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1章
8 寝支度
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風呂から上がりリビングへ行くと、ソファではなく床に正座をするニアがいた。しかも髪が濡れたまま、少し震えている。近づき髪に触れたら、ニアがビクッとして硬直した。
「髪が冷たいよ。やはり浴槽がないと温まらないね」
手を引いて立たせようとしたら、手を振り払われた。俯いて震えている。これはあれだ、シャワーを終えて手を引かれるというのは、夜のお誘いと等しいのか。
「何もしないよ、おいで」
手を引くのを諦めて、態度で着いて来てとした。反応が酷だ。いちいち何をされるのかと怯えて、行動一つに覚悟を決めて従っていると分かる。でも仕方がない。背中や太もも内側の傷や火傷痕、肛門に裂傷まであるというのだ。いかに今まで酷い扱いを受けて来たのかわかる。人に怯えを持つのも仕方がない。ゆっくり時間を掛けて信じて貰うしかないのだろう。
志津木の自室にニアを通して、残り湯だがニアを入れる事にする。目の前で寒さで震えられるのは見ていて辛い。でも浴室に連れ込んだ事実はよりニアを怯えさせた。たぶん毛があれば逆立てていただろうし、尾があれば股に入れ込んでいたかもしれない。
「何もしないよ。湯で温まって欲しいだけだよ」
服を脱がせる。正直楽しい。大型の着せ替え人形だ。ただ警戒心の強い。裸にさせ手を引いて、今度は拒否られなかった事に内心で笑んで、ニアを湯船に入れた。肩まで浸からせると、湯の温度を上げる機能が動く。どれだけ体を冷やしていたのかと思う。
「温まったら出ておいで、タオルを置いておくから、きちんと体を拭いて、服を着て出て来るんだよ?」
「はい」
湯船の中で体を硬くして、足を抱えて座っている。これも志津木が浴室を出た瞬間に足を伸ばしていた。閉まる瞬間に観察してしまった。あれを目の前でしてくれたら、すごく嬉しくなるんだろう。野良猫がどんどん懐いてくれるのを見守るように。
洗面台で髪を乾かしていると、ニアが出て来た。磨りガラスの向こう側で体を拭いているのがわかる。言いつけ通り、体を拭いて、服を着て、出て来た。手には湿ったタオルがあるから受け取る。
「ありがとうございました」
ほんのりと朱を帯びた頬が可愛い。十分に温まったのが分かるのが嬉しい。
「ここに座って」
洗面台の前の丸椅子にニアを座らせ、ドライヤーを付けると、ニアは慌てて立とうとした。
「いいから、座って」
肩に手を置き、座らせる。恋人にもやった事のない行動をする自分を、志津木は滑稽に思った。
ニアの長めのショートに切り揃えられた黒髪に指を通し、梳きながら乾かして行く。そういえば弟の髪を乾かした事もあったと思い出し、懐かしくなる。他人と生活なんて絶対に無理だと思っていたが、過去を思い出せば家族と暮らしていた。農家の奉公人も暮らす大人数の中で、日常を暮らしていたなど、今では微塵も考えられなかったのに。
「これくらいで良いかな?」
ふわふわの髪を櫛でといて、仕上げにオイルを付けてやる。
「ありがとうございます」
すぐに立ち上がったニアは数歩の距離を取った。
「私が、しましょうか?」
半乾きの髪を乾かそうとしたら、ニアにそう言われ、鏡越しに視線を合わせた。ふるふるっと首を振る。しゅんとしたニアを見て、笑みを漏らした。
「ありがとう、大丈夫だよ。ニアはキッチンに行って、お水飲む? 終わったら部屋に戻って歯を磨いて寝る準備をしなさい」
「はい」
従順に頷き、ゆっくり踵を返し、部屋を出てから行動を早めているのを見て、猫っぽいのか犬っぽいのか、どっちだろうかと考える。
「髪が冷たいよ。やはり浴槽がないと温まらないね」
手を引いて立たせようとしたら、手を振り払われた。俯いて震えている。これはあれだ、シャワーを終えて手を引かれるというのは、夜のお誘いと等しいのか。
「何もしないよ、おいで」
手を引くのを諦めて、態度で着いて来てとした。反応が酷だ。いちいち何をされるのかと怯えて、行動一つに覚悟を決めて従っていると分かる。でも仕方がない。背中や太もも内側の傷や火傷痕、肛門に裂傷まであるというのだ。いかに今まで酷い扱いを受けて来たのかわかる。人に怯えを持つのも仕方がない。ゆっくり時間を掛けて信じて貰うしかないのだろう。
志津木の自室にニアを通して、残り湯だがニアを入れる事にする。目の前で寒さで震えられるのは見ていて辛い。でも浴室に連れ込んだ事実はよりニアを怯えさせた。たぶん毛があれば逆立てていただろうし、尾があれば股に入れ込んでいたかもしれない。
「何もしないよ。湯で温まって欲しいだけだよ」
服を脱がせる。正直楽しい。大型の着せ替え人形だ。ただ警戒心の強い。裸にさせ手を引いて、今度は拒否られなかった事に内心で笑んで、ニアを湯船に入れた。肩まで浸からせると、湯の温度を上げる機能が動く。どれだけ体を冷やしていたのかと思う。
「温まったら出ておいで、タオルを置いておくから、きちんと体を拭いて、服を着て出て来るんだよ?」
「はい」
湯船の中で体を硬くして、足を抱えて座っている。これも志津木が浴室を出た瞬間に足を伸ばしていた。閉まる瞬間に観察してしまった。あれを目の前でしてくれたら、すごく嬉しくなるんだろう。野良猫がどんどん懐いてくれるのを見守るように。
洗面台で髪を乾かしていると、ニアが出て来た。磨りガラスの向こう側で体を拭いているのがわかる。言いつけ通り、体を拭いて、服を着て、出て来た。手には湿ったタオルがあるから受け取る。
「ありがとうございました」
ほんのりと朱を帯びた頬が可愛い。十分に温まったのが分かるのが嬉しい。
「ここに座って」
洗面台の前の丸椅子にニアを座らせ、ドライヤーを付けると、ニアは慌てて立とうとした。
「いいから、座って」
肩に手を置き、座らせる。恋人にもやった事のない行動をする自分を、志津木は滑稽に思った。
ニアの長めのショートに切り揃えられた黒髪に指を通し、梳きながら乾かして行く。そういえば弟の髪を乾かした事もあったと思い出し、懐かしくなる。他人と生活なんて絶対に無理だと思っていたが、過去を思い出せば家族と暮らしていた。農家の奉公人も暮らす大人数の中で、日常を暮らしていたなど、今では微塵も考えられなかったのに。
「これくらいで良いかな?」
ふわふわの髪を櫛でといて、仕上げにオイルを付けてやる。
「ありがとうございます」
すぐに立ち上がったニアは数歩の距離を取った。
「私が、しましょうか?」
半乾きの髪を乾かそうとしたら、ニアにそう言われ、鏡越しに視線を合わせた。ふるふるっと首を振る。しゅんとしたニアを見て、笑みを漏らした。
「ありがとう、大丈夫だよ。ニアはキッチンに行って、お水飲む? 終わったら部屋に戻って歯を磨いて寝る準備をしなさい」
「はい」
従順に頷き、ゆっくり踵を返し、部屋を出てから行動を早めているのを見て、猫っぽいのか犬っぽいのか、どっちだろうかと考える。
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