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22 初伽
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その者が部屋に入って来た時、ティアは神を恨みたくなった。
先ほどの思考を読まれ、ティアが一番嫌だと思う相手を用意された。
「ティア」
ドアを開け、足早に近づいて来る。
抱き締められ、懐かしさを覚える。
たった数日前、抱き締められたばかりだ。それなのにもう懐かしい。
「コハクと一緒に来ましたか?」
「ああ、神殿の裏にいる。合わせてやれないのが残念だ」
背中に手を回し、ぬくもりを頬に感じる。
兄がいた、ティアの身受け候補として。
「……兄がいました」
「ああ、そうだな」
アシュの手が、長くなったティアの髪を撫でている。
「入り口までエインがいた。あれは見目とは違う者だ」
「……そうですね。兄の温かさが少しも感じられませんでした」
「ティア」
頬に手を置かれ、顔を上げさせられる。
アシュの青い瞳がティアを見下ろしている。
「私を嫌いになるか?」
ティアは青い瞳をじっと見上げ、緩く首を振った。
これは義務だ。神に課せられた試練だ。
そう思うのに、心の中に閉じ込めたものが、溢れそうになっている。
「抱いてください、アシュ様、僕の初めてを、奪ってください」
ティアがそう言うと、アシュは痛い表情をして、細い体を抱き上げ、ベッドに押し倒した。
緩く口づけされる。
ああ、これが口づけというものかと、ティアは遠い感覚で思った。
「綺麗だ、ティア」
頬に口づけられ、首筋を通り、着物をはだけられ、胸元に落ちる。
「声を出すものですよ」
と、天の声が聞こえる。
ため息を吐きたくなるから、やめて欲しいと思う。
「くすぐったい、アシュ」
声なんてどう出して良いのかわからない。こういう指南役も本当ならいたのかもしれない。相手を楽しませる手管を知らないティアはどうして良いのかわからない。下手に天の声が入って来るから、どう集中して良いのかも、わからない。
「服を脱いで、アシュ」
服は神子が脱がせるものですよ、と、天の声が聞こえる。そんなのティアには難しい。男の人の軍服を脱がせたことなんてない。兄はこの人とどう交わったのだろうか、そんな嫌な思いも胸にある。
アシュがティアの体にキスを落しながら、服を脱いで行く。露わになる肌に、ティアはときめいた。
「綺麗な筋肉だ」
アシュの胸筋から腹筋へと撫でて行く。ぼこぼことした感触と、肌の滑らかな感触。触れる場所に力が入り、筋肉が硬くなる。そのまま手を下ろして行き、勃っているものに手を伸ばす。
「そんなことはしなくて良い」
手をアシュに掴まれ、指先を口に含まれた。
目の前の光景に喉を鳴らす。とても刺激的な光景に、やっとティアの中に欲望が芽生えた。
「アシュ、もっと」
キスをねだる。
アシュはすぐに望みを叶えてくれた。
「本当に、弟を抱くのですか?」
窓際から声が聞こえて来る。
光の中に見えるシルエット。声で誰だかくらいすぐにわかる。
アシュは手を止め、苦しい表情を窓の方へ向けていた。
ティアの中に嫉妬が湧く。
「ひどい、神様、これはない」
頭の中で神に抗議した。でも答えは返って来ない。
シルエットだった人物が、中に入って来て、ベッドに座る。
さらっと風に髪が靡く。
「私を抱いた手で、弟を抱くのですか?」
涙が溢れた。
これは兄の姿をした、兄ではない者だ。
でも全てが、声も、仕草も、表情も、言葉遣いさえ、兄だ。かつてアシュが愛したユリウスだ。
「……こんなの、ない。いやだ、いやだよ、兄さま」
声を上げれば嗚咽と混じる。
アシュは服を着直し、ベッドから外へ足を下ろした。でもまだベッドに座っているのは、この時間、ティアを抱くことを神に命じられているからだ。
神からの最低なお題は、兄の前でアシュに初めてを捧げること。
でもアシュにもうその気はない。
「神の意を叶えなければ、今度はどこが崩れ落ちるのでしょうね」
兄の声が聞こえる。
静かな、それでいて楽しむような声が。
「アシュ、ごめんなさい。僕ではあなたをその気にさせることができません。ごめんなさい、僕が神子になってしまったから、アシュをまた苦しめてしまいました」
涙が止まらない。子どものように嗚咽を交えて泣く。こんなの子どものままだとティアは悲しい。
兄には何一つ敵わない。
