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21 身受け候補
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まるで王座のようだとティアは思った。
ティアは高い位置の椅子に座っている。見下ろす先に階段が続き、30段はあろう下に広い部屋が広がっている。朱塗りの部屋の左右には白い障子が続いている。
ティアの案内される部屋はことごとく和だ。過去の記憶の中にある日本の神社に近い。ティアの過去の記憶の中の神社も曖昧なもので、お正月の初詣とか夏祭り、受験の祈祷に行ったことがあるくらいか。それでもその記憶を刺激されるくらい、目の前の物に覚えがあった。
床に椅子が並んでいる。
その椅子に座る者、それらがティアを5年後、身受けする候補だ。
候補たちの表情がわかる。遠いのに、感覚でわかるのは、体が神に近い存在になっているからだろうか。
彼らの驚愕が伝わって来る。そしてその驚愕の先に、兄の姿があった。
あの日と何一つ変わらない美しさのまま、椅子の一つに座り、凛とした表情で前を向いている。
候補者は5名、兄のユリウス、獣人アシュ・ロネ、妖精サヴィナ、竜人ディーン、レアロス国王子シヴァ・レアロス。兄が鬼人国を名乗り、来ていることは感覚の内でわかっている。姿は兄だが、中身は鬼人ということなのだろう。
「誰を選ぶの?」
頭の中に天の声が聞こえる。
もう本当に狂っているとしか思えない。
これが天啓だというのなら、神子は頭のおかしな狂人に違いなかった。
「選ぶ?」
ティアは言葉でなく、考えで天の声に答える。
「ええ、選ぶのですよ」
「何をさせるつもりですか?」
そう問えば、声は高らかな笑みになった。
感覚で伝わる。
代々の神子がその体を神に与え、何をさせられて来たのか。
なぜアシュが、あそこまで申し訳なさそうに謝って来たのか。
「誰がお好きですか?」
天の声に問う。
「そうね、みんな美形で嬉しいけれど、見知った顔も多いわね」
「この人選は神様ではないのですか」
ティアがそう問えば、天の声は笑う。
「わかりました。神様に委ねます。僕には選べません。神様の楽しみも奪えませんし」
ティアには良くわかった。神はティアを使い、楽しんでいる。楽しみ、その楽しさの度合いで、人の世への干渉度を変えている。神を怒らせれば災害に、神を喜ばせれば実りに。まるでゲームのようだと思った。
◇◇◇
湯殿を使う。
神官に体を洗われるのにも慣れた。
体が神子になってから、本当に食事もトイレもいらなくなった。顔を隠さなくても、神官には神子がどんな顔をしていたのか、記憶に残らないらしい。
部屋は普通だった。
部屋もまた選べるのかもしれないが、この日、案内されたのは、洋風の部屋で、真ん中に天蓋付きのベッドがあり、その脇にソファセットがある。大窓が開かれていて、外に庭が見える。
神殿の中にこんな場所はない。
聖域と同じように、半分幻の部屋なのだろう。
ベッドに座り、待つ。
できれば逆の立場の方が良かったなと思う。
すでに部屋に入った時に、相手が待っていてくれたら、こんなにドキドキすることはないから。
「これはどこまで神の意志なのですか?」
心の中で問えば、天からの声が聞こえて来る。
「ぜんぶ、あなたよ」
「あなたに乗っ取られる訳ではないのですね」
「違うわ」
ということは、神に覗き見されている状況ということだ。しかも最中にチャチャが入るかもしれない状況。しかもそれを相手に知られることはない。まるでティアが望んでいるように見えるかもしれない。
「あまり高度な要求はおやめください。部屋にふたりきりになることさえ初めてなのですから」
成人を迎えてすぐにこんな状況になるとは思わなかった。
神子になった時にいろいろ諦めた。諦めはしたけど、まさかこういう状況が神子の務めだとは考えもしなかった。しかも身受け候補全員と、いつかは体を重ねなければならない。
アシュが7日に一度、神殿に通っていたことを思い出す。
