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1 神官見習いのお仕事
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レアロス国、北方にあるフォルセト山を霊峰としたフォルセト神殿は、この世を統べる神、ルフトゥナ神を祀っている。
ウルウ大陸には大小様々な国があり、幾多の戦乱を繰り返し、その数は未だ定まらぬ中、フォルセト神殿への年に一度の参拝は、戦時中であろうとも、国が傾きつつあろうとも、欠かしてはならぬ信仰として根付いている。
一般民の参拝は、外門の外側、貴族は中門、王族は内門、神官は神前、フォルセト神御子となり、初めて聖域に入ることを許される。
フォルセト神殿、神子ユリウスは、ルフトゥナ神の御子とする存在で、決して人前に姿を現さない。だがその絵姿は神殿で販売されており、参拝客の楽しみのひとつになっている。
「この絵姿、めちゃくちゃ美形だけど、本当に実物なのか? 誰も見たことねえんだろ?」
カズ・ロウは、奥部屋から在庫を店先に運びながら、同期のティアに話しかけた。
「そんなん売れりゃ良いのさ」
ティアの返しはテキトーだ。
神殿入り口にある絵姿販売所には、一般参拝者の行列ができている。しかも今期は神子の世代交代がされたばかりだ。この絵姿は初出である。
「(ティアは見たのか?)」
カズが言っているのは、同年の中でティアだけが出席を許された、神子即位式の話だ。
「はいはーい、押さないで、押さないで、まだたくさんありますからねー1枚1000ルピです。(見たけど最後尾のうえ、神子様は御簾の向こうだったよ)」
客には届かない小声で話し、裏に引っ込んでやっと普通の声を出せる。
「御簾? じゃあ体格もわかんねえじゃん」
「即位式の衣装知ってる? 白くて重そうな長い袖と裾のヤツと、チャラチャラした簾が下りた帽子を頭に乗せているんだ。普通の男が着たら誰でも同じだよ」
「ふーん、一応は遠目でも見られたってことか。オーラとかすごかったんだろうな~いいな。せっかく主席取ったのに、出られねえとか。おまえ、運が良いよなぁ」
「なんか、ごめんな」
ティアもカズも今年入ったばかりの神官見習いだ。入って3か月後に神子の即位式が行われた。今年の首席はカズ・ロウ、ティアが今話している相手である。だが一家一名という参加条件があった為、貴族の息子はことごとく出られない。だからカズは出席できず、代わりにティアが出席した。
神官見習いになるには条件がある。
参拝時、参拝帳に参拝記録を付けている、その回数と年数。寄付。人徳。人望など。神官見習い試験に申し込みをした際、その人となりを調べられるのは当然のことだった。
「貴族じゃねえ見習いなんて少ないもんな。っていうか、どんな人徳積んだら貴族以外で見習いになれるのかわかんねえんだけど?」
「あーね、俺もそう思う」
当然のことながら、貴族はお金持ちだ。全部が全部ではないが、一般民に比べればその寄付額は雲泥の差である。時折、貴族以外の者が見習いに選ばれるが、その殆どが見た目である。だがティアは普通だ。まだ13歳だから今後どう変わるかはわからないが、薄い色が高貴とされるこの大陸の基準からすると、ティアは黒髪、黒目で、美しいとされる基準から一番遠い者といえた。
「ティアって普通じゃん。見た目も成績も性格も」
「えー性格も? 俺、良いヤツだぜ?」
奥から運び込まれる姿絵を窓口付近まで運び込みながら、小声でする無駄口だ。監視に来ている上級神官も多少は目こぼししてくれる。
「自分で言う辺り、そんな良いヤツとは言えねえと思うぜ?」
「うーん、まあ、そうか」
良いヤツと言えば、カズである。一般民をゴミ程度にしか思っていない貴族の中で、カズは主席という成績を収め、貴族でも有力な家柄であることも鼻に掛けず、ティアと肩を並べて同じ仕事を文句なく熟している。でもカズは猫かぶりだ。ティアの前だけ乱暴な言葉遣いをする。その他の時はお貴族様よろしく、楚々とした態度をし、表情までもががらりと変わる。その時ばかりはティアも視野に入れない。でもティアはそれで良いと思っている。自分にだって誰にも言えないことはある。誰にも見せられない姿もある。
「そこ、いい加減に私語を慎め!」
「すみません」
ティアは条件反射的に謝ったが、カズは違う。上級神官であってもその家柄で人を見る。カズの睨み上げた表情を見た上級神官は、罰の悪そうな顔でどこかに消えて行った。
「さっさと終わらせて、休憩しようぜ」
「うん」
カズのことは好きだ。他の貴族よりは、だ。