兄はきっと微笑みひとつでアシュをその気にさせることができる。
視線だけで、吐息だけで、全てを奪うことができる。
先ほどの思考を読まれ、ティアが一番嫌だと思う相手を用意された。
「ティア」
ドアを開け、足早に近づいて来る。
抱き締められ、懐かしさを覚える。
たった数日前、抱き締められたばかりだ。それなのにもう懐かしい。
「コハクと一緒に来ましたか?」
「ああ、神殿の裏にいる。合わせてやれないのが残念だ」
背中に手を回し、ぬくもりを頬に感じる。
兄がいた、ティアの身受け候補として。
「……兄がいました」
「ああ、そうだな」
アシュの手が、長くなったティアの髪を撫でている。
「入り口までエインがいた。あれは見目とは違う者だ」
「……そうですね。兄の温かさが少しも感じられませんでした」
「ティア」
頬に手を置かれ、顔を上げさせられる。
アシュの青い瞳がティアを見下ろしている。
「私を嫌いになるか?」
ティアは青い瞳をじっと見上げ、緩く首を振った。
これは義務だ。神に課せられた試練だ。
そう思うのに、心の中に閉じ込めたものが、溢れそうになっている。
「抱いてください、アシュ様、僕の初めてを、奪ってください」
ティアがそう言うと、アシュは痛い表情をして、細い体を抱き上げ、ベッドに押し倒した。
緩く口づけされる。
ああ、これが口づけというものかと、ティアは遠い感覚で思った。
「綺麗だ、ティア」
頬に口づけられ、首筋を通り、着物をはだけられ、胸元に落ちる。
「声を出すものですよ」
と、天の声が聞こえる。
ため息を吐きたくなるから、やめて欲しいと思う。
「くすぐったい、アシュ」
声なんてどう出して良いのかわからない。こういう指南役も本当ならいたのかもしれない。相手を楽しませる手管を知らないティアはどうして良いのかわからない。下手に天の声が入って来るから、どう集中して良いのかも、わからない。
「服を脱いで、アシュ」
服は神子が脱がせるものですよ、と、天の声が聞こえる。そんなのティアには難しい。男の人の軍服を脱がせたことなんてない。兄はこの人とどう交わったのだろうか、そんな嫌な思いも胸にある。
アシュがティアの体にキスを落しながら、服を脱いで行く。露わになる肌に、ティアはときめいた。
「綺麗な筋肉だ」
アシュの胸筋から腹筋へと撫でて行く。ぼこぼことした感触と、肌の滑らかな感触。触れる場所に力が入り、筋肉が硬くなる。そのまま手を下ろして行き、勃っているものに手を伸ばす。
「そんなことはしなくて良い」
手をアシュに掴まれ、指先を口に含まれた。
目の前の光景に喉を鳴らす。とても刺激的な光景に、やっとティアの中に欲望が芽生えた。
「アシュ、もっと」
キスをねだる。
アシュはすぐに望みを叶えてくれた。
「本当に、弟を抱くのですか?」
窓際から声が聞こえて来る。
光の中に見えるシルエット。声で誰だかくらいすぐにわかる。
アシュは手を止め、苦しい表情を窓の方へ向けていた。
ティアの中に嫉妬が湧く。
「ひどい、神様、これはない」
頭の中で神に抗議した。でも答えは返って来ない。
シルエットだった人物が、中に入って来て、ベッドに座る。
さらっと風に髪が靡く。
「私を抱いた手で、弟を抱くのですか?」
涙が溢れた。
これは兄の姿をした、兄ではない者だ。
でも全てが、声も、仕草も、表情も、言葉遣いさえ、兄だ。かつてアシュが愛したユリウスだ。
「……こんなの、ない。いやだ、いやだよ、兄さま」
声を上げれば嗚咽と混じる。
アシュは服を着直し、ベッドから外へ足を下ろした。でもまだベッドに座っているのは、この時間、ティアを抱くことを神に命じられているからだ。
神からの最低なお題は、兄の前でアシュに初めてを捧げること。
でもアシュにもうその気はない。
「神の意を叶えなければ、今度はどこが崩れ落ちるのでしょうね」
兄の声が聞こえる。
静かな、それでいて楽しむような声が。
「アシュ、ごめんなさい。僕ではあなたをその気にさせることができません。ごめんなさい、僕が神子になってしまったから、アシュをまた苦しめてしまいました」
涙が止まらない。子どものように嗚咽を交えて泣く。こんなの子どものままだとティアは悲しい。
兄には何一つ敵わない。
兄はきっと微笑みひとつでアシュをその気にさせることができる。
視線だけで、吐息だけで、全てを奪うことができる。
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