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6 差別
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図書室で過去の神子の記録を見る。けれどどこを探しても、個人の情報は載っていなかった。当然かと本を棚に戻す。
さっきから方々の視線が気になる。そちらを見れば、誰も見ていない。気のせいかと思うけど、何度もそれを感じ、ティアには知らされない何かがあるのだと思った。
孤立はいつものことだ。
ついには仕事も与えられず、勉学の講義に行けばドアが内側から施錠されていて入れない。教師の入る前方のドアは開いていると思うけど、そこまでして受ける意味がティアにはなかった。
望んで入った神官見習いではない。試験も受けていない。文字が読めるようになったのは、神官見習いになる三ヶ月前のこと。同期の神官見習いたちが神殿に入る前に、ティアだけ特別授業を受けたからだ。そこで神官見習いになる最低条件を身につけさせられた、とても苦しい三ヶ月だった。
別に庶民のまま、路地裏で荷運びの仕事とか、買い物の仕事などをして稼ぎ、寝る場所、食べることが出来れば満足だと思っていた。
神殿に来なければ、ユリウスが神子になったことも知らず、捨てられたっていう想いは強く残ったかもしれないけど、そんなのどこにだっている。強く生きて、そのうち小さな幸せを手に出来たかもしれない。
ユリウスが好きだ。あんなに優しい人はいない。だから神子になってしまったのは仕方がないから、その先に幸せが待っていれば良いと願っていた。
神子は女性との婚姻が認められない。その血を後世に残してはいけないからだ。神子は権力者のもの。その地位を確固とするものだ。
だからせめて良い男の側にいて欲しいと願った。ユリウスを幸せにしてくれる愛情深い者の側に。
「カズ」
廊下の先にカズを見つけて駆け寄ろうとしたら、無視をされた。当然かと思う。普段だって仕事先が販売所という神殿から遠い位置の時しか話をしていない。講義中も廊下でだって一度も目が合ったことがない。なぜ話しかけようとしてしまったのか、弱い自分を恥じた。
噴水の奥に行くと、カズが後から来た。
「ごめん、迷惑をかけた」
カズは噴水の奥、蔓薔薇の陰に身を寄せ、ティアを引き寄せた。耳の側にカズの顔がある。完全に内緒話の位置に、何を言われるのかと怖くなる。
「上位神官からお叱りを受けたんだろ? なのに痕が綺麗に消えているって噂になってる。おまえ庶民どころか、鬼か悪魔かって噂されてる。俺は別にどうだって良いが、俺の経歴に傷を付けて欲しくない。それだけだ」
肩がぶつかる。勢いで蔓薔薇の柵に手をついたが、カズは振り返りもしなかった。蔓薔薇の棘が手のひらに食い込む。手を上げれば、棘が刺さったままだ。噴水の脇に座り、棘を抜く。
「鬼か悪魔かって、鬼人もいるのに」
神官は人しかいない。神の姿も人だ。他種族は人との混血で、人よりも地位が低く見られる。というのは人の考え方で、他種族は力を誇る。妖精族はまた別次元の者で、人よりは神に近い存在で、また違う意味合いを持っている。
前世の記憶の中には人しかいなかったから、この世界が不思議だ。裏道の隅で暮らしていた時も、人の住む街だったから、他種族は少なかった。でも差別は見た。鬼人や獣人は特に敬遠される。宿に泊まれなかったり、食堂に入れなかったりしていた。
だから皆、地位を求める。獣人も鬼人も、由緒ある家柄であれば、たとえ悪人だろうと受け入れられる。受け入れる側に義務が生じるからだ。
ユリウスはバカだ。地位はこの世界で一番重要なものだ。貴族であれば許されることがたくさんある。
ティアのことなど忘れてしまえば良かったんだ。
さっきから方々の視線が気になる。そちらを見れば、誰も見ていない。気のせいかと思うけど、何度もそれを感じ、ティアには知らされない何かがあるのだと思った。
孤立はいつものことだ。
ついには仕事も与えられず、勉学の講義に行けばドアが内側から施錠されていて入れない。教師の入る前方のドアは開いていると思うけど、そこまでして受ける意味がティアにはなかった。
望んで入った神官見習いではない。試験も受けていない。文字が読めるようになったのは、神官見習いになる三ヶ月前のこと。同期の神官見習いたちが神殿に入る前に、ティアだけ特別授業を受けたからだ。そこで神官見習いになる最低条件を身につけさせられた、とても苦しい三ヶ月だった。
別に庶民のまま、路地裏で荷運びの仕事とか、買い物の仕事などをして稼ぎ、寝る場所、食べることが出来れば満足だと思っていた。
神殿に来なければ、ユリウスが神子になったことも知らず、捨てられたっていう想いは強く残ったかもしれないけど、そんなのどこにだっている。強く生きて、そのうち小さな幸せを手に出来たかもしれない。
ユリウスが好きだ。あんなに優しい人はいない。だから神子になってしまったのは仕方がないから、その先に幸せが待っていれば良いと願っていた。
神子は女性との婚姻が認められない。その血を後世に残してはいけないからだ。神子は権力者のもの。その地位を確固とするものだ。
だからせめて良い男の側にいて欲しいと願った。ユリウスを幸せにしてくれる愛情深い者の側に。
「カズ」
廊下の先にカズを見つけて駆け寄ろうとしたら、無視をされた。当然かと思う。普段だって仕事先が販売所という神殿から遠い位置の時しか話をしていない。講義中も廊下でだって一度も目が合ったことがない。なぜ話しかけようとしてしまったのか、弱い自分を恥じた。
噴水の奥に行くと、カズが後から来た。
「ごめん、迷惑をかけた」
カズは噴水の奥、蔓薔薇の陰に身を寄せ、ティアを引き寄せた。耳の側にカズの顔がある。完全に内緒話の位置に、何を言われるのかと怖くなる。
「上位神官からお叱りを受けたんだろ? なのに痕が綺麗に消えているって噂になってる。おまえ庶民どころか、鬼か悪魔かって噂されてる。俺は別にどうだって良いが、俺の経歴に傷を付けて欲しくない。それだけだ」
肩がぶつかる。勢いで蔓薔薇の柵に手をついたが、カズは振り返りもしなかった。蔓薔薇の棘が手のひらに食い込む。手を上げれば、棘が刺さったままだ。噴水の脇に座り、棘を抜く。
「鬼か悪魔かって、鬼人もいるのに」
神官は人しかいない。神の姿も人だ。他種族は人との混血で、人よりも地位が低く見られる。というのは人の考え方で、他種族は力を誇る。妖精族はまた別次元の者で、人よりは神に近い存在で、また違う意味合いを持っている。
前世の記憶の中には人しかいなかったから、この世界が不思議だ。裏道の隅で暮らしていた時も、人の住む街だったから、他種族は少なかった。でも差別は見た。鬼人や獣人は特に敬遠される。宿に泊まれなかったり、食堂に入れなかったりしていた。
だから皆、地位を求める。獣人も鬼人も、由緒ある家柄であれば、たとえ悪人だろうと受け入れられる。受け入れる側に義務が生じるからだ。
ユリウスはバカだ。地位はこの世界で一番重要なものだ。貴族であれば許されることがたくさんある。
ティアのことなど忘れてしまえば良かったんだ。
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