それは兄とこういう行為を繰り返していたということだ。
そう思い、考えなければ良かったと、ティアは後悔した。
ティアは高い位置の椅子に座っている。見下ろす先に階段が続き、30段はあろう下に広い部屋が広がっている。朱塗りの部屋の左右には白い障子が続いている。
ティアの案内される部屋はことごとく和だ。過去の記憶の中にある日本の神社に近い。ティアの過去の記憶の中の神社も曖昧なもので、お正月の初詣とか夏祭り、受験の祈祷に行ったことがあるくらいか。それでもその記憶を刺激されるくらい、目の前の物に覚えがあった。
床に椅子が並んでいる。
その椅子に座る者、それらがティアを5年後、身受けする候補だ。
候補たちの表情がわかる。遠いのに、感覚でわかるのは、体が神に近い存在になっているからだろうか。
彼らの驚愕が伝わって来る。そしてその驚愕の先に、兄の姿があった。
あの日と何一つ変わらない美しさのまま、椅子の一つに座り、凛とした表情で前を向いている。
候補者は5名、兄のユリウス、獣人アシュ・ロネ、妖精サヴィナ、竜人ディーン、レアロス国王子シヴァ・レアロス。兄が鬼人国を名乗り、来ていることは感覚の内でわかっている。姿は兄だが、中身は鬼人ということなのだろう。
「誰を選ぶの?」
頭の中に天の声が聞こえる。
もう本当に狂っているとしか思えない。
これが天啓だというのなら、神子は頭のおかしな狂人に違いなかった。
「選ぶ?」
ティアは言葉でなく、考えで天の声に答える。
「ええ、選ぶのですよ」
「何をさせるつもりですか?」
そう問えば、声は高らかな笑みになった。
感覚で伝わる。
代々の神子がその体を神に与え、何をさせられて来たのか。
なぜアシュが、あそこまで申し訳なさそうに謝って来たのか。
「誰がお好きですか?」
天の声に問う。
「そうね、みんな美形で嬉しいけれど、見知った顔も多いわね」
「この人選は神様ではないのですか」
ティアがそう問えば、天の声は笑う。
「わかりました。神様に委ねます。僕には選べません。神様の楽しみも奪えませんし」
ティアには良くわかった。神はティアを使い、楽しんでいる。楽しみ、その楽しさの度合いで、人の世への干渉度を変えている。神を怒らせれば災害に、神を喜ばせれば実りに。まるでゲームのようだと思った。
◇◇◇
湯殿を使う。
神官に体を洗われるのにも慣れた。
体が神子になってから、本当に食事もトイレもいらなくなった。顔を隠さなくても、神官には神子がどんな顔をしていたのか、記憶に残らないらしい。
部屋は普通だった。
部屋もまた選べるのかもしれないが、この日、案内されたのは、洋風の部屋で、真ん中に天蓋付きのベッドがあり、その脇にソファセットがある。大窓が開かれていて、外に庭が見える。
神殿の中にこんな場所はない。
聖域と同じように、半分幻の部屋なのだろう。
ベッドに座り、待つ。
できれば逆の立場の方が良かったなと思う。
すでに部屋に入った時に、相手が待っていてくれたら、こんなにドキドキすることはないから。
「これはどこまで神の意志なのですか?」
心の中で問えば、天からの声が聞こえて来る。
「ぜんぶ、あなたよ」
「あなたに乗っ取られる訳ではないのですね」
「違うわ」
ということは、神に覗き見されている状況ということだ。しかも最中にチャチャが入るかもしれない状況。しかもそれを相手に知られることはない。まるでティアが望んでいるように見えるかもしれない。
「あまり高度な要求はおやめください。部屋にふたりきりになることさえ初めてなのですから」
成人を迎えてすぐにこんな状況になるとは思わなかった。
神子になった時にいろいろ諦めた。諦めはしたけど、まさかこういう状況が神子の務めだとは考えもしなかった。しかも身受け候補全員と、いつかは体を重ねなければならない。
アシュが7日に一度、神殿に通っていたことを思い出す。
それは兄とこういう行為を繰り返していたということだ。
そう思い、考えなければ良かったと、ティアは後悔した。
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