貴族は面倒だと思う。上下関係がはっきりしているからだ。かといって一般民が良い訳でもない。一般民には上限がある。絶対に越えられない領域もある。この世界の最上位になれば息が抜けるのか、それもまた違うらしい。
ウルウ大陸には大小様々な国があり、幾多の戦乱を繰り返し、その数は未だ定まらぬ中、フォルセト神殿への年に一度の参拝は、戦時中であろうとも、国が傾きつつあろうとも、欠かしてはならぬ信仰として根付いている。
一般民の参拝は、外門の外側、貴族は中門、王族は内門、神官は神前、フォルセト神御子となり、初めて聖域に入ることを許される。
フォルセト神殿、神子ユリウスは、ルフトゥナ神の御子とする存在で、決して人前に姿を現さない。だがその絵姿は神殿で販売されており、参拝客の楽しみのひとつになっている。
「この絵姿、めちゃくちゃ美形だけど、本当に実物なのか? 誰も見たことねえんだろ?」
カズ・ロウは、奥部屋から在庫を店先に運びながら、同期のティアに話しかけた。
「そんなん売れりゃ良いのさ」
ティアの返しはテキトーだ。
神殿入り口にある絵姿販売所には、一般参拝者の行列ができている。しかも今期は神子の世代交代がされたばかりだ。この絵姿は初出である。
「(ティアは見たのか?)」
カズが言っているのは、同年の中でティアだけが出席を許された、神子即位式の話だ。
「はいはーい、押さないで、押さないで、まだたくさんありますからねー1枚1000ルピです。(見たけど最後尾のうえ、神子様は御簾の向こうだったよ)」
客には届かない小声で話し、裏に引っ込んでやっと普通の声を出せる。
「御簾? じゃあ体格もわかんねえじゃん」
「即位式の衣装知ってる? 白くて重そうな長い袖と裾のヤツと、チャラチャラした簾が下りた帽子を頭に乗せているんだ。普通の男が着たら誰でも同じだよ」
「ふーん、一応は遠目でも見られたってことか。オーラとかすごかったんだろうな~いいな。せっかく主席取ったのに、出られねえとか。おまえ、運が良いよなぁ」
「なんか、ごめんな」
ティアもカズも今年入ったばかりの神官見習いだ。入って3か月後に神子の即位式が行われた。今年の首席はカズ・ロウ、ティアが今話している相手である。だが一家一名という参加条件があった為、貴族の息子はことごとく出られない。だからカズは出席できず、代わりにティアが出席した。
神官見習いになるには条件がある。
参拝時、参拝帳に参拝記録を付けている、その回数と年数。寄付。人徳。人望など。神官見習い試験に申し込みをした際、その人となりを調べられるのは当然のことだった。
「貴族じゃねえ見習いなんて少ないもんな。っていうか、どんな人徳積んだら貴族以外で見習いになれるのかわかんねえんだけど?」
「あーね、俺もそう思う」
当然のことながら、貴族はお金持ちだ。全部が全部ではないが、一般民に比べればその寄付額は雲泥の差である。時折、貴族以外の者が見習いに選ばれるが、その殆どが見た目である。だがティアは普通だ。まだ13歳だから今後どう変わるかはわからないが、薄い色が高貴とされるこの大陸の基準からすると、ティアは黒髪、黒目で、美しいとされる基準から一番遠い者といえた。
「ティアって普通じゃん。見た目も成績も性格も」
「えー性格も? 俺、良いヤツだぜ?」
奥から運び込まれる姿絵を窓口付近まで運び込みながら、小声でする無駄口だ。監視に来ている上級神官も多少は目こぼししてくれる。
「自分で言う辺り、そんな良いヤツとは言えねえと思うぜ?」
「うーん、まあ、そうか」
良いヤツと言えば、カズである。一般民をゴミ程度にしか思っていない貴族の中で、カズは主席という成績を収め、貴族でも有力な家柄であることも鼻に掛けず、ティアと肩を並べて同じ仕事を文句なく熟している。でもカズは猫かぶりだ。ティアの前だけ乱暴な言葉遣いをする。その他の時はお貴族様よろしく、楚々とした態度をし、表情までもががらりと変わる。その時ばかりはティアも視野に入れない。でもティアはそれで良いと思っている。自分にだって誰にも言えないことはある。誰にも見せられない姿もある。
「そこ、いい加減に私語を慎め!」
「すみません」
ティアは条件反射的に謝ったが、カズは違う。上級神官であってもその家柄で人を見る。カズの睨み上げた表情を見た上級神官は、罰の悪そうな顔でどこかに消えて行った。
「さっさと終わらせて、休憩しようぜ」
「うん」
カズのことは好きだ。他の貴族よりは、だ。
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