レアロス国の神子 〜転生したら美形な神子の弟でした〜

サクラギ

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35 本心

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「喜んでいたじゃない」

 眠る意識の中に、天の声が響く。

「神子になることを喜んでいたでしょう」

「違う、違う、僕は喜んでいない、勝手に神子にされて、ただ流されて来ただけだ」

 言葉では抗うが、心の中では違う。
 神は嘘をつかない。
 隠し事はするけど、嘘を言うことはない。

 喜んでいた。心の奥底で。
 兄に勝ったと、兄を好きなアシュが、ティアを見てくれるかもしれないと。
 神と人との間に立ち、なにものでもなかった自分が優位に立てる。
 ただの庶民と蔑まされていたのに、誰からも傅かれ、敬われる。
 黒髪黒目の異質な存在じゃなく、兄のように、薄い彩の美形として、誰からも美しいと言われる。

 そんな気持ちが心の奥底にあった。

 醜い感情。ティアの本来の姿だ。

「大丈夫、私はわかっています。あなたがどうしたいのか、どうなりたいのか。私に身を委ねていれば良いのです」

 温かな空気が身を包む。
 ゆったりとしたものが体の中に浸透して来る。
 ずっとこの場所から離れたくないような、安らかなものがティアを包んでいた。

 愛されたい。
 愛されたい。

 それがティアの心の底に隠されていた気持ちだ。

 兄のように。
 誰からも好かれ、愛される存在になりたいのに、ティアは心が汚れている。不満ばかりが溜まっていて、昇華できないものが黒く淀んで腹の底に溜まっている。

 兄になりたい。
 アシュが欲しい。

 そればかりを想う2年間。
 それが神の気を惹き、神子に変化させたのかもしれない。

 神にとって禍々しきものは半身だ。
 表裏一体。それが真理。

「私に尽くしなさい」

 ティアは泣いた。
 自分の中に押さえ込んだ気持ちを抱え、ただ、温かな空間に包まれ、静かに、目を閉じている。

「あなたに意志はいらない」

「私の神子」


◇◇◇


 目覚めた時、心の中に凪を感じた。
 最初の禊の滝に入り、祈祷を受ける。
 会議に出席し、部屋に籠る。
 定期的に聖域へ行き、神との対話を諮った。

 1年、身受け候補とは会わず、会うための部屋にも行かず、世俗とは遠い生活を送るうちに、ティアは成長をした。

 元々、人として成長期であるが、神子なのでそれは望めないのかと思っていたが、ティアは思う。この姿こそ神が望む姿なのだと。

 背が少し伸びた。線は細いまま。髪は腰まで伸び、健康的な艶を持つ。少し大人びた表情と、憂い。子供じみた態度が無くなったぶん、口数が減り、アンニュイさを感じさせる視点の定まらない表情。問いかけに数秒遅れて答える危うさ。昔の兄と似た容姿ではあるが、まったく違う。兄は優しさを称え、誰にも好かれる明るさを持つ美形だったが、ティアは儚く頼りなげで陰を持つ美形と生まれ変わった。

 神子になって2年が経った。
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