろ面倒なことが起こるんです。初めは大丈夫です。でも二度目は少し困ると言うか……」
ミルルのシュンとした表情は、とても胸に痛い。
「ミルル、もしかして孤児院でいじめられてる?」
「いいえ、そんなことはありません」
忙しなく首を振って、さらに落ち込ませてしまった。
「本当に? あのね、ミルル。私は部外者だし、何を聞こうが誰にも話さない。ミルルが話して楽になれたら良いなと思うんだよ。どう? 相談してみない?」
ふるふると首を振られてしまった。
ミルルには踏み込めない境界がある。雇い主と割り切られているからだろう。
「ミルルは、ああいうのは、好きじゃないんだろう? 今は? 強要されてない?」
踏み込ませて貰えないからと、踏み込まずにいれば、いつまで経っても平行線だ。
「いいえ、だいじょうぶです。マールさんとアレスさんのおかげで、別の場所に行けとは言われなくなりました。ありがとうございます」
ペコッと頭を下げられて、ニコッと微笑まれる。社交辞令の笑みだ。
「仕事を強要されることがあるの?」
口ぶりに引っ掛かりを覚える。
毎月ノルマがあるのだろうか。
「いいえ、選択は自分でしています」
「そう」
強要される時もあるのだろう。でなければ、行為をさせる相手の仕事を選ばないと思う。そこはミルルを信じている。
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